★18★ 門を守る蠢く鎧

 キッキーが住むよろず村に辿り着いた俺達は、厄災星のガランを倒すために戦いを挑もうとしていた。

 しかし、ガランという奴は何のためによろず村を支配したんだろうか。

 そんな疑問を抱きながら俺はよろず村へ踏み込もうとしていた。


「ん? なんだあれ?」


 村へ入るための門といえばいいだろうか。

 まさに出入り口となる場所の前に、なんだか厳つく大きな鎧が大剣を携えて立っていた。


「きーっ! あんなのいなかったぞ!」

「それってつまり、ガランの手下ってこと?」

「そうだと思う。きーっ!」


 クリスの質問にキッキーは頷いた。

 なるほど、ガランの手下なら何かしら命令されて門を守っているってことか?


 だとしたらあいつを倒さないと村の中に入れないかもな。


「やるしかないか」

〈よし、なら派手にぶっ放すか?〉

「村が壊れるかもしれないだろ。まあ、できる限り穏便にいこう」


 ということで門番をしている鎧を真正面からではなく、何かしらで気を引くことにする。

 見た限り人型のモンスターだが、好みが人型のものとは限らない。


 さて、どうやって誘い出そうか。


「こいつはどうだ? きーっ」


 俺が考えているとキッキーは何かを取り出し、見せてきた。

 それはモンスターのコアだ。


「モンスターは進化するためにコアを食べるって聞くぞ。だからこれを利用すれば誘き出せるんじゃないか? ちなみにコアはグリーンドラゴンのものだ。きーっ」


「なるほど、確かにな。どんなモンスターでも喉から手が出るほど欲しいものってことか」


 もし喉から手が出るほど欲しいなら、持ち場を離れてくれるかもしれない。

 そうなったらこっちのものだ。


 問題は、陽動を誰がやるかだな。


「なら私が誘い出すわ」

「クリス。お前、いいのか?」

「誰かがやらないといけないでしょ? なら、私がやってあげる」

「その身体で大丈夫か?」


「心配ご無用。こう見えても足は速いの。困ったら逃げるわ」


 逃げると言われても心配なんだが。


「ヘマはしないわよ。だから安心して」

「……わかった。やばくなったら逃げろよ」


 俺はクリスの言葉を信じ、キッキーから受け取ったグリーンドラゴンのコアを渡した。


 クリスは笑い、そして駆けていく。

 その後ろ姿がどこか弱々しく感じたのは気のせいだろうか。


 そんなことを思いながら俺は合図を待とうとした。


『それはダメ』


 聞いたことがない声が頭の中に響いた。

 誰の声なのかわからないが、その声を聞いた瞬間にアルフレッドが飛び出した。


「あっ、おい!」


 俺は思わずアルフレッドを追いかける。

 作戦が全て無駄になる、と思いつつもクリスの元へ走っていった。


 止めたほうがいい。

 だけど、止まらないでほしいと願いながら。


 そんな願いが届いてしまったのか、アルフレッドは門の前で急にパタリと落ちた。


 完全に作戦失敗。

 だが、それ以前のことだと俺は知る羽目になる。


〈カッカッカッ! これはこれは。まだネズミがいたか〉

「なっ」


 鎧に攻撃されたのか、ぐったりと倒れているクリスの姿があった。

 だが、それよりも俺の目に留まるものがある。


 側頭部から突き出るかのように生えた立派な二本のツノ。

 そのツノが生えた兜を被り、漆黒の鎧とマントに身を包んだ男がいた。


 その男は明らかに格が違い、感じたことのない威圧感が俺に襲いかかる。

 圧倒的な強者とはまさにこのことなんだろう。


 そんな男が、倒れているクリスの首に刃を突きつけている。


「クリス!」


 あいつを助けるにはやるしかない。

 俺は武器を手にし、飛びかかった。


 だが、剣を振り下ろした瞬間に男の姿が消える。


 思わずその姿を探すが、見つけられない。


〈粋のいい男だな。カッカッカッ!〉


 後ろから声が聞こえた。

 思わず振り返ると乱暴にクリスが放り投げられる。


 思わず剣を捨て、クリスの身体を受け止めるが俺はそのまま倒れ込んでしまう。


「いててて」

「シ、シキ、ごめん」

「謝るな。今はあいつに集中しろ。立てるか?」

「ちょっと、無理……」


 くそ、なかなかのことをしてくれるな。

 それよりもあいつ、何なんだ?


 まさか、あいつが厄災星のガランか?


〈カッカッカッ! 弱い弱い。これならお前に任せてもよさそうだな〉

「ありがたいお言葉。期待に応えてみせましょう」

〈では任せたぞ。ワシは先ほど捕まえたあれをどうにか取り込んでくるとしよう〉


「待て! 厄災星のガラン!」


〈ほう、ワシの名前を知ってるか。なら、身の程をわきまえろ小僧〉


 ガランは笑うことなく俺を睨みつける。

 その威圧はとんでもないもので、足が竦んでしまうほどだ。


 どす黒い殺気は心を締め付け、その場から逃げたくても逃げられないと本能が諦めてしまうほど恐ろしいものだった。


「お前の相手はオイラだ」


 そんなガランの手下である鎧が割って入ってくる。

 そのおかげか、俺は身体を動かせるようになった。


 そのまま俺はへたり込んでいるクリスを担ぎ、振り下ろされた大剣を躱すと鎧は舌打ちをした。


「ガラン様、ここはオイラにお任せを」

〈さっさと片付けろ。期待している〉


 ガランは去っていく。

 それを確認した鎧は大剣を振りかぶり、戦闘態勢に入った。


 こうなったら真正面から戦うしかない。

 クリスが動けないうえに、アルフレッドも倒れたままだから俺だけでどうにかするしかないな。


「お前、倒す! オイラ、強くなる!」

「やれるものならやってみろ!」


 思いもしない戦いが始まる。

 それが、まさか意地のぶつかり合いになるとは思いもしないまま――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る