ページ2・パチンカスの末路


「だあああああ、クソ、また外れた」

 一人の小汚い男はパチンコの台を叩く。


「お客様、次、迷惑行為をしたら出禁と言いましたよね?出禁です。出て行ってください」

 ガタイの良い男の店員から肩をトントンと叩かれてそう伝えられる。

 小汚い男は店員を睨みつけるも、その圧から目を背けて逃げる様に店を出る。


「言われなくても二度と出るかこんな店」

 汚く罵りながら、自分の財布を覗く。

 小銭が幾つかあるのみだった。


「ハア、来月の支給日まで後3週間もあるのに、どうやって生活をするんだよ」

 憂鬱な気分に襲われながら歩いていると、とある看板が目に入る。

 そこには無料相談、お金貸しますという文字に聞いたことのない名前の店が書かれていた。

 確実に闇金だった。


「まあ、一般的な銀行からはブラックリスト入りしてて借りられないしな。お金も返してないし、というか待て、そういうえば来月分自動的に3万円差し押さえられるやん。マジで国とずぶずぶのクソ銀行がふざけるなよ」

 男は非常に頭が足りていなかった。

 ベーシックインカム制度い伴い、借金に対して給与額から自動で天引きされる制度が普及しており、貸す側はこの制度を利用して多額の資金の貸し付けを行っていた。

 ただ、その資金を事業に使って成功させればよいが、ほとんどの人は事業に失敗するか、そもそもギャンブルとかに使って全部失うかであった。

 この男も例に漏れず、人生一発逆転をかけて限度額まで借り入れを行い、競馬に投資し失敗、借金地獄に陥ってしまった。

 まともな銀行からはブラックリスト登録され、毎月3万円利息分を強制的に徴収されながら、ギャンブルをして食つなぐという日々を送っていた。


「1万円、いや後5千円でもあればあの台は行けるな。あれだけ投資したんだ当たれば確実に全回転するだろう。

 そしたらすぐにお金を返せば良い。ああ、それ大丈夫だ。大丈夫なんだ」

 何故か当たる前提で男は話を進めた。

 自分の頭の中では全回転して脳汁を出し、焼き肉を喰らう姿があった。

 ただ、それはこれ以上ない捕らぬ狸の皮算用でしかなかった。


 ブツブツと呟きながら闇金に入る。

 身分証明書の提示コピーと契約書に名前を書くだけで30万円借り入れることが出来た。

 闇金の人は優しく親切であった。


 久しぶりに手にする30万円という大金に確かな高揚感を覚えつつ、男は意気揚々の事務所から出て、さっきのパチンコ店に入ろうとするが追い出された。

 出禁になったのを思い出した。


 文句を言うが常習的に迷惑行為をして出禁になったのは至極当然の摂理であり、完全なる男の自業自得、覆ることのない事実であった。

 

 それでも男はそこまで怒りの気持ちは湧かなかった。

 何故なら今手元には30万円もの大金があるのだから。


「やっぱりここは馬だな。馬しかない。今度こそ俺は人生を逆転するんだ。ここで当てて借金を全部返して良い家に住んで美味い飯を食べよう」


 男は意気揚々と競馬場に向かう。


 そして、全てを溶かした。


 最初は勝てた。

 単勝でオッズ3倍に賭けて90万円になった。

 それを無謀にもオッズ78倍の3連単に賭けた。

 賭けて、夢も希望もなく散った。


 手元にある紙はゴミとなった。


 その後の男の末路は語るまでもなかった。

 また別の闇金に行くが、何故か身分証明書を提示した時点でお金を借りることが出来なかった。多分あの闇金に行ってるのが情共有されて借りれなくなっているのだと勝手に納得した。

 かくして何とかベーシックインカム需給日となるが、何故かお金が引き出せなかった。

 意味も分からず文句を言うが、ベーシックインカム振込先が変更させることを知った。

 自分はそんなのしていないというが、しっかりと本人書名の入った委任状と身分証明書を提示されたと言われて一蹴される。


 慌てて今自分の持ってる身分証明書を提示してみる。


 店員が機械にその身分証明書を提示するが、反応しなかった。

 そして気が付くに偽物にすり替えられていることに。

 恐らくあの闇金からお金を借りた時に・・・。


 警察に通報したが、証拠がない相手にして貰えず、闇金に怒鳴り込みたかったが、怖くて出来ず八方ふさがりであった。


 ベーシックインカムを失ってしまい、生きる為に肉体労働のバイトをするしかなかった。

 必死に働くが、ベーシックインカム制度があるせいで、もし怪我したり病気にかかったら、それだけで崩れる様な脆い生活。

 貰える給与も雀の涙程、ろくにギャンブルをすることすら出来なかった。


 それでも彼は働き続ける。生きる為に働き続ける。

 そして溜まったあぶく銭をギャンブルに溶かしていく。

 未来、確実に訪れるであろう終焉に目を背けながら・・・・・・。



――――――――――――――――


 一部銀行は国と提携して、ベーシックインカム需給から直接利子分を確保する、天引き方法が普及した。

 これによってベーシックインカムを担保にかなりのまとまった額の貸し付けが可能となった。

 これのおかげで事業に成功した人もいて、日本を代表できるような優れた技術や能力を持った企業へと成長し、日本経済に大きな良い影響を与えた。

 また、愚かな人間が返済計画のない無理な貸し付けでギャンブルをしたり、豪遊したりして、一部経済が盛り上がったりもした。

 ある種、経済発展の為にはなっていた。

 ただ、ベーシックインカムの影響で年金がなくなっているので、しっかりとした貯蓄がなく持ち家もなく肉体労働系の単発バイトで食いつないでる人は将来ベーシックインカムのお金のみで暮らさなければならない。

 それでもベーシックインカムがあれば何とかなる、何故なら月11万円の介護付きの老人ホームが普及しているから。

 それがない人は・・・。


 そして訪れる末路は・・・。


 因みに自己破産した場合はベーシックインカムの配布停止となる。

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ベーシックインカムになった世界で ダークネスソルト @yamzio

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