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残骸国はざっくり分けると四層に分かれる、キャロンが拠点にしている中層、探求する者の集まる下層、法外である残骸国でもさらに法外な地下層、そして残骸国の入り口である上層、の四層から成り立っている。
入国方法も特殊で上層の四方に一箇所ずつ存在する正門から昇降機等を使って入国する。
国土全てが建物である関係上残骸国は横以上に縦に長く、縦に移動する手段が発達している、昇降機もその一つで、残骸国には欠かせない存在になっている。
「賑わってるねぇ」
活気のある喧騒の中、キャロンは屋台で買った肉まんを頬張りながら歩いていた。
『少し前まではここまで活気はなかった筈なんだが、祭りでもあったか?』
「関税を少し下げたんだって、中層のお貴族様が上層の食べ物を御所望したとか何とか、ルカさんが言ってた」
『あの白髪も大変だな』
「おかげで助かってるんだよ」
彼が管理をやっているおかげで表立った問題は今のところは発生していないというのだから驚きだ。
「それでも細かいいざこざは無くならないんだよねぇ」
今も遠くの方で怒声や叫び声が聞こえる、上層と中層では需要が違い人々の求める対応も異なる為度々喧嘩や事件に発展している。
「用心棒を雇わないと満足に買い物も出来ない治安はどうにかしてほしいなぁ」
『無理だろうよ、文字通り人生を賭けてここに来ている人間もいるし、お貴族様は道楽で人の命を商品にするような奴らばかりだ』
何かを懐かしむような声で呟くミーレスの収まる鞘を軽く撫でつつ目的の場所を目指す。
「その辺は私達の仕事じゃないよ、それこそルカさんがどうにかしてくれるよ」
そういう小難しい話は彼の仕事だ、私達は私達の目的の為に動けばいいのだ。
「バークさんはちゃんと働いてるかなぁ」
こういう雰囲気は好きじゃないので話題を変える事にする、バークというのは今から訪ねる人の名前だ。
『あの男はサボりがちだからなぁ』
残骸国は四つの層からなる国で、その境目全てに『天蓋』という頑丈な梁床が存在している、その強度は人為的には穴が開けられない程である為、層を跨ぐ移動は厳重な管理がされている、バークという男は上層と中層を隔てる天蓋の一部を管理している。
「どういうことなんだ!」
先程から聞こえていた怒声は目的地から聞こえてくる。
「何があったんだろ?」
『不穏な空気だな』
細身で目付きと柄が悪い男、バークが複数の男に囲まれている。
「すまないが、お前らを上に通す訳にはいかない、正規の手順を踏んでいない、人は通っていいが荷物はダメだ」
「何故だ!こっちは高い金を払って許可証を買っているんだぞ!」
「そのような許可証は発行していない、大人しく関税を払うか荷物を置いて帰りな」
「ふざけるな!では騙されたって言うのか⁉️」
「そうなるな、商人では良くあることだろう、騙される方が悪い」
知らないと言うことは罪だ、ああいう風に食い物にされたりする商人が後を絶たない。
「どうして……」
縋り付いていた男が膝から崩れ落ちた、この辺りではよく見る光景だ、文字通り全てを賭けて商売に来ている人間も多い、雑誌に書かれているようなキラキラした世界では無い、それが現実なのだ。
「大変ですね」
話が一段落したみたいなので、引き摺られていく商人を横目に声をかける。
「ああ、キャロンか、最近多くてな、上層で関税がかからなくなるっていう嘘の許可証を販売する詐欺らしい」
「分からないものですかね?」
「そればっかりはなぁ、上とここでは情報の行き来がほとんどないからな、ギリギリ関税より安い値段のせいで騙される商人が多発している」
ついでに商人は自分が騙されたという事実を秘匿するだろう、自分以外も騙されたらいい、自分の失敗は隠したい、といった心理が働き、詐欺は商人の間で揉み消されていくのだろう。
「いっその事採用したらどうですか?」
「一応は進言はしておいた、そのうち採用されるんじゃないか?」
さすが仕事が速い、頭を悩ますルカの姿を想像しつつ本題に入ることにする。
「上に行きたいんですけど行けます?」
「あと数分で昇降機も到着するだろう、目的は?」
「お仕事ですね、ルカさんからの直接の依頼です」
「了解だ、いつも大変だな」
「お互い様ですよ」
いつもの形式的な質疑応答を済ませる。
「今回の仕事はどんな感じだ?」
「石翼商会からの依頼らしいですよ、詳しい話は現地でって言われています、大方用心棒とかそういうのでしょうね」
「石翼商会かぁ……あそこに属している商人は偽の許可証を持ってきたことがないな」
「そうなんですか?」
「ああ、石翼商会と金豚商会だけは詐欺の被害にあっていないことになるな」
「金豚商会?」
「最近、頭角を現してきた商会だな、石翼商会よりは大きくないが徐々に力をつけてきているようだ」
「ふむ……覚えておきます」
「ああ、力になれたのなら幸いだ」
「ありがとうございます!」
「礼はいい、そろそろ到着の時間だ」
何かが動く音が聞こえてきた、昇降機が動く音だ。
「はい、じゃあ行ってきます!」
「ああ、行ってらっしゃい」
バークに見送られ昇降機に乗り込む、自分以外は誰も乗らないようだ、三十人は乗れそうな空間に一人だけだ。
本来なら先程の男達も乗っていたんだろうなと想像しつつ、慣れない浮遊感を感じながら到着を待つ、ここからでも聞こえる喧騒を聴きながらこの先のことを考え、期待と緊張を抱くのだった。
残骸国の歩き方 はるむらさき @HrkMrsk
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