推定無罪。には無らん!

桶星 榮美OKEHOSIーEMI

第1話 推定無罪。には無らん!

ピンポーン・ピンポーンと

一人の女がドアチャイムを鳴らしている


「待ち合わせ場所に来ないから

 迎えに来たのにアーヤ留守?

 もしかして、どっかで行き違ったぁ?

 電話してみよう」


【パッパッパッパッパッパ・パーパァー

 パーパァパァッパパ・パパパッパ】


スマホの着信音がドラクエだよ・・・


「中から着信音が聞こえる・・・

 ってことは中にいるのよねぇ」


ピンポン・ピンポン・ピンポン


「ええっ⁉何でさっきっから

 ドアチャイム鳴らしてるのに出ないの?

 まさか部屋の中で倒れてる⁈」


ピンポン・ピンポン・ピンポン

ドンドンドン・ドンドンドン


「アーヤ!アーヤ!大丈夫なの⁈」


ドンドンドン・ドンドンドン


「ダメだ反応無い、これヤバいんじゃない?

 どうしよう・・・救急車⁈警察⁈

 とにかく助けを呼ばないと」


ギィギィー


「あっドアが開いた・・・アーヤ!

 どうしたのよ、約束の場所に来ないし

 チャイム鳴らしても電話しても応答ないから

 めちゃ心配して警察呼ぼうとしたのよ」

「ゴメンねチィー、今日はキャンセルして」


「うん。あっ、その顔の痣どうしたの⁈

 あの男にやられたんでしょ⁉」

「大丈夫だから、もう帰って」


「アーヤ、体に血がついてるじゃないの!

 だから早く別れろって言ったのに

 血まで流させてアイツ許さないから!」

「しっ、静かにして」


「あの男が中に居るのね

 私がぶん殴ってやるから中に入れなさい!」

「あっダメ!入らないでチィー」


「おい!お前よくもアーヤをなぐ・・・

 ヒィーーー!血ーーー!」

「静かにしてよチィー」


「しん、死んでる・・・」

「うん・・・私が殺しちゃったの」


過疎化の進んだ小さな町で

所さん事件ですよ!


「こっ殺した・・・⁉」

「いつもみたいに殴られたから・・・

 花瓶で頭を殴り返したら倒れて・・・

 起き上がったら怖いから

 また殴られるから・・・

 だから包丁で刺して殺しちゃった」


「刺したって、めった刺しじゃない

 もうカーペットが血の海よ」

「うん、夢中で刺したから・・・」


「ちょっとアーヤ、誰に電話してるの?」

「警察。人を殺したんだから自首しないと」


「ダメー!」

「なんで?」


「一旦落ち着こう」

「チィーの方が興奮してるよ」


「そりゃ興奮するわよ、

 友達が人を殺したのよ、

 目の前に他殺体が転がってるのよ、

 血の海が広がってるのよ、

 普通に興奮する場面でしょ」

「まぁ・・・そうよねぇ」


「止めよう」

「何を?」


「自首、やめなさい」

「犯罪を犯したのにいいの?」


「悪いのはコイツじゃない、正当防衛よ」

「過剰防衛だと思うけど・・・」


「確かに・・・やり過ぎかも・・・

 でも警察に自首したら実刑よ

 こんなクズ男の為に刑務所入りなんて

 そんなバカバカしいこと無いわよ!」

「そりゃ私だって刑務所は嫌よ

 でも人を殺した事を隠し切れないわ

 いつかは警察に捕まるんだから

 自首して少しでも刑を軽くした方がいい」


「嫌よ!アーヤが刑務所に入るなんて!

 アーヤは私の大事な友達なのよ!

