Ep11- 臆病者

しかしこの森は本当にややこしい立地をしている。簡単に服を貫通する草むら、何百年も生きているくらいの大樹、そして沼地に咲く花。この花に騙されかけて危うく沼地の泥を飲み込むをするところだった……魔物の出現率も高くツスチールベアのような大物まではいかないがガウルー(※攻撃的な狐系魔物)には何回も遭遇した。ただこっちの道は以前いった道とは違い、どんどん土地が下がっていっているのである。どんどん魔物の出現率が少なくなっていってる気がするし。魔物がいないということはもしかしたら人の生息圏かもってことだよね。もうそろそろ村とかにつくかもしれない。人と会えることを楽しみにしながらルンルンと歩くリゲロンだったが、この希望は違う形で叶えられるのである……しばらく歩いたリゲロンが目にしたもの……


「家?」


広く大きな湖の隣に小さく縦長な一軒家が立っていた。


「これでまともな人にあえる!」


駆け足で家の近くまで近寄ってみる。畑は近くにないのに何故か農具があったり窓がなかったり何より人が住むには小さすぎると思う。もしかしたら物置き部屋なのかもしれない。あともう一つ気がかりなことが……


「血の匂い?」


ほんのり漂う鉄の匂いと生臭さ。もしかしたら……いやいや魔物を解体したんだ。きっとそうだよ……、とりあえずドアを叩いて見よう。念の為、右手には針を装備しておき左手でノックをする……


「ごめんくださーい……返事がない?」


それから2.3度同じことを繰り返したがやはり返ってくるのは静寂だけ。ドアノブに手を掛けてみると鍵がされていないのがわかる。これって開けてもいいやつなのかな……一応警戒心をMAXにし開けて見ることにする。


「返事がないなら開けちゃうよ!って……え?」


その光景に驚愕する。4人用の縦に長い食卓が家の中心に置いてあり、その卓上にはいろんなものが散らかっている。謎の粉、割れたガラスの瓶、横たわるランプ、そんな中でも特別異彩を放つのが……


「肉片?」


人の手で千切れるようなサイズに分けられた肉片。そして向こう側に生首となった誰かの頭が置いてある。正直かなり怖い。血の跡がついてあったからまだ最近の出来事かもしれない。何よりその血の色があのディパイロと同じ色だったのが気掛かりだ。「紫薬族オーベルジーヌ」って言っていたか?紫色の肌ではないのだが自分の肌とも違う色だ。じゃあこの肉片は人族ってやつじゃないのかな?もっと細かく探索するために家の中への一歩を踏み出す。


トンッ


「……?」


今自分の体の何処かから謎の音がなった気がする。なにか悪い予感がする!この3日間で鍛えられた危険を感じ取る僕の第六感がそう言ってるんだ。


「近づくな!」


家の隅から人影のようなものと怯えた声が聞こえたのを確認したのと同時、体が急に地面へ引っ張られていく!


「うっ!」


足の踏ん張り生かしてなんとか立っててはいるものの地面へ引っ張られる力は相当だ。まるで大木に押し倒されるような。その力の中心は左手から感じた。ふと左手を見ると1と書かれた謎の紋章が浮かび上がってた。


「お前も俺を痛ぶりに来たんだろ!」


ひどく怯えた声は聞こえるものの正体を表さない。これってディパイロと同じで会話不可能な感じ?一応弁明してみよう。


「待って!僕は君を襲いに来たわけじゃないんだ!久しぶりに家を見たもんだから少し気になって尋ねてみようって思っただけなんだ」


敵意がないこと。そして目的。必要最低限のことは伝えた。でも返ってきた言葉は。


「嘘をつけ!じゃあ何故今針を持っている!?この世界の奴らは皆そうやって俺を騙した!お前らのよ゙うな悪魔なんかにはもう騙されたりしねぇ!!」


ほらね。やっぱりこうなる。でも確かに針持ってたら怖いよね。隠しときゃ良かった……それにしても人を信用しなさすぎじゃない?何かあったのかな?とりあえず能力がわからないから足をすべらせながら距離を取る。15mぐらい離れたとき、左手の紋章が消え体が軽くなった……。一体どういう仕組みなんだ……。とりあえず思った疑問を投げてみる。


「質問してもいい?君の家の中のあの肉片と頭は何?」


「あいつは俺を騙した張本人だ!だから殺した!」


「騙されて殺すなんてよっぽどひどいことされたんだね?」


「お前もそうだ!そうやって知らないふりをして騙すんだろ!?」


あちゃー。これは見事に警戒されまくってるね。にしても死体を肉片にするなんて余程のことだ。聞いてる感じだと肉片さんが悪者ってことでいいのかな?


「僕は弱いものの味方だよ?(自分自身も弱いから)」


「どの世界もゴミみたいな奴らしかいない。お前も俺のそばに立っているふりをしてただ俺が罠にかかるのを見てんだろ!?」


そういうと家から飛び出した声の主が姿を現す。僕よりも高い身長に細身、いやガリガリな体つきの男性。僕とは正反対の黒髪に鋭く睨む青い目、ヨレヨレの歩き方。何より僕と同じように体の服はところどころ千切れ血が滲んでいる。滲んでる血の色にも2種類あり恐らく彼自身の血と肉片さんの緑の血。


「一体何されたらそんなボロボロになるの?」


トンッ


彼が家から飛び出すと今度は右膝に例の1の紋章が浮かび上がると同時、右膝に大きな石でもぶら下げられてるかのような重みを感じる。


「グゥ!」


たださっきよりかは軽い感じがする。そんな事を思っていたら。


トンッ


今度は左手にまた紋章ができていた。今度は2と書かれている。すると今度は左手が右足に引っ張られていく。なんと左手と右足がくっついてしまった。離そうとしてもなかなか離すことができない。この体勢のままではまともに動けない。次に彼は割れたガラス瓶の破片を手に持っていた。


トンッ


そして破片から紋章が浮かび音が鳴るのと同時、左手と右足に目掛け高速の破片が飛んでくる。体を精一杯反らしてなんとか飛んできた破片を避けた。そう思っていた……


グサッ


「痛っ」


避けたはずの破片は方向を変え後ろから僕の左手と右足を貫通していた。

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家知らずのツバメ  記憶を失くした少年の冒険譚 ユービィ @yubyi

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