病弱だった未亡人と護衛長の愛

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 それから十年の時が経ち、セオドアは二十八歳になった。

 護衛長の立場に任じられたセオドアは、今でもドラクレア家に誠心誠意仕え、彼女の愛したドラクレア領と、家督を継いで領主になったフローレンスの弟を守るために奮闘していた。

 そんなある日、フローレンスの夫である侯爵が亡くなり、フローレンスがドラクレア領に帰って来るという報せが届いた。


 報せを聞いたセオドアは、表面上冷静さを保っていたが、フローレンスが好きだった花を庭に植えたり、彼女の好きな茶葉を揃えたり、彼女の好きなお菓子を焼いていたりと、かなりそわそわしていた。

 そんなセオドアの姿を、フローレンスの弟や他の使用人たちは微笑ましく見守っている。

 

 フローレンスは元々、病弱で長く生きられないだろうと言われていた。

 侯爵は若くして後妻になってくれた彼女をとても大切に扱い、病状が良くなるように様々な医者を当たって手を尽くしてくれた。

 その結果、フローレンスの体調は安定し、陽の光の元でも活動できるようになった。 

 侯爵は、フローレンスへの遺書に、『心から好いた人と幸せになりなさい』と書き残していたという。

 フローレンスは、侯爵に尊敬と深い感謝を抱いていた。

 

 亡き夫である侯爵の喪が明けた後、フローレンスは、馬車に乗り、実家であるドラクレア家に戻る決断をした。


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 馬車から降りてきたフローレンスは、十年の時を経ても美しく、セオドアを見つめて涙を流した。フローレンスは、セオドアの胸に飛び込んだ。セオドアは彼女を抱きとめて、涙をこぼした。

 十年という長い時間が経っていたが、それでもなお、お互いに言葉がなくても想いが通じ合い、視線を交わすだけであの頃の想いが蘇るようだった。

 セオドアは、万感の思いを込めて彼女の名を呼んだ。


「フローレンス様」

「昔みたいに、フローレンスって呼び捨てにして」

「……急には、難しいです」

「そうね、ゆっくりでいいわ。時間は、たくさんあるから……」 


 フローレンスとセオドアは、フローレンスの弟ドラクレア領主の許しを得て再婚し慎ましやかに暮らした。 

 二人は、小さな庭のある家を買い、仲睦まじく過ごしたという。


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