第7話 十六夜

 本番当日、市民会館大ホールのロビーは大勢の人々でにぎわっている

 皆、手には『ロミオとジュリエット』のプログラムを持っている


 その中に、山下課長、笑里、紫子の3人が立ち話している

 お洒落なジャケット、胸に薔薇の花を一輪挿し、大きな薔薇の花束を抱えた課長

 笑里は、新しい彼氏の好みのモノトーンのワンピースをクールに着こなしている

 紫子もそれなりにお洒落しているが、皆、振り返って通り過ぎていく

 特に、多くの男性が紫子を見つめている

 華やかな3人は、ロビーでかなり目立っているのだ


 笑里は、ナイスバディに吸い付くようなワンピースを着た紫子に、


 「今日は何の日? 目立ちすぎてるし、、、」


 「ネットのバーゲンで買ったんだけど、、、ちょっと失敗だったわ」


 「紫子の胸、目立ちすぎてるし、、、」


 「もっと平凡なデザインを選んだつもりだったんだけど、、、こんなにピッタリだと思わなかったの、、、そんなに、目立つ?」


 「かなり、胸がはみ、、、、そうだ、私のスカーフで胸元をカバーしてみたら、、、」


 「ありがとう、、、ホントに笑里は気が利くわ!」


 紫子は、笑里からスカーフを受け取り、肩に掛け、セクシーすぎる胸元を隠す

 笑里、親切そうに紫子の胸元をスカーフで隠しながら、


 「もうすぐ、新しいボーイフレンドの啓介が来るの、紫子のバストの魔力に彼が気付かないようにしておかないとね、、、そして、私はクールな女に変身しないと、、、」


 「、、、え、、、?、、、」


 そこまで、笑里にはっきり言われても意味が分からず、ぼんやりしている紫子


 課長、額の汗を拭きながら


 「いけない、、、なんだか、、、僕、、、緊張してきた、、、」


 紫子、暗い顔でお守りを握りしめて


 「私、ここに来る前、、、朱鷺先輩の成功を願って、神社にお参りしてきました、、、」


 笑里は、可愛い笑顔で元気に話す


 「大丈夫ですよ、、、あの日、、、朱鷺先輩、、、課長の差し入れの、、、『美食苑』のシャトーブリアン、、、がっつり、、、おいしそうに食べていましたから、、、」


 課長、満面の笑みで


 「僕は、昭和の男、、、朱鷺ちゃんの、、、親代わりとして、応援するって決めているんだ! 実は、、、朱鷺ちゃんのママは、僕のあこがれの人で、初恋の女性なんだ、、、僕は、僕の思い出の為にも応援するんだ、、、」


