第26話 終わり

 改めて軽くではあるが赤ずきんとおばあさんに挨拶を済ました俺は、天界へと帰る準備を始めようと煌星剣を出した時だった。


 「ちょっと待って、帰りは私の星剣を使うからユウトは星剣をしまって」

 「急にどうしたんだ? ずっと俺の車で移動してきたのに……飽きたのか?」

 「違うわよバカ。帰りはユウトの車を使うよりも私の星剣を使ったほうが早いのよ」

 「速いねえ、ルナの世界に車よりも速い乗り物があるとは思えないんだが」

 「乗り物じゃないわよ……私のはこれ」


 そう言ってルナの出した星剣は見る見るうちに豪華絢爛な扉へと姿を変えた。

 大きさ自体は普通ではあるものの色や装飾は派手でこの扉だけで一軒家が立ちそうなほどの金額なのではないかと思わせる。


 「なんだこれ?」

 「なにって扉よ……ほら行くわよ」


 ドアノブをガチャリと回し開いた扉の奥は見覚えのない部屋の中へと続いており、上品にドレスの裾をつまみおばあさんたちへお辞儀をすると慣れた足取りでルナは中へと入っていった。


 「……えっと、それじゃあおばあさんお世話になりました、赤ずきんまたな」

 「うん、嘘ついたら針千本だからね」

 「また気軽にいらしゃってくださいね」


 赤ずきんたちに別れを告げて、俺もルナの待つ扉の中へと足を進めた。

 扉が閉まりキラキラと粒子状に消えていく星剣を眺めながらここがどこなのかルナに質問をぶつける。


 「なあルナ、ここはどこなんだ?」

 「私の部屋よ、天界のね」

 「…………はい? 扉をくぐっただけなのに天界についたのか?」

 「そうよ便利でしょ」

 「ああめちゃくちゃ便利だな……って違うわ。そんな便利なものがあるのに何で行きに使わなかったんだ?」

 「私の扉は行ったことのある所にしか繋がらないからよ」

 「なるほどな……あれ? 俺の世界が崩壊した時にわざわざ車に乗って天界に行く必要なかったのでは」

 「あの時はユウトに星剣の使い方を理解してほしかったのと世界の境界を見てもらいたかったのよ。そんなことよりも神様のとこに行くわよ」


        ▲▼▲▼▲▼▲▼


 ルナの部屋を出て神様のいる円形状のホールにたどり着いた俺たちを相も変わらず身体の透けた神様が椅子に座り待っていた。


 「……まずはご苦労様だったね。ルナとユウトのお陰で世界が崩壊せずに済んだよありがとう」


 頭を下げ礼を述べた神様は抑揚のない口調のまま「それで」と話を続ける。


 「今回行った世界で崩壊が起こった原因は何だったのかな?」

 「私が話てもいいかしら?」

 「ん、任せた」

 「それじゃ報告するけど……まず結論から言うと世界が崩壊している原因はウルフとかいう人間で神様のせいじゃなかったわ」

 「それは朗報だね……ふむ、にしても人間か僕の把握していない星剣所持者がいたわけではなかったのか」

 「いえ、それがそうでもなくてミズノカイって名前の男が、漆黒の星剣を持っていたわ」

 「それは本当かい? 本当に漆黒の星剣を持っていたのかい?」


 ルナの言葉を聞いた神様は驚愕したのか声が大きくなり、俺とルナは二人してビクッと身体を跳ねさせた。


 「え、ええユウトも確認しているし間違いないわ」

 「そうかい……まさか冥星剣めいせいけんを所持している者がいたとはね」

 「冥星剣ってなんだ?」

 「私も聞いたことないわ」

 「説明するよ、冥星剣とは所持者の心が闇に染まったことにより進化する崩壊の力を持つ星剣、ユウトの所持している煌星剣の対になる星剣さ」

 「なるほどね、どおりで強いはずだわ……でも疑問は残るわね。神様の話を聞く感じ冥星剣を使えば簡単に崩壊を引き起こせるはずなのに、わざわざウルフに崩壊を引き起こさせたことが謎ね」

 「そのことだけど、確かカイはウルフの闇の力を回収することが目的だとか言ってたんだよな。それにカイはすべての世界を崩壊させるとも言ってたけど現実的にそんなことが可能なのか?」

 「……神なら可能だよ」

 「どういうことだ? 神様はあんただろ」

 「そうだね。でも前から疑問ではあったんだ何故僕の心から負の感情は涌かず一切感じないのか、何故ルナとユウト以外の星剣所持者を感知できないのか、何故不完全な状態で復活を遂げたのか……それが今ようやく分かったよ、僕は復活した時に光と闇の二つに別れたんだ」

 「いやいや、そんなことあり得るのか?」

 「僕は人智を超越した神だからね。それに二つに別れたと仮定すれば全てに辻褄が合うんだよ」


 笑みを浮かべた顔で抑揚なく神様が話している内容は突拍子もなく信じがたいものだ。

 だけど事実として神様は不完全に復活を遂げ刃を向け無礼な言動をした俺に対しても怒りを見せることなく出会った当初から不自然なほど感情の起伏を感じない。

 そんな俺の内心を見て取ったのか、神様はにこやかな笑みを一層強く浮かべた。


 「まったく厄介なことになったね。結局のところ僕の憎しみのせいで世界が崩壊するという危機を迎えているとはね、ルナとユウトに弁明のしようもない……二人は崩壊の原因が僕と知って今殺したいと思っているかい?」


 そう言ってこちらを試すような視線を向けてくる神様。

 何を考え思っているのか掴めない態度に表情で達観している姿はまさしく神だと再認識させられる。


 「……仮にここで神様を殺したとして世界の崩壊は止まるのか?」

 「止まらないね」

 「なら無しだ、というか今はもう殺したいとか思ってないしな」

 「私も同感ね。神様の話が本当なら倒すべき敵はもう一人、いえ一神の神様とあちら側に付いている星剣所持者たちよ」

 「そうかい、いやそうだったね……それじゃあ改めて君たちに問おう、敵は神と星剣所持者だ力は強大で既に後手に回っているのが現状だ。それでも世界の崩壊を防ぐために僕に力を貸してくれるかい?」


 その言葉を聞いた俺とルナは互いに目を合わせ頷きあい……深く息を吸い込んで。

 神様を真っ直ぐ見つめ勢いよくこう言った。


 「「もちろんだ」よ」


───────────────────────────────────


ここまで読んでいただきありがとうございます。

タイトルにもある通りTeleはこれで終わりです。


本来はもっと色々な異世界に行って仲間を増やして成長していく物語になるはずだったんですが、色々と世界観設定や等身大の少年の心情などに悩まされまくった結果このような形になりました。

要・反省ですね。


二年前に書いた作品ではありますが、別の世界を渡るというコンセプトが大好きなのでいつかまた新Teleを書きたいなと思っています。


拙く粗い部分ばかりのTeleを最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

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Tale<テイル> 麻月 タクト @Takuto_0120

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