14 どちらを選ぶか

「……この分だと学校を〈聖域〉にするのは無理そうだな」


 家に帰ってきて布団の上に寝転がる。ぼす、と枕が音を立てると、そのまま眠ってしまいたい欲望が鎌首をもたげてくる。

 今日はデカいオークも退かせたし、ボスのゴブリン〈苛烈公〉にもドツかれているので疲れは溜まっていた。


「やること片付けてから寝ないと……」


 ささっと部屋着に着替えて俺はパソコンを開く。

 日課の情報収集である。

 パソコンの本体に『長浜史ながはま・ふみ』さんの写真をセロテープで貼り、もしも彼女を見つけられた時に反応できるようにしておく。


 長浜史さんは尾鳥おのとり市の中心街に住居を構えているそうだが、自衛官の柿崎さん曰く、彼女を発見することはできなかったと。

 柿崎さんは「もしかしたら災害前後にどこかに移動をしたのかもしれない」とも。

 〈セブンスコンクエスト〉の解析という大きな仕事があるというのに、仕事場やアパートを離れるというのはなかなかに想像しがたい行為ではある。魔物の危険性については十分理解しているとのことから、わざわざモンスターと戦いに行くような酔狂な人でもない限り、外に行くことはないはずだというのに。


 なお長浜さんの部屋は荒らされていなかったそうだ。ただ仕事は仕事と考えているのか、家にパソコンはなかったらしい。

 親しい人もいないということで彼女の行く先はいよいよ分からなくなってくる。


「ん……? これは、なんだ……?」


 SNSのポストに、『尾鳥のタワーにやべーやつが居座ってる』、『バリバリ電気放電してんじゃん』などと書かれているものがある。

 あまりに遠くからそいつを映している動画のため、途中から動画投稿主が外部から道具を使って無理矢理に度数を上げていく。


 すると、そこに映されているものは一匹の金色の鳥。鳥が天空に向かってけたたましく鳴くと、そいつの身体からいくつもの電光が弾けてはどこかへと飛んでいくではないか。

 動画の日付を見ると三日前のもので、ちょうど大災害が始まったあたりのものである。


 まさか、この鳥が電気系統を狂わせているんじゃないだろうな……。

 まったく、なんだってこの尾鳥市に居座っているのか。


 あれが居る限り尾鳥に電気が復活することはないのだとすると、自衛隊はそいつを討ち取らないといけなくなる。

 おそらくアイツも特殊なモンスターだろうから、自衛官だって倒せても被害は大きいだろう。


「こいつは後回しっと……」


 今どうにかできない敵に関してはどう避けるか、どうやって被害を防ぐかを考えた方がいい。倒せもしないものを倒せる皮算用をしてもなにも得られないからな。


 普通のSNSと比べると情報量は少ないが、〈7CQ〉のSNSはどうやら普通の通信ではないらしく、停電かつ電波が通っていない状態の尾鳥市からであっても普通に書き込みがあるようなのだ。


 先ほどとは打って変わってスマホで〈7CQ〉内のSNSを漁っていると、とある動画に突き当たる。

 和服姿に洋風のコートを着込んだ女性がうつろな目をしたまま、スマホを弄って魔物を召喚しているところを映したものだ。

 タワーの中、彼女はパソコンデスクに座らされたままなにかをキーボードで打ち込んでいる。


『魔物が和服の人操っててヤバい』

『尾鳥の坂境さかさかい区にあるタワーには行くなよ!』


 ビンゴ。自衛官の人が探していた長浜さんだ。

 だが長浜さんを操っている魔物は、モンスターというよりはもっと高位なもののようにも見える。人型をした魔物は、タワーの二階、長浜さんの後ろでなにかをささやいていた。


 俺はスマホで件の動画をダウンロード。これを柿崎さんに見せれば坂境区のタワーに直行するよう手を打つだろう。

 だがこの魔物に勝てるかどうかは別で、さらに言うなら小学校の隊員にも出動命令がくだるのであればあそこの守りは薄くなる。


 今日も黒いオークが小学校を襲ったばかりだ。アレに小学校が狙われているなら……。


 ……俺は、どうするべきなのだろうか。

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