第4話
━━なんなんだあいつは。
コナーは昨日のことを思い出すと、不機嫌そうな表情を隠そうともせず机に肘をついていた。
今朝からずっとこの調子で、隣に座るリリーとしては気が気でない。
もちろんマーガレットがコナーを引き摺り回していた話は耳に届いているが、その後一体なにがあったのかはわからない。コナーの様子から何か言われたのだろうことは推測できるが、下手に刺激しないよう今はただ寄り添うことしかできない。
時間ばかりが流れ、沈黙が続く。
そしてその静寂の中、コナーは無意識に言葉をこぼしていた。
「リリー、俺はダサいか?」
「………………へ?」
あまりに突拍子のない言葉にリリーは間抜けな声を上げる。
適切な言葉を返さなければと頭を回転させるが、コナーはそのまま独白するように話して続ける。
「あいつは昔から勉強も運動も何でも一番を取るクセにそれが当たり前だと言わんばかりの態度で……思えば俺は、あいつに勝ったことが一度たりとしてない!」
徐々に言葉に熱が篭り、コナー強く拳を握りしめる。
確固たる意志を持ち、青い瞳に炎が灯される。
初めて見るコナーの様子にリリーは狼狽えるが、これはマーガレットとの仲を更に悪化させるチャンスだと頭を切り替えた。
「ならばコナー様、お友達に協力してもらって彼女を貶めてしまいましょうか? 彼女は確かに高い能力を持っていますが、人脈が狭く学園内では守ってくれる人物はほとんどいないですし」
最近はソフィアとよく会っているらしいが、それを加味しても人脈という点ではコナーに軍配が上がる。
結局はリリーと同じように、詳しく知らない人間の人柄や能力などでなく、コナーの権力を見ている。特に、比較的力の弱い貴族はその恩恵を受けようと必死になるものも多い。
そういう繋がりは確かに弱いかもしれないが、その代わり数は多い。つまり手駒が多いということだ。
しかし、コナーは再びリリーに対して予想外の言葉を返した。
「━━そんなことはしない」
「ど、どうしてですか? コナー様はマーガレット様のことが嫌いなはずでは……」
「無論嫌いに決まっている。だがなリリー、そんなことをしたら俺は、あいつに負けを認めたようなものなのだ!」
リリーの言葉は魅力的で、今までのように言う通りにしておけば面倒なことは何もなかった。周囲の人間もコナーをおだて、それに身を任せておくのは大変気分が良く、次期国王として称賛されるのは当たり前だとコナーは思っていた。
しかし、先日のマーガレットの言葉が頭から離れない。嫌味で上から目線の気に食わない奴だという思いが消えたわけではないが、コナーにはマーガレットの言葉を否定することができない……このまま自分が王となって、本当にこの国を導けるのか。そんな不安が芽生えてしまった。
だがしかし、そんなことよりもコナーはどうしても許せないことがあった。
「俺がマーガレットよりも下だと? そんなこと、そんなこと……あってたまるか!」
コナーが誰にも負けないものを持っているとしたら、その山のように高いプライドだ。彼の傲岸不遜な態度の原因であるそれは、時に力を引き出す鍵となる。
打倒マーガレット。
今まで不真面目に生きてきたコナーに一つの芯の通った目標ができた。
どんなことでもいい、必ずあの女を正面から打ちのめしてやらなければ気が済まないという対抗心。
コナーは心を入れ替えたわけでも、今までの行いを恥じるわけでもなく、ただ己のプライドのために正道に立ち返ろうとしていた。
孤高の令嬢のストレス案件 Nale @exnale
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