 残りの人生を楽しんで欲しいのよ!」

「じゃあ、どうするの?一生逃亡生活?」


「バレなきゃいいのよ」

「無理よ」


人を殺してもバレなきゃいいという

至極真っ当な意見


「コイツは親兄弟いないし友達もいない

 なんなら皆から嫌われてるから

 姿消しても捜索願いを出す人も無い

 だからバレないわよ」

「う~ん、そうかも」


「でしょ、だから無かった事にするのよ」

「無かった事に?どうやって?」


「うーん・・・」

「あっ・・・」


『バラバラにする!』


こういう時に息が合うとは

さすが友である


「そうよ、バラバラにするのよ」

「そうよねっ!でもどうやって?」


「・・・取り敢えずコイツを風呂場に運ぼう」

「なんで風呂場に?」


「ドラマとかで遺体を解体するのは

 風呂場がセオリーじゃない」

「あ~ぁ、あるあるドラマであるわぁ~」


テレビで観たドラマを参考にするって

あれはフィクションなんですよー!


『せーの。せーの』


と掛け声かけ息合わせ運ぶよ遺体をバスルーム


「何だか他殺体も見慣れるわねフッフッ

 ゲッ、はらわたが出てる・・・」

「本当だぁ~」


エッ!内臓が垂れ下がり⁉


「本当だぁ~。じゃ無いわよ

 どんだけ刺したのよ」

「さぁ~気が済むまで、かなぁ~」


『キャッハッハッハッ』


「フゥ~なんとか運べたわね」

「あっ!」


「なに?」

「今日お風呂入れない」


「あっそうかぁ、アーヤ血だらけだよね」

「うん、返り血浴びた~」


「暫くは私の家に泊まりなよ

 解体が終わるまでは風呂使えないんだから」

「助かる~」


「暗くなったら行こう」

「暗くなるまでまって、だね」


『オードリー・ヘップバーン!』


「取り敢えずはらわただけ出しちゃおうか

 素手で腸触りたくないなぁ・・・

 ゴム手袋と包丁とゴミ袋をお願いします」

「了解です」


「この包丁、切れ味抜群ねぇ」

「でしょ~TV通販で買ったのよ~」


「今日中に内蔵は全摘出できるわね」

「摘出してどうするの?」


「北側の山が烏の寝床じゃない

 今夜の内に蒔いて置けばぁ」

「烏が食べてくれる」


「完全なる証拠隠滅~」

「烏から感謝される~」


『キャッハッハッハッ』


ゲッ、烏を使って証拠隠滅かよ!


「じゃぁそろそろ烏の餌やりに行きますか」

「賛成~。ねぇ晩ご飯何にする?」


おいおい随分と楽しそうに

恐ろしい事をしてるじゃないですか

この二人の頭の中はどうなってる?


