15 狩人〈ハントマン〉たちの結束

「おうおう、カズ。お前も避難に来たのか?」

「俺は防衛を手伝いに来たんだよ。……自衛官の人たちが色々と動いているし」

「ふゥん?」


 晩冬に差し掛かったころ。

 昼間の小学校の教室の中で俺とサネアツはストーブの前で暖まっていた。他にもゆるゆると過ごしている人たちはいるようで、彼らは一様に〈セブンスコンクエスト〉のユーザー、狩人ハントマンということらしい。

 どうやら電力は自衛隊の設備によってまかなわれているようだ。


 こちらの言葉にサネアツは歯に衣のかかった相槌を打つ。

 〈セブンスコンクエスト〉の掲示板で貼られていた長浜さんの写真や動画を柿崎さんに流すとすぐに連絡が来た。

 曰く、『君はなにもしなくていい』と。

 そうは言われてもこの災害――〈大転変〉においてできることは多い。もし柿崎さんたちが長浜さんを救助するために小学校の防衛から戦力を引く場合、友人たちが危機に陥る可能性は上がる。

 この間の黒色のオークがもう一度来ないとも限らない。……自分でできることをやらなければ後悔しそうだった。


 話題が途切れたところでサネアツは「おお!」となにかを思いついたよう。

 

「そういえば〈7CQ〉見たらさ、無茶苦茶強くなってたんだけどカズ、お前なにかした?」

「俺が? ――あ」


 そういえばサネアツとも廻橋とも未だにパーティ登録をしている状態だということに気付く。いま分かったのだが、黒いゴブリン――〈苛烈卿〉との戦いで得られたものは同様にパーティメンバーに配分されるらしい。

 しかしコトの詳細を話してしまえば「また危険なことに首突っ込みやがって!」と叱られてしまうのはわかりきっている。

 うんうんと唸ってサネアツへの報告を先延ばしにしていると、後ろからふわりと良い香りが空気に乗って鼻腔をくすぐる。


「先輩また危ないことしてたんです?」

「げっ、廻橋」

「げっ、ってなんですか。まあ先輩が危ない真似をしているなんて昔から知ってましたけど」

「俺は基本的に危ないことはしないよ。高校の活動もサネアツが主体だったし」

「きっかけはおれでもコトに及ぶのはお前からなんだよなー」


 いや、そんなわけないだろ……。ないだろ?

 廻橋後輩に視線をやると「友泉寺先輩が爆弾を持ってきて先輩が爆発させてるって話をいつも聞いてました」とすげない態度。

 ええー、俺はそんな危ないやつじゃないよ。よしんば俺が悪くても問題事を持ってくるのはサネアツなんだからな。


「それで、どうして短期間でそんなに強くなったんですか?」

「小学校の近くに動かないボスが居てさ、そいつにやられて家に強制的に帰還させられて〈7CQ〉がバグってボス討伐報酬をくれるうちに……ってわけ」

「思ったより運営にサイレント修正されそうなバグですね?」

「三世代くらいの携帯ゲーム機のバグ技っぽいな」


 だけど今のところ修正されているわけではないんだよな……。修正されるまでしゃぶりつくしてやるぜ、ぐへへ。


「まあそいつもあと二日以内に終わらせないとダメなんだろうけれど」

「それまたどうしてだ?」


 サネアツは不思議そうにこちらを見やったあとに視線を廻橋と合わせた。

 どういうことだろうか、という疑問を確認し合ったのであろう。


「そいつにはなんらかの時間制限があってさ。それが切れると……多分ボスは自由に動けるようになるのかもしれない」


 この間のような特殊な魔物に対応できなかったこともあり、自衛隊だけでマンションのボス、〈苛烈卿〉を押さえ込むのは難しいと俺は判断している。

 狩人ハントマンが発起して自衛隊と戦うことになれば確実に自衛隊が勝利をするだろうが、モンスターに対してはあまりアドバンテージを得られているわけではないらしい。


 ボスが解き放たれるかもしれないという可能性を話すと二人の表情が険しくなる。

 広い教室の中であってもさすがに部屋の真ん中のこたつで駄弁っている人の声は聞こえるのか、ストーブに当たっていた狩人ハントマンたちの表情も同じように危機感を持ったそれとなった。

 緊張が走る教室の中、廻橋は深く息をついた。


「……それって、わたしたちの力でどうにかなる問題なんですかね」


 暗にもっとちゃんとした機関に任せるべきなのではないか、と廻橋は言う。


「俺はやるよ。やれるかもしれない力があるなら、俺はやりたい」


 俺は人生において何も持たない。

 家族も親戚もいない天涯孤独の身で、配偶者だって『これから』の話になる。

 失うモノが自分の身一つなのだ。行動するには身軽だ。


 廻橋もサネアツもこちらを見据えてふっと笑う。

 そして廻橋は吹っ切れたように口角を上げる。


「先輩をひとりにしておくとそのうち消えていなくなりそうですし、わたしも手伝いますよ」

「おれも身内が死ぬのはイヤだからな。お前も廻橋ちゃんも家族も、みんな取りこぼしがないのがハッピーな道ってやつだな、うん」


 ははは、と三人で笑い合う。

 その様子を見ていた狩人ハントマンたちはなにかを決心したかのようにグループごとに顔を合わせ、頷く。

 そして少し離れたところからこちらに声をかけてくるのだ。


「……外崎、俺たちもやれることはやるよ。正直自衛隊のやつらに〈7CQ〉を捨てろって言われた時はムッとしたけどさ、それでもあいつらの邪魔だけはしたくない。なんならみんなにとって良いことをしたいんだ。君みたいにデカブツを追い払えるわけじゃないけれどさ」

「私もこのままなにも出来ずに死にたくないしね」

「だから、なにかあった時は僕たちにも任せてくれよな」


 総勢二十名ほどの狩人たちが集まって「一緒に頑張ろうな」と声をかけてくる。

 誰が呼んだか〈大転変〉と呼ばれ始めた大災害の中であっても、団らんは繰り広げることができる。


 そしてその日の夜、避難所の運営がギリギリになる人数まで長浜さんの救助へと隊員を派遣したのだとか。

 残った隊員も焦りや不安を隠せなくなっており、対応すべき出来事に対して余裕がなくなってきていることが部外者の俺でも理解できたほどだ――。

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世界アップデートでモンスターが溢れました~ベータテスターのユニークスキルで俺の家だけ魔物が侵入できないようです~ 芦屋 @saysyonen

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