 と、課長が言うとまわりが暗くなり、一瞬スポットライトが当たるが


 「課長、、、今は、、、無理、、、」


 笑里、紫子の二人がさけぶと、すぐにスポットライトは消えた


 「課長、このシチュエーションでは、、、無理です、、、朱鷺先輩、ここにいないし、」


 「本番前の朱鷺先輩の気持ちを思ったら、、、無理です、、、朱鷺先輩いないので、」


 「じゃあ、朱鷺ちゃんの頑張りを祈って、終演後のお楽しみにしよう、、、」


 「課長、終演後のお楽しみになることを祈っています」


 やや、残念そうな課長、

 笑里、紫子、静かになった課長を見て、ほっとする

 が、3人は、それぞれ心配そうな顔になる


 やがて、笑里はロビー入口で手を振る啓介を見つけて走り出す

 紫子と、笑里と、笑里だけを見つめている啓介の3人、揃って客席へ進んで行く

 課長は、薔薇の花束に顔をうずめて、3人の後ろについて行く





 舞台の上、『ロミオとジュリエット』バルコニーの場面 

 美しい音楽の流れる中、、、

 バルコニーに一人たたずむジュリエットが、ロミオへの初恋を思い、歌う


 「その名は、ロミオ、どうしてロミオなの、、、お父様と縁を切り、その名を捨てて、、、それが無理なら、私を愛して、、、私もキャピュレット家の名前を捨てるから」


 ロミオ、ジュリエットの歌声に気づき、バルコニーに登り、歌でつづっていく


 「恋人と呼んで、僕の新しい名前だ」


 「どうやってここへ来たの、見つかったら、殺される」


 「恋の翼に乗って、すべてを乗り越えた、、、薔薇という花は、名前を変えても、香りは変わらない、名前に意味はなんだ」


 ジュリエット、ロミオの胸に飛び込む

 ロミオ、ジュリエットを抱きしめ、夜空を見上げ、二人で歌う


 「月に誓おう、二人の愛を」


 「月に誓うのは止めて、、、月は姿を変える、、、あなたの愛も変わるわ、、、」


 「変わらない愛を、二人で育てよう、、、この愛のつぼみは美しく咲くだろう、、、この愛の恵みを受けて、、、」


 ロミオとジュリエット、抱き合い、見つめ合う





 教会前、

 今からロミオと結婚するジュリエットを思い、

 乳母役の朱鷺は、、、幼い頃から、大切に慈しみ育て上げたジュリエットが、

 初恋の人ロミオと結ばれることに喜び、二人の幸せを祈って、涙をこらえながら    

 これから訪れる悲劇を予感させるように、切々と歌いあげる


 朱鷺の愛溢れる歌声に、胸を熱くする観客たち

 朱鷺が歌い終えると、「ブラボー」の掛け声と大きな拍手が長く続く


 舞台の袖で、朱鷺の様子を見守っていた裕美、涙をこらえハンカチを握りしめる    





 教会の霊廟、祭壇の前、

 ロミオとジュリエットの死体が並び、

 二人の死を知った人々が、だんだんと祭壇の前に押し寄せて来る

 ロミオの母役の裕美、息子ロミオの死を目の前にして、人々に語りかけるように

 悩める母の気持ちを、美しい歌声で歌いあげる

 乳母役の朱鷺、ジュリエットの死の悲しみを、透き通る声で語りかけるよう歌う

 やがて、出演者全員の合唱が見事なハーモニーになり、盛り上がっていく





 息をのんで見守る観客、、、静かに幕が下りる、、、

 一瞬の静寂の後、やがて、舞台と客席は一体になり、熱い感情に包まれた

 会場は、出演者の熱演に鳴り止まない拍手と歓声があふれる


 最後部の客席で、あの青年と女優アリサが朱鷺の歌声に涙を流し、拍手している





 温かい歓声と大きな拍手が送られて、

 最後の幕が閉まり、舞台の上、アンコールの場面

 会場は、ふたたび観客の拍手喝采に包まれる

 出演者全員、並んでアンコールにこたえている中、幕が下りる


 雷の音とともに、幕の内側の電気が、一瞬消えて、、、すぐに、、、明るくなる

 舞台横の時計は9時30分を指している





 夜空にぼんやり照らされた雅な御殿が、ふんわり浮かんでいる

 桜の花びらが、ひらひらと降り続いている


 威儀の者の正装で、あの長身の青年が立っている、、、その足元には、、、

 乳母のドレス姿で、舞台化粧をした女優アリサと

 乳母のドレス姿で、舞台化粧をした朱鷺の二人が横たわっている

 

 笛の柔らかな音色が響きわたると、桜は降りやみ

 赤く染まった紅葉が、ゆっくり降ってくる


 朱鷺が目を覚ますと、青年が声を掛ける


 「朱鷺、大丈夫?、、、今から、2012年の国立劇場に、アリサさんを送っていくけど、、、」

 

