ステータスカードとジョブ選び




 ようやくやってきた、俺たちのクランホームからおよそ3キロ程離れた場所にできた〝生活系ダンジョン〟。

 幸いにもここは交通の合流地点なんかも非常に近いおかげで、探索者ギルドの中でも大きなギルドがすぐ傍にできていて、利便性も良い。


 そんな〝生活系ダンジョン〟の入口ゲートを過ぎたところで、俺たちは出入口から少しばかり離れた場所で動きを止めた。



「よし、じゃあみんな、ステータスオープン、と言ってみてくれ。こういうカードが出てくるはずだ」



 俺の一言と共に目の前に浮かび上がるように現れた一枚のカード。

 ちょうど胸先あたりに出てくるそれは、まるで光が集まって具現化するかのようにも見える。

 キラキラと目を輝かしてその光景を見つめている新人たちを見てみると、俺も最初はそういう感じだったのかも、となんだか気恥ずかしくなってくる。


 ともあれ、そんな自分のステータスカードを手に取ってみせれば、連れてきた新人たちも口々に「ステータスオープン」と唱えていく。


 目を輝かせながら自分のステータスカードを確認していく新人たちを見ながら、俺は俺で自分のステータスカードを確認する。



――――――――


Name :芦屋 遥斗

JOB :上級細剣士 / 【勇者】

LV:73


ATK:95

SPD:115

MGI:21

MND:10


SKILL:

『魔力強化撃Ⅲ』・『身体強化Ⅱ』・『速度強化Ⅲ』

MAGIC:

『属性 / 風・火・地 【矢・球・槍】』


TITLE:

【勇者】・【ハーレム(?)】


――――――――



 ステータスカードは指で押さえながら「これを隠す」と意識すれば隠せる。

 ただし、実のところこのタイトル――つまり『称号』については、隠せるものと隠せないものがある。


 称号で隠せないもので有名なのは、俺の【勇者】のようなものであったり、逆に【ダンジョン内殺人犯】だとか、【強姦魔】だとか、そういう賞罰系の称号だそうだ。

 こういったモノについては本人の意思で隠蔽できないようで、これによって実際に逃げ隠れていた犯罪者が捕まり、その時に公になった。


 ちなみに、新探索者ギルドにあるステータスチェッカーは個人設定での隠蔽効果の対象外となるらしい。


 最近は探索者同士で臨時パーティ、要するにその場限りでパーティを組んだりする事もあるのだけれど、そういう時にこのステータスカードを見せ合うというのが主流になってきているそうだ。


 いくら普通のダンジョンに比べれば格段に安全で、しかも襲ってこない魔物が多い〝生活系ダンジョン〟とは言っても、戦いの中で頭の打ちどころが悪かっただけで死ぬかもしれない。

 そんな中で誰かと組むということを考えると、当然ながらに怪しい奴や犯罪者と組むなんて、誰だって御免願いたいところだ。


 だから、お互いのカードを見せ合って身分を証明するというか、犯罪者ではない事をしっかりとアピールするらしい。

 まあ、俺の場合は固定パーティというか、クラン内のメンバーとしか組まないから、その機会はないんだけどな。


 ちなみに、俺や雅、黒姫みたいに元々探索者として位階を上げてしまっている場合、スキルや魔法は基礎的なものしか取得できないらしい。

 どちらかと言うと、これは新たに探索者になった者たちだけが対象になるような欄であるようだ、というのがこの半年程で判った。


 俺たちのような通常ダンジョン出身の探索者の場合、どちらかと言うとこの新システムで得られるスキル、魔法は扱いにくい部類に入る。

 というのも、このスキルや魔法って、スキルなら発動モーションが定まっていたりとか、魔法の軌道が決まっていたりとかで自由度が極端に下がるのだ。


 テンプレとも言えるような『魔力強化撃バッシュ』なんて使わなくても、自分で自分の戦い方に合わせて強化するからな。


 あと、強めの魔法だと詠唱句とかいうのもあるらしい。

 ……人前でめちゃくちゃ長い詠唱句とか、俺、絶対読みたくないわ。

 



 ……まあ、それはともかく、だ。




 ――【ハーレム(?)】ってなんだよ……ッ!?

 昨日なかっただろ!?

 俺、彼女いない歴イコール前の世界線含めて年齢オーバーなんだが!?


 よし、非表示……――できない、だと……!?


 え、俺これからコイツらにコレ見せんの?

 さりげなくやり方を見せただけで隠しておいていいか、これ。



「ハルト、どうしたの?」


「えっ、あ、いや、なんでもない。レベル上がったなぁって思って……ははは……」



 マズい。

 いや、別に俺は何もしてないんだが、こんな称号を得るに値する行動をしているなんて誤解されて、おかしな事してるんじゃないかって怪しまれたりしたら面倒だ……!

 これはさすがに見せられない……ッ!


 細まっていく雅の目。

 それと同時に、どうにかして話を逸らせる最適解の答えを探る俺。


 お互いに口を開こうとして――しかし、俺たちよりも一瞬早く、横合いから声がかかった。



「あの、雅さん。ハルトさんも。ちょっと聞きたいことが……」


「ん? 何かしら?」


「これなんですけど、これって普通ですか?」



 ナイスだ、修司! 助かった!

