★19★ 絆の力
よろず村に辿り着いた俺達は中に入るためにクリスが門番を陽動する作戦を取ろうとした。
しかし、厄災星のガランの登場により作戦は失敗に終わってしまう。
ガランは何かを手に入れ、去っていく中で俺達は門を守る蠢く鎧と戦うことになった。
くそ、まさかガランが待ち受けていたとは。
それよりも俺を動かしたあの声はなんだっただろうか。
そんなことを考えながら、俺は盾を構えながら臨戦態勢を取る。
蠢く鎧は高々に掲げた大剣で威圧しながら俺達との距離を詰めていた。
「クックックッ、剣はお前達の血を吸いたがってるぞ。諦めて切り刻まれろ」
状況が悪いな。
クリスはダメージが残っていて動けないし、アルフレッドは気絶したままで動き出す様子がない。
キッキーに頼りたいところだが、とてもじゃないけどさすがに助けてはくれないだろう。
どうする?
この盾で攻撃をしのげるか?
いや、無理だ。
一撃はどうにかなるかもしれないが、その後は防げない。
盾が粉砕されるか、ふっ飛ばされるかのどちらかだ。
なら魔剣を使うか?
いくらなんでも無謀すぎるな。
魔剣は俺にダメージが蓄積されてないと効果を発揮しない。
ワザと攻撃を受けるって選択もあるが、一撃でやられる可能性が高いからやっはなしだ。
くそ、打つ手がない。
どうする、どうする?
このままじゃなぶり殺しだぞ。
『大丈夫』
諦めずに考えていると、またあの声が頭の中で響く。
俺は思わず「誰だ」と訊ねると、彼女はこう応えてくれた。
『もうすぐ先生が起きてくれる。でも、まだちょっとかかっちゃう。でもそのちょっとをしのげれば勝てるよ』
勝てる、と言われてもな。
それにその言葉を待ち受けるほど俺はできた人間じゃない。
『わかってる。だから私の力を貸すよ。だけどそのためにはあなたが私を信じてくれなきゃいけない』
おいおい、いきなり信じろって言われてもな。
せめて名前だけでも教えてくれよ。
『シャーリー。アルフレッド先生の弟子だよ』
その名前を聞いて俺は思わず目を大きくした。
どうしてその名前がこの場面で出てくるのか。
思わず聞きたくなったが、彼女は違う言葉を発する。
『来るよ!』
くそ、ぶっつけ本番か。
こうなったら神だろうが悪魔だろうが信じてやる。
大きく振りかぶられた大剣が、遠慮なく俺の脳天へ迫る。
俺は声の主であるシャーリーを信じ、左手に持つ盾を合わせるように掲げた。
直後、とんでもなく甲高い音が響き渡る。
クルクルと、何かが飛び地面へ突き刺さった。
それが蠢く鎧の持つ大剣だと俺が気づいたのは少し遅れてからだ。
何が起きたのかわからない。
ただ、手にする盾に清らかで不思議な光が放たれていることだけはわかった。
「なっ、なんだそれは!」
蠢く鎧が驚愕のあまりに後退りする。
いや、俺だって何が起きたかわからないんだけど。
というか、なんだこの力は。
『信じてくれてありがとう。この力はあなたとあの子の絆だよ』
「絆?」
『うん。あの子があなたを想ってくれているから貸すことができた力かな。その力はあなたを、みんなを守ってくれるよ』
守ってくれる?
それにあの子って……まさか、ニルフィのことか?