 朱鷺、驚いて青年を見ると、、、青年は朱鷺に優しく語りかける


 「アリサさんの『ロミオとジュリエット』見に行きたい?」


 朱鷺、頬を赤く染めて、うなずく


 「さすがにその衣装じゃあ、まずいから、これに着替えて」


 と言って、新しい服を朱鷺に渡し、、、女優アリサに赤い薬を飲ませる


 美しい笛の音色が響いている、、、降り続く紅葉、、、

 浮ぶ御殿、、、ゆっくり霞んでいき、、、消えてしまう、、、

 次第に、、、笛の音も途切れて、、、聞こえなくなる





 2012年、国立劇場、最後部の客席に、流行りの服を着た青年と朱鷺が座り、

 アリサの『ロミオとジュリエット』を観劇している


 終演後、満足と幸福に包まれたふたりはアリサの楽屋を訪れる、、、

 舞台を終えたばかりのアリサから、

 アリサのサイン入り『ロミオとジュリエット』パンフレットをプレゼントされ、

 朱鷺は、大喜びする


 劇場を出て、ふたりは夕暮れの街を笑顔で楽しんでいる

 自動販売機を使いこなせず悩む青年を見て、笑いながら慌てて手伝う朱鷺

 ショーウインドーに飾られた品々に、心奪われる朱鷺を愛おしく眺める青年

 アリサからもらったサイン入りプログラムを抱きしめ、幸せそうに微笑む朱鷺

 日暮れて、十六夜の月が東の空に輝き始め、青年の長いまつげが憂いににじむ


 やがて、

 青年は、朱鷺の手に口づけする、、、

 朱鷺は、青年の胸に飛び込むが、、、

 しばらくふたりは、見つめ合う、、、

 たがいに、見つめ合う瞳の中に、、、

 いにしえに約束した人を見つけ、、、

 懐かしく、温かな気持ちが通う、、、


 青年は、深く悲しみを帯びた落ち着いた声で告げる


 「我は、時と空を超える者、、、ここで、愛し合うことはできない、しかし、月裏の母の磐船(いわふね)を行けば、、、あの技術を使えば、、、すべての思いはかなう、、、あの星の技術を使えば、、、いにしえに約束したように、、、いにしえと同じように、、、」





 十六夜の眩い月光をさえぎり、漆黒の雲がたち込め、遠雷が光る

 間遠だった雷光と恐ろしげな雷鳴が、漆黒の雲と共に、激しく、近づいて来る


 雷雲を突き抜け、雷光に輝くエメラルドグリーンの竜が現れ、月を目指し昇る

 夜空の竜は、鋭い爪が当たらないように柔らかく、朱鷺を抱きしめている


 雲の中、月裏に潜む、天翔ける磐船を探して、美しく輝く体をくねりながら昇る


 「生まれ変わっても、約束の女を、我が妻を守り抜くために、、、我は生きる」

 

 、、、やがて、竜の腕の中で、目を開ける朱鷺、、、


 「、、、月裏の母の磐船に行くことができれば、、、思いは、、、すべてかなう、、、あの星の技術を使えば、、、いにしえに約束したように、、、我が妻に、、、」


 十六夜の月は、雷雲に隠れて姿は見えない


 ゆっくり雅な空の御殿が近づいてくるのを見ている朱鷺

 竜の腕の中で、御殿を、ぼんやり見つめたままの朱鷺


 まだ、心が整っていない朱鷺は、戸惑いに震え、、、静かに涙を流す

 

