Ep9- 一刺入魂

ツスチールベアは既に上昇フェーズから落下フェーズへ突入している。大きく腕を広げ胴体を突き出しリゲロンという獲物へ飛びかかる準備を終えていた。これにはツスチールベアも捕獲を確信していた。何故なら獲物は動く様子はなく行動制限スキルもかけてある。そしてあの貧弱な体では己の鋼で覆われた肉体に傷をつけることすら叶わないと!ただしその確信は慢心でもあった……

「これがスキルの力!体に泥でも纏わりついてるみたいに!でも!!」

動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!

「ーーうぅぅごぉぉけぇぇぇぇぇ!!」

リゲロンは歯を食いしばりながらも体を動かす。左足を前にし思いっきり右肩をねじり針を思いっきり握る。それは針を投げる構え。そして……

グサッ

鋭いものが貫く。ツスチールベアの鋼の棘がリゲロンを貫いたのか……それともリゲロンの針がツスチールベアの鋼を貫いたのか……

「グォォォォォォォォ!!」

「やっっったああぁぁぁぁぁぁ!」

リゲロンの投げた針はツスチールベアの心臓へとめがけて投げられた。だがツスチールベアは手を大きく広げていたため防御できない。ツスチールベア自身大丈夫なものだと思っていた。あの銀髪の小僧の針一本で自身の命を絶つことなど到底無理なものだと。しかし現実は違った。

バタン

針によって勢いを殺されたツスチールベアはリゲロンの数歩前に着地した。心臓を刺され即死した熊系魔物がリゲロンの眼の前に転がっている。リゲロンも緊張が解けたのか膝から崩れ落ちる。呼吸するのを忘れるくらい集中していたからか息切れしている。

「ーーセェハァセェハァ……やって……やったぞ」

僕自身これが成功する確証はなかった。疲れ果てた体に行動制限スキルが合わさり体が思う通りに動かない。そしてまともに飛んだことがない針投げ……練習でも成功してなかったのに本番でやれなんて言われたら心に重りがかかるように緊張してしまう。でも今は自分が生きていることと針投げの成功に喜ぶべきだ。ふと気になったことがありステータステーブルを開く

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リゲロン(Lv5) 17歳 

種族 : 人族       筋力・・・2

職業 : 混技戦士     器用・・・2    グ

□ スキル        反応・・・2    ラ

□ 状態異常       魔力・・・1    フ

MP ・・・44/55      魔防・・・2

タイプ・・・遠距離投擲   知力・・・1

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まずレベルが3→5に上がっていた。ディパイロのときは筋力と魔防が上がっていて今回は器用と反応が上がっている。おそらくレベルが上がる時の経験がステータスへ配分されるのかな。スキルを見ると「針投術ニードルスキッピング」という技が増えていた。★がないということは自力で取ったものってことだよね?あれ?でもすぐ下に「針投術ニードルスキッピングⅡ★」がある??もしかして重複はせずにどんどん増えていく感じなのかもしれない。使い捨てなのがもったいないけど簡単に技やスキルが覚えれるのはとても助かる。状態異常を見ると「疲労困憊」「筋肉痛」「空腹」「女神の呪縛」。以前見たあのデバフの量を見たら少なく見えてしまう。どれも今の僕を表す状態異常である。「女神の呪縛」?こんなに危険な運命にさせられてるんだ。絶対この呪縛のせいだよ!よく見たら近接格闘だったタイプも変わってるね。今は遠距離投擲になっている。もしや「針投術ニードルスキッピング」のおかげかな。

グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

今までで一番大きなお腹の音だった。たしかによく何も食べずここまでやってこれたよね。顔も相当やつれてるんじゃ?そういえば自分の顔見たことなかったね……近くの水溜まりに自らの顔を写してみる。

「………………んーーなんて言うんだろう……」

柔らかそうでくしゃくしゃな銀髪の短髪で宝石のように輝く青緑の瞳……そして見た時に浮かぶ一番の印象は……

「……子供?」

顔が思ったより幼かったのだ。ぷにぷにとした頬の膨らみもあるせいかここまで来たら可愛いとも言える。少しショックだった。17歳というからにはもっと大人っぽくキリッとした目だと思ったのに……まぁいっか!大人っぽい顔になるまで生きてればいいもんね!よし!早速勝者の権利を使っていこう!楽しい楽しい料理の時間だ

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