********


「遺体の処理はシンプルイズベストよ」

「そうよね、薬品で溶かせるけど

 薬品買ったら足がつくもの

 シンプルがベストよね」


「という事で、ゴムエプロンよ~し」

「ゴム手袋よ~し」


「黒ゴミ袋よ~し」

「チェーンソーよ~し

 それにしても烏は食欲旺盛よねぇ」


「本当よねぇはらわたをキレイに平らげてねぇ

 では昨夜の計画通り始めましょう!」

「首を切断、ゴミ袋に㏌」


「車でひいて」

「潰す~潰しまくる~」


「おぉ首って簡単に切れるじゃん」

「これなら楽勝だわぁ」


「さあ、車でぺしゃんこだ~」

「運転はお任せあれ~」


「10回もひいたから大丈夫だよね」

「ほら持って振るとカシャカシャ音」


「おぉ~、黒くて中は見えないが」

「砕け散ってる音よ~ん」


「明日は~」

「可燃ゴミの日~この男は粗大ゴミだけど」


『キャッハッハッハッ』


「そして~体を切り刻んで~」

「寸胴鍋で煮込む~」


「しかしよく大きな寸胴鍋を二つも

 持ってたわよねぇ」

「ほら、パンデミック前は祭りで

 もつ煮込み作ってたじゃない

 あれ何故か知らないけど私が作ってたぁ」


「そうだった。アーヤのもつ煮は

 本当に美味しかったもの」

「今は、もつ煮ならぬ人煮だけどねぇ」


『キャッハッハッハッ』


「よし、今日中に体を切断するぞ!」

「今日中に煮込むぞ!」


「じゃぁ手首足首は

 この大型フードミキサーで粉々に」

「チィーよくこんな物を持ってたわね」


「テレビでジャパネットなかな観てね

 つい買ってしまってたぁ」

「わかる~つい買っちゃうよねぇ~

 ザッなかなマジックよねぇ~」


「まぁ使うのは今日が初めてだけど」

「うっ、初使用が死体でゴメンね・・・」


「いいのいいの、どうせ買っただけで満足して

 使わないんだから」

「怖いわぁテレビショッピングって怖い

 まさに大人の罠よねぇ」


『キャッハッハッハッ』


「夕方までに骨から肉を剝がさないと」

「よし!やるぞ~!」


「はぁ~、アーヤの煮込みが上手かったから

 思いのほか剝がれやすくて助かったわぁ」

「人肉を煮込むのは初めてだけど

 自分でもビックリするほど良く煮えたわぁ」


「今日のノルマは終わり。明日は骨の処理」

「今夜もチィーの家に泊めてもらうんだから

 夕飯は私がカレーを作るね」


「おぉ有り難い」

「では、スーパーに寄って買い出し~」


おっお気楽過ぎはしませんか?

人肉を上手く煮込むって・・・


********


金槌かなづちで骨を砕いて~」

「からの~フードミキサ~」


「そして粉になった骨は~」

「花壇に蒔いて土に吸収~」


ああ、そうそう

カルシウムは良質な肥料になりますよね


「はぁ~死体処理終わった~」

「後は血の付いたカーペットを小さく切って

 ゴミ袋へ入れて新しいカーペットを敷く」


「いやん、可愛い花柄じゃない」

「でしょ、前から可愛いカーペットに

 替えたかったのよん」


「部屋が明るくなったわね」

「やっぱり花柄にして良かったぁ」


ほう、クリーム色のカーペットに

赤・青・黄・オレンジの花模様が施されて

確かに可愛い

こんなとこは乙女ですなぁ


ピンポ~ン


「おっ荷物が来たなぁ」

「えっ?チィーが何か頼んだの?」


「うん。アーヤ目をつむって」

「なになになに?」


「じゃ~ん」

「うわ~ケーキ。お疲れ様の打ち上げ?」


「なに言ってるのよ、

 今日はアーヤの誕生日じゃないの」

「忘れてた~」


「アーヤの好きなバタークリームの

 バースデーケーキですよ~

 ネットでお取り寄せしたんですよ~」

「キャッ嬉しい~い」


「ロウソクも数字のやつ頼んだのよ」

「いやん嬉し過ぎですぅ」


「アーヤ79歳おめでとう~!

 70代最後の年の抱負は?」

「まだまだ元気で100歳目指します!

 チィーは今年80歳だものね

 私もおチィーの誕生日は祝いするからね」


「楽しみにしておりま~す」

「期待していてくださ~い」


「緊急事態宣言も解除されたし

 巣鴨銀座に行けるねぇ」

「久しぶりに東京に行けるねぇ」


「楽しみだんなぁ、綾ちゃん」

「うんだなぁ千津ちづさん」


「やっぱ長生きはするもんだなぁ」

「本当だぁオラまだまだ長生きすっぞ」


「オラ達はぁ清く正しく美しく生ぎできたぁ」

「これからも清く正しく美しくだべぇ」


かくして高齢者が七割を占める

静かな田舎町で

密かにシンプルイズベストな方法で

殺人・死体遺棄・死体損壊・証拠隠滅等罪

の罪が侵され隠蔽された・・・


恐るべし女達というべきか・・・

恐るべし後期高齢者というべきか・・・



   ————おしまい————








 







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