 その、朱鷺の静かな涙を、、、

 竜が鋭い爪の指先を丸めて、柔らかく、ゆっくり、優しく、ぬぐう


「何度生まれ変わっても、約束の女を守り抜くために、、、我は永遠に生きる、」


 、、、一息もつかぬ間に、、、


 竜は月の光を受け、キラキラと煌めくエメラルドグリーンのガラス片を放ちつつ、

 竜は震える朱鷺を抱き、美しく、清らかな輝きを増しながら、


 、、、舞うように、落ちていく、、、


 夜空、激しい雨とともに、鋭い雷が鳴り響く

 やがて、雷雨雷鳴ともに止み、漆黒の雲は過ぎ去っていく

 ぼんやり照らされた雅な空の御殿、ゆっくり遠ざかっていく

 後には、金木犀のかぐわしい香りだけが、残っている


 、、、ふたたび、美しい十六夜の月が、姿を現し、輝き始める、、、





 十六夜の月が高く上り、明るく輝く

 2012年の美しい月に見守られながら、二人は肩を寄せ合って、街をさまよう

 時を惜しむ二人は、身体を温めあい、十六夜の月を見つめながら、、、

 肩を寄せ、抱き合い、、、夜更けの街を、柔らかな月明かりの下、さまよう


 、、、やがて、、、夜明け前、、、

 西の空、沈む前に美しく輝きを増す十六夜の月

 その眩い月光をさえぎり、瞬く間に、漆黒の雲がたち込め、再び、遠雷が光る





 夜空に、ぼんやり照らされた雅な御殿が、ふんわり浮かんでいる

 桜の花びらが、ひらひらと降り続いている

 乳母の衣装を着て、舞台化粧の朱鷺

 威儀の者の正装の青年

 二人、見つめあっている


 笛の柔らかな音色が、ゆっくり響き渡る

 アリサからもらったサイン入りプログラムを、愛おしく抱きしめた朱鷺

 喜びと困惑で紅潮した頬に、、、やがて一筋の涙が流れる


 青年は朱鷺の涙を柔らかく拭き、その涙を自分の頬にぬぐう

 涙に濡れた頬から、エメラルドグリーンのガラス片状の物がこぼれ落ち、

 青年の頬に、漆黒の穴が開く

 朱鷺は驚き、青年の頬の漆黒の穴に、手を当てる

 その朱鷺の手を握りしめ、口づけをし、強く強く朱鷺を抱きしめる青年

 青年は、朱鷺を抱きしめながら、ゆっくり、胸元から赤い薬を一粒出す


 「この薬を飲むと、すぐに眠くなって、、、しばらくすると、元の世界に戻ります、、、そして、二人の記憶は、、、すべて思い出は、、、消えます」


 「もう、あなたのことを思い出すことも、、、出来ないの?」


青年が静かにうなづくと、、、朱鷺は取り乱して、、、


 「、、、せめて、、、せめて、、、最後に名前を教えてほしい、、、」


 「、、、我が名は、つきゆみ、、、月弓、、、」


 青年は、長いまつげを伏せて、懐かしむように言う


 「、、、遠い、遠い昔に、、、天翔ける、母の磐船で、ふたりは愛し合った、、、朱鷺の、昔の名は、たまより、、、玉依、、、約束の人、我が妻、、、今一度、昔のあなたに、、、逢いたかった、、、だが、今は、もう、別れの時だ、、、金環日食から十六夜までしか、ここにとどまることができない、、、のだから、、、」


 朱鷺は、不思議に思い


 「、、、玉依、、、昔の私なの、、、?、、、」


 「朱鷺は、玉依の生まれ変わりだ、、、だが、また逢える、、、しばし別れの時だ、、、あの時、12年前の金環日食の日、、、あの時、、、あの炎に包まれた車から、瀕死の朱鷺を救ったように、、、必ず守り抜くと決めている、、、だが、、、今はもう、別れの時だ、、、もう一度、、、喜びに満ちた姿で、舞台で輝く朱鷺を見るために、、、また巡り合う、、、だが、今は別れの時だ、、、十六夜の月が、、、我を迎えに来ている、、、」


 逃れられない別れを知った朱鷺、青年の胸にすがり、顔を伏せる

 青年は、静かにうなずいて、沈黙の中、ふたり強く抱き合う


 琴の音も入り、少し華やかな音色になる

 桜が降りやみ、、、赤く染まった紅葉の葉がゆっくり降ってくる

 朱鷺は、青年の胸で、静かに泣き続ける


 やがて、琴の音が止み、寂しげな笛の音だけになる


 しばらくすると、朱鷺は涙を拭いて、女優らしく姿を整えて、ゆっくりうなずく


 美しく、寂しげな笛の音

 見つめ合う青年と朱鷺

 やがて、青年は朱鷺に赤い薬を飲ませる

 、、、眠りにつく朱鷺、、、


 降り続く紅葉の葉

 

 浮ぶ御殿、ゆっくり霞んでいき、消えてしまう

 次第に、笛の音も聞こえなくなる

 

