助けてあげた友達は…

天川裕司

助けてあげた友達は…

タイトル:(仮)助けてあげた友達は…


▼登場人物

●田素句(たすく)マモル:男性。25歳。真面目で、めちゃくちゃ優しい。友達思い。普通のサラリーマン。友達から頼られる事に優越を感じている。

●スグル:男性。26歳。マモルの大学の時の先輩。根っからのギャンブラー。

●ユカリ:女性。23歳。マモルの高校の時の後輩。ブランド品を買いまくる狂った性格の持ち主。借金してでも買いまくる。

●世見落男(よみ らくお):男性。25歳。自殺願望あり。厭世的な性格。

●背津聖子(せつ せいこ):女性。25歳。黒髪の美人。マモルの「ボランティア精神から解放されたい本能」から生まれた生霊。マモルを守ろうとする。


▼場所設定

●街中:ATMへ向かう場面や飲み屋街(仕事の帰り道)など、一般的な街中のイメージで。

●バー「Abyss to Heaven」:お洒落なバー。看板には「大きな穴の中に光が差し込んだ絵」が描かれてある。聖子の行き付け。

●マモルの自宅:一般的なアパートのイメージで。


▼アイテム

●殻破(からやぶ)り:栄養ドリンクのようなモノ。


NAは田素句マモルでよろしくお願いいたします。



メインシナリオ~

(メインシナリオのみ=4155字)


ト書き〈街中を歩く様子〉


NA)

俺は田素句マモル(25歳)。

大学を卒業した後はずっと1つの会社で働いている。

転職はせず、コツコツ真面目にやるのが俺のやり方だ。


ト書き〈回想シーン〉


NA)

俺は昔からそうだった。

1つの事を途中で投げ出したりはしない。

とにかく「これ」と決めたらそれを最後までやり遂げる。

また周りの人からよく言われるが、俺はどうも気立てが良過ぎるらしい。

と言うか優し過ぎるのだ。

「他人への親切よりも、自分の事を考えなさい」

「ボランティア精神も程々にしなさい」

そんな事を親や身近な人から散々言われた時期もあった。


マモル)「とは言うものの、性格ってそんな簡単に治らないんだよなぁ…」


NA)

俺は今、ATMへ行く途中。

先日、大学の先輩だったスグルから金の融通を頼まれていたのだ。

その時、スグルから電話が掛かって来た。


マモル)「え?だって昨日、2万円って…」


スグル)「それが今日、5万要る事になっちゃったんだ!ホントすまん!」


NA)

融通する金額が5万になった。

俺は仕方なくOKした。


マモル)「どうせ返す当ても無いんだろうなぁ…」


ト書き〈数日後〉


NA)

そしてこの日から数日間。

いろんな奴から電話が掛かって来た。

ほとんどが金の無心や、悩み相談。

中には「人生相談」までして来る奴がいた。


マモル)「はぁ。みんな大変なんだなぁ」


NA)

俺は生れ付きお人よしにでも出来てるんだろうか。

こうやって対1で悩みを持ち込まれると、頭では分ってても感情が…。

ついほだされて相手の言う事を親身になって聴いてしまう。

それで何とか悩みを解決してやろうなんて、体が勝手に動いてしまう。


ト書き〈会社にて〉


NA)

或る時ついに、会社にまで電話が掛かって来た。


マモル)「おい、ここ会社だぞ?プライベートで掛けちゃダメなんだってば!」


ユカリ)「分かってるけど、どうしても相談したい事があって…!」


NA)

電話の相手はユカリ(23歳)。

俺の高校の時の後輩だ。

こいつにも大きな問題がある。

借金してでもブランド品を買いまくるその習慣。

幾らやめさせようとしても治らない。

この時の用件もブランド品を買う為の金。

仕方なく俺は休憩時間中に、ユカリに5万ほど貸してやった。


ト書き〈会社帰り〉


NA)

その日の帰り。

今度は別の友人から電話が入る。

世見落男(25歳)。

こいつは根っからの世捨て人のような奴だ。

いつも世間や周りの人に対する愚痴ばかり言って来る。

金の要求は無いけれど、とにかく俺はカウンセラーに徹しなければならない。

この時も延々愚痴を吐いていた。


マモル)「なぁ落男。今ちょっと出先だからさ、帰ってから電話していいか?そのほうが落ち着いて話せるからさ」


NA)