「小癪なことを! その盾、ぶっ壊してやる!」
蠢く鎧は大剣を振り回してきた。
俺は盾を構え、全ての攻撃を受け止める。
それにしてもすごい力だ。
普通なら盾ごとぶっ飛ばされてもおかしくないはずなんだが、そんな気配が全くない。
それどころか、身体の疲れがどんどん消えていっている気がする。
「コノヤロー! 身を固めやがって!」
蠢く鎧が怒りのままに叫んでいる。
これは、イケるかもしれない。
そう思った瞬間、クリスが立ち上がった。
「シキ、ありがとう! 立てるようになったわ!」
「クリス! よし、陽動を頼めるか?」
「任せなさい!」
絶対の防御。
崩れることのない鉄壁。
だが、それは裏を返せば攻撃できないといえる状態だ。
あいつを倒すには攻撃するしかない。
だが、防御を解けば強烈な一撃がくる。
だからこそ復活したクリスの出番だ。
俺の思惑に気づいているのか、クリスは大剣を振りかぶった蠢く鎧の頭を蹴った。
途端に兜は周り、真後ろに顔面を向いて止まる。
「うおっ! 前が!」
「さっきの仕返しよ!」
蠢く鎧が慌てて兜を直そうとする。
だが、それをクリスが邪魔した。
蠢く鎧がクリスに手を焼いている間、俺は防御を解きアルフレッドの元へ駆ける。
ひとまず拾い上げ、アルフレッドを起こそうと声をかけてみた。
「おい、アルフレッド! 起きろ、寝ている場合じゃないぞ!」
「…………」
だが、アルフレッドの反応がない。
くそ、いつもなら勝手にページを開いて魔法を使わせようとしてくるんだが。
仕方ない。
ここは勝手に中身を開いて読もう。
えっと、なんかよくわからない文字ばかりあるな。
読めるポエムはないのか、くそ。
「ん?」
俺が文句をこぼしながらページをめくっていると、ある文字が目に入った。
それは前に、突然現れた呪文だ。
どれほど強力な魔法だったのか覚えている。
だからこそ、俺はその魔法を選んだ。
「ラヴィン・ヒート・ファントム」
『その言葉は――』
その呪文に何の意味が込められているのか、俺にはわからない。
ただ、頭の中に語りかけてくるシャーリーは知っている様子だ。
だからこそ、放たれた幻想的な緋色の炎に彼女は言葉を失っていた。
「グオオォォォォォ!!!」
そんな幻想的な炎に飲み込まれた蠢く鎧は苦しそうに叫ぶ。
灼熱に身を焦がされ、煙が上がる中で蠢く鎧はどうにか炎の中から這い出てきた。
あまりにも熱かったからか、鎧を捨てて中身が出てくるほどだ。
「くそぉー! やりやがったなぁー!」
その鎧の中身はなんとスライムだった。
見た感じ、五体ほどのスライムがピョンピョンしている。
なるほど、連携して鎧を操っていたのか。
そう感心しつつ、俺は地面に突き刺さっていた自分の剣を手に取った。
「それはこっちのセリフだ。いいか、お前らに選択させてやる。このまま逃げるか、それとも全員俺達に切られるか。どちらがいいか選べ」
「なんだとぉー! 俺達を舐めるなー!」
一匹の青いスライムが威勢よく俺達に飛びかかろうとした。
俺は剣を握り、切り倒す準備を始めるがそれを赤いスライムが止める。
「お、お兄ちゃん。アタイもうこんなのイヤだよぉー!」
「何を言ってるんだ! 勝たなきゃ俺達の生活が――」
「貧乏でもいい! だからもう痛い思いも熱い思いもしたくないよぉー!」
赤いスライム(妹?)の訴えを聞いた青いスライム(兄?)は、奥歯を噛んだ。
そして、赤いスライムに向かって「わかった」と告げる。
「へん! ここはお前の言う通りに逃げてやる。次は容赦しないからな!」
そんな捨てゼリフを吐き、ピョンピョンとスライム達は飛び跳ねてどこかへ去っていった。
その姿を見送った俺達は、武器を収める。
ひとまず災難を乗り越えられた。
しかし、まさかガランが待ち受けているとはな。
これは完全に作戦を立てた俺のミスだ。
「どうにかなったわね」
「一応な」
「それにしても、シキ。アンタ回復魔法が使えたの? 身体が急に元気になったし」
「使えないはずだったんだけどな。まあ、俺にもよくわからない」
シャーリーが助けてくれた、といっても理解できないだろう。
なら、こう答えたほうがまだいい。
そう思い、言葉にするとクリスは「ふぅん?」となんだか納得してない顔をしていた。
ひとまずこれで村の中へ入れる。
そう思っていると、アルフレッドが目覚めた。
〈うん? なんじゃここは? そうじゃ、門番はどうした! まさか奇襲されたか? シキ、シキよ、ワシの記憶を読めぇぇぇぇぇ!!!〉
「もう終わったよ」
〈なんじゃとぉぉぉぉぉ!!!!!〉
こいつは相変わらずだな。
まあ、それがこいつのいいところなのかもな。
ひとまず、蠢く鎧との戦いは終わった。
あとは村を支配する厄災星のガランを倒すだけだ。
貴族の理不尽な命令でパーティーを追放された俺は変態(本の賢者)と出会ったおかげで快進撃が止まらない 小日向ななつ @sasanoha7730
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