第11話 最終話




 その後、俺たちの足元には吸血の魔物を倒して出来た山のような魔石が転がった。そして目の前には、ブラッシングでつやつやご満悦の聖獣様の姿があった。


「あ~~なんか、これでもう大丈夫かもな……」


 俺の言葉にアルも頷いた。


「ああ。そうだな。だが、まさか吸血の魔物のせいで聖獣が暴れて地下から有害な液体が流れ込んでいたなんて……信じられないな」


 俺は、ブラッシングされてご機嫌な聖獣を見ながら尋ねた。


「ねぇ聖獣様。生贄って必要ですか?」


 すると聖獣は「生贄など必要ない。遠くの村に逃がすのが面倒だ」と言った。どうやら聖獣も生贄を捧げられるのは困るようだった。


「では聖獣様はこれまで生贄を逃がしていたのですか?」


 アルの問いかけに聖獣が答えた。


「ああ。生贄として来た者たちは村には戻れないと言っていたからな」

「そうですか。よかった!! それでは聖獣様。お元気で」


 俺たちが帰ろうとすると、聖獣が俺たちを見ながら言った。


「おい、どこに行くのだ?!」

「え? 解決したようだから、山を降りようかと」


 俺の言葉を聞いた聖獣が焦ったように言った。


「ダメだ!! 二人が居なくなって、またあのような魔物に住みつかれたらどうするのだ?! 二人ともずっとここにいろ!!」


 俺たちは顔を見合わせて困った顔をしながら言った。


「それは無理ですよ。俺たち、勇者一行なので、旅を止めるわけにはいかないですから」


 聖獣は「勇者一行?」と言って呟くと、俺たちを見ながら言った。


「わかった。では私も主たちと共に行こう。そして毎日私にあのブラッシングをしてくれ。私は毎日ブラッシングをされたいのだ!!」


 どうやら聖獣様は、とてもブラッシングが気に入ったようだった。

 勇者は俺を見ながら言った。


「リョウ、どうする?」

「まぁ、いいんじゃない? また暴れられても困るから。聖獣様。時々背中に乗せて下さいね!!」


 俺のお願いに聖獣様は機嫌よく答えたくれた。


「ああ、困った時は背中を貸そう」


 冷静に考えると聖獣様の背中を借ることができるなんてとても心強い。

 俺はたちは、聖獣を見ながら笑った。


「よろしく、俺はリョウ。そしてこっちがアル」


 すると聖獣も機嫌良さそうに言った。


「私はコルアルだ。浄化の力を持っている。よろしく頼む。早速、村まで送ろう。生贄など私がこの地を離れることを告げる必要がある」


 こうして、俺たちはコルアルに乗せて貰って村に戻ったのだった。







 コルアルに乗って村に戻ると村は大騒ぎになった。俺はふと、水車を見ながら言った。

 

「ねぇ、コルアル。浄化って、この村の水路を浄化することって出来る?」

 

 一応発生源は絶ったが、この辺りはまだ汚染されている。俺の問いかけにコルアルが得意気に言った。


「ああ。私のせいなのだろう? 浄化しよう」


 コルアルは浄化魔法を使って、村中の水路を浄化した。浄化されたか確認したいが、生憎ともう魔法カードは使えない。するとアルが村の西側の水路に近付くと、素水路近くの井戸を汲み上げて水を飲んだ。するとアルの首にかかっている毒消しのアミュレットは何も反応しなかった。


「どうやら、問題ないようだ」


 アルはそう言うと、毒消しのアミュレットを服の下に入れ、コルアルに怯えている村長の前に行った。


「村長殿。この村の病の原因は絶たれた。そして見ての通り、聖獣殿は我々と旅を続けることになった。つまり……生贄は必要ない」


 シンと静まり返った後に、村中に大きな声が響いた。


「やった!! 娘を失わずに住む」

「あ~~愛おしい人!! よかった」


 生贄になるはずだった娘たちは、家族や恋人と抱き合い喜んだのだった。

 こうして、無事にこの村の生贄を解放した俺とアルは、コルアルという頼もしい相棒まで得たのだった。


 そして俺たちは、村のみんなに見送られてまた旅に出ることになった。


「本当にありがとうございました!! これ、お礼です。私が作った魔力回復薬です」


 村長に、手渡されて俺は目を丸くした。


「え? 魔力回復薬? そんな高価な物もらってもいいの?」


 村長は「はい!! 実はこの村は魔力回復薬を作っているのです。ですので、どうぞ遠慮なくお持ち下さい。本当にありがとうございました!!」と言って頭を下げてくれた。そして俺たちはみんなに見送られながら村を出た。


 村を出てしばらく行くと、アルが俺を見ながら尋ねた。


「それ、『魔術師』のカードで解析するのか?」

 

 俺はアルを見ながらニヤリと笑いながら答えた。


「よくわかったね。これで、魔法カードに制限なくなるかもね?」


 俺の言葉にアルが楽しそうに笑った。


「ははは、コルアルも仲間に入れ、魔力回復薬も手に入れた。リョウは最強だな!」


 そんなアルを見ながら俺も笑いながら答えた。


「そんな俺のパートナーなんだから、アルだって最強だろ?」

「ふはは。そうだな。最強だな」


 よく晴れた青い空の下。周囲には俺たちの笑い声が響いていたのだった。






【完】




 

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うっかり魔法世界に転移したが、思ったほど自由ではない 藤芽りあ @happa25mai

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