Ep10- 熊は2度空を飛ぶ
熊系料理……料理か……
「先生!何作っているの?」
「いい質問だリゲロン!今日の昼飯はムーンローベアの丸焼きだよ」
「やったぁ!僕シパお姉ちゃんが作る焼き肉は格段に美味しいんだ!焼き加減だけで言えばナーソマおばちゃんに並べるんだよね!?」
「当然さ!あたしは古い頃からナーソマおばちゃんに教えてもらってたんだよ?何ならあたしのほうが美味いまであるかもね!」
野外?での記憶みたいだ。シパお姉ちゃん?ナーソマおばちゃん?名前を聞いたら何かを思い出しそうな気がする。でも出てきそうで出てこないんだ。だけどとても暖かい気持ちになる。料理で思い出す記憶もあるんだね。ならせっかくだし……
「コホン! じゃあ今日の夜ご飯はツスチールベアの焼き肉にしよう!」「リゲロンクッキングスタート!」
作り方もシパお姉ちゃんのやつを見てたからなんとなくわかる。僕は針をナイフのように構える。
「ツスチールベアの準備をしよう!まずは皮は別に使うかもしれないから綺麗に剥いでおく。そして血管に穴を開けて血を抜いていく。血を抜いてる内に手と足の先っぽをこの間に切ってしまう。」
補足を入れておこうか。胸部には魔力炉と呼ばれるスキルや魔法を使う器官があってこの近くは魔力の影響のせいかあまり美味しくない。頭部は食べれるところが少なく何よりあんなおっかない顔を食べたいと思えない。なので脂肪が溜まっていて油がよく乗ってる腹部、筋肉が詰まっていて柔らかい腕と太ももを食べることにした。血も抜き終わったかな……これでツスチールベアの下準備は終わった。
「こんどは焼く土台を作ろう!」
「まずY字の枝を2本用意して水に一瞬浸したら少し間を開けて向かい合うように地面に指す。湿らせておけば火がこの枝に移っても多少なら大丈夫だからね。その枝の間に枯れ葉や乾燥した木をかき集めて山のようにしておく。そして火を……」
火をって火なんてどうやって起こせばいいんだ……そういえばシパお姉ちゃんは確か……石と石をぶつけて火花を作ってたんだっけ。
「じゃあ僕だって!」
そう思って手くらいのサイズの石を両手に持ち思いっきりの力で擦り続けた。……おかしい……なかなか火花が出てこない。シパお姉ちゃんはすぐ出せてた気がするんだけぉなぁ。筋肉痛で力が入れにくくなってるせいかもしれない。そして試行回数が70を超える時。
バチッ
「あ!」
とうとう拝むことができた!夕日と同じような橙色の雫が飛び散るのが見えた。これが火花じゃあ同じ要領で行けば!
バチッ
あれから5回くらいやっただけで火花が出てきた。なるほど石の表面を滑らせる感じでやるといいみたい。
ボッ
枯れ葉や枝の山から火が出て轟々と燃え上がる。夜中の火ってなんか幻想的だよね。よし、これでこっちも準備完了!じゃあ最後は
「肉焼き時間だ!」
手足の肉を関節ごとに切り分け腹部の肉も半分に分けたら真っすぐの木の枝で貫いてく。ちょうどY字の枝の分かれ目のところに置くことができるサイズになった。では早速、手の露出した骨を枝の分かれ目に置き回転していく。桃色だった肉はきれいなきつね色へと変貌し病みつきになる匂いを漂わせる。もう解説はいいかな!?早く食べたくてよだれがとまらない。では頑張った自分に対する感謝も込めて!
「いただきまぁぁす!」
歯が肉の中へと溶けていく。記憶をなくしてからというもの一度も食事という食事をしていなかった。口の中は雨水の酸っぱい味か血液の鉄臭い味しか感じていなかったから。でもそんな生活をしてきたのがありえないと思ってしまうくらいこの焼き肉の旨味は魅力的な味だった。カリカリと表面を覆うきつね色の壁を破ると中から幸せが溢れ出す。柔らかいかつ噛み応えのある食感、それに飛び出す肉汁。美味い……まるで空を飛んでいるよう、隣には羽を生やしたツスチールベアが手をつなぎ更に天へと連れてっていく。
「あぁぁ」
言葉が出ない。今の僕はどんな顔をしているんだろうか。きっと他人には見せられないくらいにアホな顔をしてるのがわかる。でもそんなことを気にしていられるほどこの肉の刺激は甘くはない。気づけば全ての肉を平らげていた。意識がお空を飛んでいる内に体が動き、勝手に焼き肉を作って食べていたのだ。もはや肉に取り憑かれてしまってるね。ありがとうツスチールベア……君の肉の味は絶対に忘れることはないだろう。使わなかった部分は果実が実っていた木の近くに埋めて上げることにした。こんなに美味しいんだ。他の魔物が余った部分を頂こうと群がって来るに違いない。そんなことを思っていると。
「ハァァァ〜」
お腹が満腹になったからか睡魔が襲ってきてしまった。急いで近くの登れそうな木に登ると同時に眼の前が暗くなった。
ピギャァ!ピギャァ!
鳥系魔物の鳴き声が朝を教えてくれる。目を覚まし木から降りた僕はツスチールベアの皮を使ってバッグを作って見ることにした。皮を2つ折にして端を細く切り紐状にした皮で縫っていく。もしかしたら僕には裁縫の才能があるのかもしれない。完成!ツスチールベアのバッグだ。よし!ディパイロの針をバッグに入れて必要なものものをかき集めた。もう出発してもいいが最後に……
「ハァ!」
果実を繋いでるつたを狙って針を投げた。「
歩き始めて20分後、とうとうはじめの場所にたどり着いた。3日しか離れてないけど今では実家のような安心感すら感じてしまう。でもまた違うところに行くから当分ここに戻ってくることはないんだろうなぁ……。色々あったけどここが一番落ち着くよ。ツスチールベアの右手の骨を一番最初に登っていた木のすぐそばの地面に刺しておくことにした。こうしたら次来た時にここだってわかりやすくなるでしょ?じゃあまたね、僕の目覚めた最初の場所……
「僕がこないだまでいた方向があっちだから、今度はこっち側に行こう!」傷も筋肉痛以外はなくなった。水も食料も補給完了。今なら「針投術」で自己防衛もすることができる。さぁまた新しい旅の始まりだ!
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