★17★ 呪いの王の頼み
二階層にある聖少女像に辿り着いた俺達は、呪いの王ロイズによって危機に陥っていたクリスを助けることに成功する。
ひとまずクリスの身体のことを考えてもう少し休もうと提案してみたが、それはいいと断られてしまった。
「私が寝ていた間にも、ニルフィが何かされているかもしれない。なら、早く助けてあげなきゃ」
「気持ちはわかるが、それで自分が倒れたら意味ないだろ?」
「だから、私はもう大丈夫だって。とにかく行くわよ」
といった調子で俺の言葉なんて聞いてくれない。
それだけ妹想いってことなんだろうけどな。
〈クリスのことが心配か? シキよ〉
「当たり前だろ。あれは相当無理している」
〈なら、早く安心できる状況を作ってやるんじゃ〉
「そう言われてもなぁー……」
〈このパーティーのリーダーはお前じゃ。信頼を得るのも環境作りするのも、重要な仕事じゃぞ〉
アルフレッドの言う通りか。
とはいえ、それはすぐにできることじゃない。
できるだけ早く信頼を得て、クリスが休める環境を作ってやらないとな。
「みんな、近くに転移床を見つけたぞ。きーっ」
そう考えている都合よく転移床が発見された。
案外いい働きをするもんだな、キッキーは。
「よし、それじゃあさっさと三階層に行こう」
「ええ。ガランを倒してニルフィを助けにいきましょう」
〈そうじゃの。とっとと厄介なことは片付けてしまおうか〉
こうして俺達は転移床を踏み、三階層へ移動する。
そこはそこで深い深い緑が広がる密林で、そんな緑が囲まれている場所からもわかるほど嫌な禍々しさを感じ取ることができた。
顔を向けるとその方向にはたくさんの建物があり、そこがキッキーの言っていたよろず村だと俺は気づく。
そして、そんな場所から放たれている禍々しい力は俺だけでなく他のメンバーにも伝わっている様子だった。
「厄災星のガラン、か」
一体どんな奴なんだろうか。
何のためによろず村を襲い、支配したのだろうか。
いろいろと疑問は尽きないが、俺達がやることは変わらない。
「さっさと倒してニルフィを助けにいくぞ!」
俺達の冒険はまだ始まったばかり。
その冒険で最初となる試練に、俺達は挑む。
★★ニルフィ視点★★
うぅん、お腹が痛い。
あれ、私は何をしていたんだっけ?
確か、シキ様の腕の状態を診察してて、それで大丈夫って判断して、それから――
「起きたか、女」
声をかけられて私は振り返る。
そこには綺麗な銀髪を持ち、吸い込まれそうな赤い瞳を持つ少年がいた。
というか、私担がれてる?
あ、動けないように手足が縛られてるし、これってとても危険な状況じゃない?
「暴れようと考えるな。あまりにも抵抗するなら殺すからな」
うぅ、最悪だよ。
まさかこんな風に捕まっちゃうだなんて。
お姉ちゃん、心配しているだろうなぁー。
シキ様、助けに来てくれるかな?
ダメダメ、待っているだけじゃあダメ。
どうにかして逃げ出す糸口を見つけ出さなきゃ。
でも、手足が縛られているし、下手なことをしたら殺されちゃうかもしれないし。
ここはちょっと様子を見るしかないかな。
そう思っていると綺麗な人の足が止まる。
どうしたんだろう、って思っていると思いもしない人の声が耳に飛び込んできた。
「久しいな、呪いの王よ」
「何の用だ、リヒト」
え? リヒト?
なんであの人がここにいるの?
というか、どうしてこの人と知り合いなの?
私は思いもしないことに驚き、顔を上げる。
そこには確かに貴族リヒトの姿があって、いつものように馴れ馴れしい笑みを浮かべていた。
「単刀直入に言おう。その子をくれないか?」
「断る」
「何、タダとは言わんさ。お前達の力の源でもある【千切れたページ】を三枚やろう。悪くない話だろ?」
え? ちょ、ちょっと待って。
なんでリヒトはこの人と交渉しているの?
というか、どうして逃げないの?
お姉ちゃんが敵わなかった人だよ。
機嫌を損ねたらリヒトなんて簡単にやられちゃうよ?
私がそうハラハラしていると、綺麗な人はちょっと不機嫌そうにしながらこう告げた。
「いらん。失せろ」
リヒトの横を綺麗な人は何かをすることもなく通り過ぎていく。
私は立ち尽くすリヒトを見つめながら一緒に移動すると、唐突に彼はこう叫んだ。
「いいのか? また自我がなくなるぞ?」
その言葉は何を意味するのか、わからない。
綺麗な人はリヒトの叫びを聞いて、こう言葉を返した。
「自我がなくならないうちにどうにかする」
綺麗な人は振り返ることなく、私を担いで進んでいく。
私な何がなんだかわからないまま、ただどこかへ連れて行かれる。
ここはどこなんだろう。
とても暗くて、寒くて、なんだか寂しい場所。
そんな所を歩く綺麗な人は、なんだかとても弱々しく輝いているように見えた。
「ついた」
彼はそう告げると足を止め、私の拘束を解いてくれる。
そしてある場所を指し、見るように促してきた。
指先に視線を合わせてみると、私の目に思いもしない光景が入ってくる。
それは渦巻く闇の真ん中で強烈な光を放つ少女の姿だ。
あの子は一体――
そんな疑問を抱いていると綺麗な人は答えてくれた。
「俺の愛した人だ。助けて欲しい」
愛した人?
なんでそんな人があんな闇の中にいるの?
それに助けて欲しいって、どういうこと?
「詳しい説明はしない。そうだな、今は彼女の話し相手になってくれ」
「お話をするだけ?」
「そうだ。それだけでいい」
何か意図があるかもしれない。
でも、あんなのを見たら放っておけないって思っちゃった。
「わかった。でもどうやってあそこに行けばいいの?」
「俺が連れていく。面倒も俺が見る」
「……わかった」
私がそう承諾すると、少しだけ綺麗な人は顔を綻ばせた。
彼女はこの人にとってどんな人物なのか。
どれだけ大切に思われているのか。
ちょっと気になりつつも、私は綺麗な人の手に惹かれて光る少女の元へ向かう。
「あ、あの……」
「なんだ?」
「名前、聞いていいですか?」
「……ロイズだ」
「私はニルフィです。よろしくおねがいしますね、ロイズさん」
これは彼女を想うロイズさんと、そんな彼女のために話し相手になる私の思い出。
短くも長い、楽しくも儚い、そんな思い出になる時間だ。
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