第31話 エピローグ

 美来が宇宙の果てから帰還をして、事態が大きく変わり始めた。


 サル族の存在が明らかになり、美来の持つサティから、そのテクノロジーはイヌネコ族のそれを上回るものと予想された。


 破損しているとは言え、美来のサティは稼働しており、異星人にとっては十分な脅威になり得るだけでなく、場合によってはサル族を呼び寄せることにもなりかねない。


 そういったことが両者首脳+サル族代表(仮)の美来とで協議されることとなり、結果人間をサル族の仲間として扱うことに決まった。


 協議は数日間にわたり、サル族存在の証拠が美来の持つサティしかなかったため、あちこち引き回され、テストされ大変な目にも遭ったが、同等以上の技術を持った存在がいることだけは確かなものとなったようだ。


 その後も、「このあとはどうするのか?」という議論が数日間続いたが、美来には飛び交っている言葉のほとんどが理解できなったので、何を聞かれてもただ「仲良くしましょう」と答えるだけだった。


 結局、「イヌ星人、ネコ星人共に地球から撤退」という結論に収まった。


 地球の進化は原生生物の自然な流れに委ねられる。


 要するに「従来通り」の世界に戻る。


 流刑の星に飛ばされた者達も地球に戻り、住居も返還される。


 地球よりも居心地が良くて、戻りたくないという者も稀にいたようで、若干元の人口よりは少なくなった。


 ただ虐待などの咎によって飛ばされた者は、厚生が見られるまで戻されることはない。財産も没収。


 更に稀だが、宇宙への同行を願う者もいたようだ。科学者や中二病など理由は様々だが、隷属する立場となってでも宇宙に進出したいのだそうだ。


 そういった人の減少はあったものの、世界は異星人侵略前に戻った。


 従来通りとは言え、お猫様も御犬様もヒトも対等。


 実際には動物愛護法がより徹底されたというだけだ。






 美来は久しぶりにゆっくりとれた睡眠から目覚める。


 ロータスもそれを察知してそばに寄り、頭突きによるネコ挨拶をした。


 美来がベッドから起き上がると、ロータスは壁一面に設置されているネコタワーに登った。


 結局美来はロータス邸を追い出されることはなかった。


 前の職場は人員が大幅に減ったこともあって解体され、今美来は無職なのだが、GGが円に換算されたので当面の生活には困らない。


 ここしばらくはあちこち引っ張り回されていたので、もう少し休みたいのが本音だったが、ロータスとの時間もあまり取れていなかったので、「遊ぼう」とせがむロータスのお願いを断ることもできなかった。


 テレビを付け、適当な番組を流しながらロータスとオモチャで遊ぶ。


 まだ完全ではないが、番組は元の形を取り戻し始めていた。


 携帯も元通りなので家族とも連絡は取れたが、久しぶりに直に会いに行ってみるか、などと考えていると玄関の扉が開く音がする。


 ほぼ侵略前の世界に戻っているが、一つだけ大きく変わったことがあるな……と美来の顔はは期待に綻ぶ。


 部屋の扉が開くと、美来は顔を向けて声をかけた。


「いらっしゃい、ランファさん」


 そこには巨大なネコの姿があった。


 いつもの宇宙服は着ていない。


 ランファは喜びの声を上げるロータスにも挨拶すると、大きなソファに寝そべる。こういうところはまんまネコだ。


 あれから異星人たちは地球を去ったが、不可侵条約などは無い。


 来訪して観光するも貿易するも自由だ。もっとも宇宙の技術や製品を人間が買おうにも支払う対価となるものは無さそうだ。


 巨大円盤も数は減ったが建材で、そこから外宇宙へと行き来できるようだが、惑星間の航行は厳正な決まりがあるのか、手続きが大変で簡単にはできないらしい。


 なので異星人が新たにやってくることはあまり無いだろう。


 移動は大変でも滞在することもまた自由なので、一部の異星人は引き続き様子を知らせるために地球に残っている。


 ランファはその一人だ。


 自然な進化に任せるとは言っても、人間が人間の都合で核戦争など起こそうものなら、他の動植物達が巻き込まれる。


 当然イヌやネコもそれに含まれてしまうので、種族間の抗争に発展してしまう。


 そうならないよう監査役として何人かが残っている。宇宙服を着るかどうかは個々の好みのようだ。


 美来もサル族代表として異星人の監査をする権限があるのだが、正直よく分からないので介入したくない。


 サル星人は他種族との関わりを望んでいないと伝えてあるので、積極的に探し出して交流するということはないそうだ。


 美来もサル星人がどこにいるのか知らないし、交流も持っていないしするつもりもない。


 美来の危険性を訴える異星人が、美来は一度サル星人のいる場所に行ったのだから、再び行くことが可能なはずで、サル星人の存在を無視することはできないとか言っていた。


 行ったのは衛星で、そこも破棄されるところだと行っていたから、そう簡単ではないのだろうが、そこは黙っておいた方が良さそうなので秘密にしておいた。


 美来に言えるのは「そんなことにならないよう、みんな仲良くしましょう」ということだけだ。


 美来はランファの隣りに座って、もふもふの毛皮に抱き着くように密着する。


 ロータスの反対側で同じように座った。


『宇宙服は着心地の良い物ではないのだが、無いと地面が熱くてな……。お前達の真似をしてクツなるものを作ろうと思うのだが、どんな形が良いのか相談したい』


 それなら作ってあげますよ、と色々なデザインに思いを馳せる。


 それがあればここに通うのが楽になる、と無機質に喜びの言葉を発する巨大ネコに、


「ならここに住んじゃえばいいんじゃないですか?」


 と言うと固まってしまった。


『そんな方法があったか。ロータスとミライが良いのなら、我はそれで構わない』


 じゃ決まり、と美来のランファの毛皮に顔を埋める。


 その頭を大きな肉球がそっと撫でた。

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ネ甲の惑星(ねこーのわくせい) 九里方 兼人 @crikat-kengine

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