 そんな事を思いながら修司が見せてきたステータスカードを雅と一緒に覗き込む。



――――――――


Name :睦沢むつざわ 修司しゅうじ

JOB :未選択 / 【萓オ鬟�】


LV :1


ATK:1

SPD:1

MGI:1

MND:1


SKILL:

 ――――

MAGIC:

 ――――


TITLE:

【豺キ縺倥j繧ゅ�】


――――――――



 名前は普通だし、ジョブは未選択。

 レベルが1の場合はステータスも個人差なく全て1なので、特に問題はない。

 ステータスは『強化値』みたいなものだからな。


 ただ、ジョブの隣と称号欄にも記載されている、意味を為しているようには見えない不思議な文字列。

 これらには俺も見覚えがあった。



「あ、出た。誤作動カードね」


「誤作動カード、ですか?」


「あなたと同じような例が幾つか報告されているのよ。でも、普通にレベルも上がるしステータスも上げられるらしいから、特におかしなところもない。何かしらの誤作動なんじゃないかって言われているのよ」



 俺に代わって答えた雅の言葉を聞いて、修司がじっと自分のカードを見つめる。


 誤作動カードは俺も見せてもらったことがある。

 確かに修司のように、よく分からない文字が記載されていたり、場合によっては数字部分が変化したりなんてこともあったりするようだ。


 ただ、その原因はまだ解明されていない。

 いわゆるダンジョン側のエラーだと一笑に付してもいいんだが、どうにも俺にはそうは思えないんだよな。


 ネットで調べてみれば、最近は都市伝説みたいな扱いを受けている。

 なんでも、「これはダンジョンに標的として選ばれた証拠」みたいに言われてるらしい。

 馬鹿馬鹿しいとは思うんだが、それっぽい話がネットに転がっているんだよな。

 誤作動カード持ちは事故に遭っているのか、突然行方不明になっている、みたいな話をたまに聞く。


 まあ、ネットなんて半信半疑で見るものなんだろうけれどな。

 実際、修司の他にも知り合いに一人いるが、そいつは普通に元気にやっている訳だしな。



「とりあえず、探索者ギルドに行ったら報告しておかなきゃいけないんだったよな?」


「えぇ、そうね。確かホームページにそういう呼びかけがあったはずよ」


「修司、そういう訳だから、後で売却作業とかする時に探索者ギルドに行くぞ」


「分かりました」


「他の連中はなんか問題あったりしないかー?」



 とりあえず修司には声をかけたが、他のメンバーである真虎、柾、優香も詠もこれといって変わりなく、特におかしな表記もない。

 代わり映えのしない、みんなステータスがオール1、初期状態である。


 ちなみに、俺や雅のように元々位階をあげていた人間もそうだった。

 ただ、何故かレベルだけは高かった。ご丁寧にレベル50だったし。

 どうやら普通のダンジョンで鍛えていた人間は〝生活系ダンジョン〟で狩りをするなんて許さない、ということらしい。



「って、おいおい、真虎。おまえもうジョブ選んだのか?」


「ヘヘッ、これになるってずっと決めてたから、楽しみでさ! それにほら、ハルトさん! 見てみて、スキル出た!」



 血気盛んで、真っ直ぐな性格をしている真虎らしいというか。

 そんな真虎が見せてくれたステータスカードには、ジョブと初期スキルが出ていた。



――――――――


Name :いつき 真虎しんご

JOB :見習い拳闘士


LV :1


ATK :1

SPD :1

MGI :1

MND :1


SKILL :

『身体強化Ⅰ』

MAGIC:

 ――――

TITLE :

 ――――


――――――――



 よりにもよって拳闘士で、しかも見習いか。


 実のところ、元々道場に通っていて拳の使い方だったり身体の動かし方を知っていたりすると、この見習いが消えて『初級拳闘士』になれるんだが……まあ、そういう実戦的な訓練メニューについては俺の管轄じゃないし、上級拳闘士になったウチのクランのメンバーに教わってもらうか。



「おー、いいな。そしたら、みんなもステータスカードのジョブのところを触ってみてくれ。そこで出ているジョブから気に入ったものを選んで触れれば、そのジョブ毎に初期スキルが手に入るからな」


「それと、みんなも習ったと思うけど、上級ジョブになるだけならカードの表示に従えばいいけど、全く違うジョブにつく場合は、探索者ギルドのステータスチェッカーが必要よ。今のところはまだ試した人も少ないけれど、ジョブを変えてしまうと覚えたスキルが極端に弱くなってしまうから気をつけること。だから、気軽に変えたりせずに、しっかりと道筋を立ててちゃんとしたものを選ぶことが強くなる近道よ」



 短く返事をした後で、和気藹々とジョブ相談を始める新人たち。

 これは〝生活系ダンジョン〟に入ってすぐのこの広間がセーフティーエリアだからこそできるようなものだな。

 もしも他のダンジョンに行くなんて事になったら、そっちはそっちで研修が必要になりそうだ。


 そんなことを考えながら、俺と雅は新人たちがジョブを決定するまで少しの間待つことにした。





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2024年9月24日 21:00 毎日 21:00

黒幕系ムーブはひっそりと ~なお、他人の配信にてバズり過ぎて魔王になった模様~ 白神 怜司 @rakuyou1214

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