第10話 その後のこと

 その後どうなったかというと。


 結論からいって、すべて目論見どおりに事は進んだ。

 僕のスキャンダルがでっち上げだという証拠は瞬く間に拡散され、日本全国に知れ渡ることとなった。


 おかげさまで完全に名誉は回復したといっていいだろう。実際僕の元に来たDMのほとんどが同情だったり、そしてアイドルへの復帰を求める声だった。


 嬉しくはあるが、気持ちとしては複雑だ。どうであれ一度は裏切られた身なのである。

 素直に受け取るし、許すつもりではあるけれど、残念ながら要求に応えることはないだろう。つまりアイドルには戻らない。それが正直なところだった。


 また亜希との約束のこともある。復讐の手助けをする代わりに、今後仲間に加わってほしいというあれだ。

 その約束を反故にするほど礼儀知らずな男ではない。

 うまくいったから後のことはどうだっていい。そんなふうに考えてしまったら輪島記者と同類になる。なのでそれだけはありえなかった。


 果たして自分が役に立てるのか。あまり自信はないけれど、それでも全力を尽くす気ではいた。


 これから相棒としてよろしくね、そして復讐成功のお祝いを兼ねて。輪島の鼻を明かした数日後、例の隠れ家的なバーで乾杯することとなった。

 ドリンクはもちろんラムソーダだ。


 これで何度目になるだろうか。僕は改めて亜希に礼を述べた。


「あのとき亜希に出会ってなければ、今頃こんなふうにお祝いすることもなかっただろう。ほんと感謝してる」

「もやもやは完全に晴れましたか」

「ああ、おかげさまでな」

「それは何よりです」


 亜希はやりがいに満ちた表情をしていた。


「ヒロは優しいところがありますからね。ひょっとしたら心に引っ掛かってるのかもしれない、とひそかに心配していたのです」

「輪島の……嫁さんのことをいってるのか?」

「ええ、まさしく」


 もうひとつ言い忘れていた。それが輪島嫁のことだ。

 輪島にも宣告していたように。彼がパパ活をしているという事実も、容赦なく世間に向けて暴露しておいた。

 それが原因で家庭は崩壊。離婚する運びとなったというわけだ。


 亜希は僕が輪島嫁に対して。悪気を感じているのではないかと疑っていたのだった。


 しかし実際そんなことはない。


 たしかに巻き込まれて可哀想だなとは思ったものの。だからといって自分に非があるとも思ってないのだ。

 すべての責任は輪島記者にある。責めたり恨みたいのであれば、その矛先は彼に向かうべきだろう。


「その心配には及ばないよ。僕は僕のやるべきことをやったまでだ」

「そこに一切の後悔はないと?」

「当然」


 ベストを尽くしたのだ。後悔が生まれるはずもない。

 嘘でもなんでもなく、ほんとに胸がすっとしているのだった。最高にハッピーな気分だ。


 亜希の始めた復讐稼業には感謝しかない。

 この広い世の中には僕らと同じような被害に遭い、困っている人も少なくないだろうから。そんな人々の助けになれれば、少なからず社会的意義はあるだろう。


「復讐とはなんとも素晴らしいことだ。中には毛嫌いするやつもいるけど、体験した身としては素直にそう感じた」

「やっぱりそうですよね」

「ああ。そして今後は手助けする立場として携わっていけるわけだ。なんだか新たなやりがいを見つけたような気がするよ」


 その直後、亜希の顔がぱーっと華やいだ。


「ということはつまり……私の相棒になってくれるということでよろしいですか?」

「そういう約束だったからな」


 僕も僕でにっと笑って返した。

 それから手にしていたグラスを小さく掲げてみせる。


「まぁ精一杯務めさせてもらうよ」

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嘘のスキャンダルで僕をアイドル引退まで追いやった週刊誌記者に復讐する 塩孝司 @siokouji_kaku

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