内容はやはり人生への挫折。

今度のは酷そうで、「本気で自殺したいなんて思ってる」と言って来た。

「帰ってから落ち着いて話そう」

この一言が効いたようで、落男はひとまず電話を切ってくれた。


マモル)「はぁ…。いい加減、俺のほうも辛くなって来たなぁ…。俺ぁこいつらの何なんだよ!ホント、悩みの駆け込み寺じゃねぇんだぞ俺は!」


NA)

頼りにされるのは本来嬉しい事。

でもこんな形で毎回頼られるのは正直、迷惑。

しかし自分の性格上、やはり友達を捨てる事は出来ない。

実際、貯金もかなり乏しくなって来た。

まともに働いて貯金1桁なんて笑われるかも知れない。

でもこれが現実だ。


マモル)「昔、母さんが『あんたは介護士にでもなったらいいよ』なんて言ってたの、ちょっと分かるような気もして来るなぁ…。今になってみると…」


NA)

俺はこの日、いつになく落ち込んでいた。

周りに絡みつく自己中極まりない友人に対してもそうだが、それより、こんな状況になってまでまだ他人に流される事しか覚えていない「未熟な自分」に対して腹が立ったのだ。


マモル)「今日は、どっか飲みに行こうかな…」


ト書き〈バーへ〉


NA)

落男との電話の事はひとまず横へ置き、俺は飲みに行った。

とにかく楽になりたい、その一心で。

普段はほとんど飲まない酒。

飲まずにはいられなかった。


マモル)「あれ?こんな所にバーが…」


NA)

バー「Abyss to Heaven」。

いつもの道を歩いていると、突然、見た事も無いバーの看板が見えて来た。


マモル)「ふぅん。どんな感じだろ…」


NA)

俺は取り敢えず入ってみた。

中は結構オシャレ。

ひとまずカウンターに落ち着き、カクテルを飲んでいた。

気付かない内に、いろいろな愚痴も飛び出していた。


聖子)「こんばんは。お隣、いいかしら?」


マモル)「え?」


NA)

急に声を掛けて来たその人は、結構な美人。


マモル)「あ、どうぞ…」


聖子)「どうも♪ところで、何かお悩みですか?」


マモル)「え…?」


NA)

急にそう訊いて来た。

その人の名前は背津聖子。

歳は俺と同じくらいだ。

悩みコンサルタントをしているらしい。

それにしても何だか不思議な人。

一緒にいると、何となく10年来の知己の感じを漂わせて来る。

気付くと俺は、自分の今の悩みをほとんど話していた。


聖子)「なるほど。あなたは余程周りの人から頼りにされているんですね」


マモル)「ええ。でもそれが今じゃどうにも苦痛になって来てるようで…。ハハ、お恥ずかしいです。自分がこんな性格だからそうなるのも無理ないってのに、この性格すら治せないんですもんね。これも一種の自業自得ですよ」


聖子)「では、あなたにお1つだけアドバイスをして差し上げます。今のお友達から距離を置く事です。そして新しい友達を作る事をお勧めします」


マモル)「え?」


聖子)「あなたのお悩みをじっくり聞かせて頂きましたが、どうもあなたは今のお友達とは相性が合っていないみたいです。周りにいるお友達は全て、あなたのお金や持ち物、またあなたが生来持ち合わせた優しい心根だけを目当てにし、言ってしまえば、あなたを食い物にしているとしか思えません」


マモル)「な…なんでアンタにそんな事言われなきゃ…!」


NA)

俺はつい怒ってしまった。

これまで自分が友達にしてあげて来た事。

これを真っ向から全否定されたような、そんな感覚があったからだ。

俺はこの時どこかで、優越を感じていたのかも知れない。

「自分が友達にいろいろしてあげた事」これを盾に取って。


聖子)「あなたのご立腹はよく分ります。でもマモルさん。ただ悩みを解決してあげたり、優しくしてあげる事だけが本当の友情ではありません。時には厳しい言葉も必要です。あなたには今、それが根本から欠けているようです」


マモル)「そ…そんな事…!」


NA)