 西の空に沈む十六夜の月光をさえぎり、漆黒の雲がたち込め、再び、遠雷が光る





 舞台の上、舞台横の時計は9時30分を指している、、、

 幕の内側、雷の音ともに一瞬消えたライトはすぐに明るくなり、、、

 ふたたび、アンコールにこたえて幕が開く、、、


 出演者全員、並んでお辞儀する

 ムネオ先生、舞台に呼ばれて出て、出演者全員から花束をもらい、

 ムネオ先生、大きな、大きな花束を抱えて、盛大に泣く

 出演者もそれぞれにもらい泣きして、客席からは、あたたかな拍手が起きる


 すると、、、

 舞台に、色とりどりの花束を持った観客が多数押しかける


 その中の一人は、課長、、、

 課長は、朱鷺に薔薇の花束を渡す、、、

 すると、、、課長にスポットライトが当たり、、、

 華やかに、郷ひろみのジャケットプレイを披露する、、、

 客席から大きな拍手と歓声をもらい、大いに喜ぶ課長、、、


 満員の客席では、

 感激の涙を拭きながら紫子は、周りの目も気にせず、立ち上がって、

 スカーフを振り回しながら、歓声を上げ、ひときわ目立っている紫子

 笑里は、隣の座る新しい彼氏のことを忘れて、肩を震わせ、静かに涙を流し

 朱鷺の歌声に酔いしれて、、、もうモノトーンの似合うクールな女ではない


 課長、紫子、笑里、それぞれの形で朱鷺の歌声から感じ取るものがあったようだ


 朱鷺、舞台上で薔薇の花束とサイン入りプログラムを抱きしめ、笑顔で立っている





 終演後、、、激しい雷雨に見舞われた地面が乾き始めている

 華やかな金木犀の香りが、秋の柔らかな風に運ばれ、

 十六夜の月が、澄み渡る東の空に輝き、

 濡れた道が月明かりに照らされ、美しい


 市民会館大ホールの楽屋口から、

 ミュージカルスクールの生徒たちが次々と笑顔で出て来る

 その後ろから、朱鷺と裕美、並んで出てくる


 「雷雨がやんで、良かった! アンコールの時、一瞬停電しちゃって、どうしようかと思ったけど、すぐに会場が明るくなって、良かった! それにしても、今日の朱鷺は素晴らしかったわ! 昨日まであんなに苦しんでいたのに、私、本番まで、あなたのことが、心配で、心配で、見ていられなかったのよ!」


 「、、、心配させちゃったね、、、なんだか、、、私、、、変わったみたい、、、心が、、、」


 「やっぱり、私、ミュージカルあきらめて良かったと思う、、、私の実力じゃ、、、突き抜けて進んでいく、今の朱鷺にはかなわないもん、、、これからもこの世界で、朱鷺は頑張ってほしいって、私は心からそう思っているからね、、、あなたには才能がある、、、初めて会った時から、、、そう思っていたわ、、、これからはファンとして、ずっと応援していくからね、、、ところでさ、朱鷺のスピリチュアルパワーで、夢破れた私のこれからを見てくれない!」


 「、、、ん、、、裕美は、大丈夫よ、、、その美貌と才能で、素敵な男性と巡り会って、夫育てに大成功するわよ、、、」


 「えーーー、、、素敵な男性と巡り合うって、、、夫育てに成功するって、、、朱鷺大明神様、、、ありがとう、、、うれしい、、、」


 「私のスピリチュアルパワー、ね、よく当たるって皆がほめてくれるんだけど、、、自分のことはサッパリわからないのよ、、、あら、、、今夜は、特に綺麗な月だわ、、、」


 「今夜の月、十六夜の月っていうけど、、、あんなに綺麗な月なら、、、ロミオみたいに、月に誓いたくなるわね、、、美しい愛の言葉で、、、」


 「でも、、、月は姿を変える、、、って、、、愛の姿も変わる、、、って、、、」


 「いいじゃないの、どんな形でも、月は美しいわ、朱鷺もそう思わない? どんな形でも、どんな姿でも、月の本質は変わらないわよ!」


 「そうよね、月を見ていると、、、なんだか、私、胸の奥に喜びが広がって、幸せなの、、、なんだろう、、、朝、月が西の空に沈むまで見続けて、朝を迎えたい気分なの、、、幸せな気持ちで満たされて、、、懐かしくて、、、心が温かくなるの、、、私、、、」


 その時、ムネオ先生が、携帯電話を振り回しながら、二人を追いかけて来た


 「朱鷺ちゃん、、、て、てい、帝国、帝国歌劇団から電話よ、スカウトの人よ、、、」


 あわてて、朱鷺に携帯電話を渡し、息が切れて、しゃがみ込むムネオ

 しゃがみ込むムネオの背中を、優しくさすり、抱き起す裕美


 朱鷺、受け取った携帯電話で話しながら、  

 何度もうなずき、静かに涙ぐみ、

 携帯電話を切る


 「、、、来週から帝国歌劇団のほうへレッスンに来て欲しいって、、、私、、、スカウトされました、、、プロの道に進んで欲しいって、、、」


 「おめでとう、、、朱鷺ちゃん、、、指導者として、とても嬉しい、、、夢だったの、、、教え子を帝国歌劇団のスターにすることが、、、ありがとう、、、朱鷺ちゃん、私の夢をかなえてくれて、、、ありがとう、、、ありがとう、、、」


 そう言うと、うれしさのあまり、大声をあげて、再び泣き崩れるムネオ先生

 うれし泣きのムネオ先生を抱き起しながら、、、裕美は笑顔でつぶやく


 「、、、朱鷺、、、ライバルだった私も、、、嬉しい、、、」


 「ムネオ先生、ありがとうございます、、、スランプの私を見捨てずに指導してくださって、、、裕美も、ありがとう、、、よきライバルにも恵まれて、私は幸せ、、、」


 ムネオ先生と裕美に祝福されて、朱鷺は満ち足りて幸せな笑顔をみせている


 あふれる金木犀の香りに包まれ、

 幸せな三人は、夜空にまばゆく輝く十六夜の月を見上げている




 

 

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月詠み人 芙美香久子 @kyokokato1120

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