俺は思いきり反論しようとしたが、躊躇した。

思い当たる節が思いきりあったから。

その通りだ。

俺は頼りにされながらもその実、友達に心底、嫌気が差していたのだ。

でも…


マモル)「あなたの言われる事は分ります。確かにその通りです。でも今の僕にはどうする事も出来ない…。はっきり言って友達を失うのはつらい。怖い。いざ友人を目の前にした時、思い切った行動がとれない自分が現れるんです」


NA)

俺は心の中にある正直を思い切ってぶちまけた。

すると…


聖子)「いいでしょう。わかりました。それではこちらをお持ち下さい」


NA)

そう言って聖子は栄養ドリンクのような物をくれた。


マモル)「これ、何ですか?」


聖子)「それは『殻破り』と言って、まぁ栄養ドリンクのようなモノです。それを飲めばあなたはこれまで以上に『正直な自分』を出せるでしょう。友人の前だろうが他の場所だろうが、所構わず発揮させる事が出来ます。今のあなたに打ってつけのアイテムです。料金は要りません。無料で差し上げます」


聖子)「飲むかどうかはあなた次第。強制は致しません。ただ、私は飲む事をお勧めします。今のままではきっと、破滅への道を歩む事になりますから」


ト書き〈自宅〉


マモル)「ふぅ。これ、どうしようか…」


NA)

聖子とあのバーで別れて3日後。

俺はまだドリンク『殻破り』を飲んでいなかった。


マモル)「…いいや、捨てちゃえ」


ト書き〈流しにドリンクをドボドボ捨てながら〉


マモル)「…こんな得体の知れないモノ飲んで、体壊しちゃったら嫌だもんな」


NA)

俺は聖子の言った事を全く信用していなかった。

それに今までの自分が全て否定されたような気がして悔しかった。

「俺は思いきり友達から頼りにされている」

この重いフレーズが何度も心の中を飛び交った。


ト書き〈落男が跳び込んで来る〉


NA)

その時!

ドリンクを全て捨てた直後、落男が猛烈な勢いで俺の部屋へ跳び込んで来た。


マモル)「うわ!」


落男)「おいマモルぅう!お前なんでずっと俺に電話かけてくれねぇえんだよぉお!ああ!?お前もしかして、俺の事もう嫌になっちまったのかぁ!」


マモル)「(わ、忘れてた…!)」


落男)「俺ぁもう死ぬって決めたんだよぉ!でもよ、俺ぁ生来の淋しがり屋だからよぉ!マモルぅ!お前一緒に死んでくれやぁ!なぁ!いいだろう!お前いつでも俺の頼み事聞いてくれて、悩みも聞いてくれてたよなぁ!!」


落男)「お前はもう俺の悩みカウンセラーだ!カウンセラーだったら最後まで患者の面倒みるのが仕事だろう!さぁ一緒に死のう!!死ねやぁ!!!」


NA)

そう言って落男は持っていた出刃包丁で俺を何度も突き刺した。

そして最後に自分の喉を切り裂いた。

あーもすーも無い。

一瞬の出来事だった。


ト書き〈マモルのアパートを見上げながら〉


聖子)「だからあれほど言ったのに。あなたは飲むべきだったのよ。そうすればこんな悲劇は起こらなかった。あなたの言う通り、自業自得だったわね」


聖子)「私はマモルの『ボランティア精神から解放されたい本能』から生まれた生霊。マモルを何とか助けたかった。でもマモルは『自分が頼りにされている事』を盾に取り、それに優越を感じて中途半端な友情を大事にしていた」


聖子)「困っている時に助けたその友人は、助けてくれた人の事を決して忘れない。でも次に困った時にも、必ずその人の事を思い出して頼りにしてしまう。窮地に追いやられた時にだけ、あなたの事を思い出してくれていたのよ」


聖子)「スグルは根っからのギャンブラー。ユカリはブランド品ばかり買いあさる狂った娘。そして落男は極度の厭世的な心の持ち主で、自己中極まりない行動を取っても平気な奴だった。友達から頼られる事に優越を感じる前に、あなたは友達を見極める目を養うべきだった。その事を忘れていたのよ…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=pQfEp8QCgkw&t=90s

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