13 現状説明
「〈セブンスコンクエスト〉については以前から調査の対象となっていた。魔物と戦うことが出来るなんて荒唐無稽な話を信じなかった人間も、実際に体験してしまえば考えを改めざるを得なかった」
当然と言えば当然なのだろう。アトランダムに配布されている〈7CQ〉は、当然ながら自衛官の目に届いていたようである。
そしてこれも当然ながら、俺の視点では『魔物と戦える非日常体験アプリ』であっても国防や治安維持の面で見ればこれ以上ないほどの危険な存在である。そう自衛官の人は言いたいのだろう。
けれども、小学校の音楽室に集められた〈7CQ〉プレイヤーはそのことに反感を覚えている人たちの方が多い模様。
もちろん俺だって良い気分ではない。
教壇に立っている自衛官の人はそんな俺たちの表情を一瞥して、脱帽し一礼をする。険しい顔の自衛官の思わぬ行動に教室内がどよめき始めた。
「ただ、この危機において積極的な助力には本当に感謝している。今回の襲撃に関しては君たちの素朴な善意によって大勢の命が救われることとなった」
どよめきから一転、自分たちの行動に誇らしさを持ったざわめきが周囲を満たしていく。
しかし、自衛官はこうも続けるのだ。
「いま現場に動員されている自衛官のほとんどは、この災害が〈7CQ〉によって起こされていると信じている。そしてその
この未曾有の大災害が〈7CQ〉によって引き起こされているのはプレイヤーであればうっすらとは思っていることだ。
しかし非プレイヤーである自衛隊がこの理解であるということは、おそらく俺たち一般プレイヤーが知っている以上の情報を握っているのかもしれない。
だがあの黒いオークのように特殊なモンスターに対しては被害多数と、災害そのものには非常にやりにくそうにはしている。
多数の一般人が避難生活を強いられる状況はこちらとしても不本意だ。自衛隊としてもこのままだとモンスター襲撃のたびに避難所の運営リソースを削られることになる。
協力する利点は存在しているが、向こうからすると継続して俺たちみたいな力だけを持った一般人が力になれるかの問題もあるのかもしれない。
「私……
ハントマンであれば守ることはできないが、一般市民であれば話は別。
話は分かる。しかし……。
渋い顔を俺たちはしているのだろう。そんな俺たちを見て柿崎さんはさらにこう述べた。
「昨日、
この話の筋道は『一般人は一般人らしく大人しくしていてくれ』というものだ。
これがモンスターによる災害ではなければもしかすると一定の効力はあったかもしれない。
だが、ここに居る大半は自衛隊の効力、その底が見えたのかもしれない。俺たち国民の頼れる組織がなくなってしまえば、そうなれば自分たちで生き抜いていくしかない。そしてこの災害の終わりは未だ見えていない。
その複数の条件が重なった結果……スマホを手放す人間はほとんど居なかった。
柿崎さんは非常に残念そうにしたのち、「命の奪い合いになるようなことは避けて欲しい」とだけ告げ、その場は解散となった。
◆
「やあ、オークを撤退させた立役者さん。少し話を伺いたいのですが、よろしいですか?」
「あー、柿崎さん。大丈夫ですよ」
ども、はじめまして。とお互いに軽く挨拶をする。迷彩戦闘服を着ている、先ほどまで俺たちに説得をしていた柿崎さんだ。
彫りの深い、険しい顔が決まる人だというのが先ほどまでの印象だったが、こうして対面で話をしてみると恐ろしいといった印象は受けない。
「外崎さんは和服の上にコートを着た女性を見かけませんでしたか?」
この三日間で、と柿崎さんから注文が入る。
しかしそんな伝奇ラノベで主役を張れそうなけったいな格好をした人物なんて見かけた覚えはない。
そのことを素直に告げると柿崎さんは丸く刈った頭をポリポリと掻いて困ったようにため息を吐く。
「その人が、なにかこの事態を打開するなにかを持っているのですか?」
そう訊ねてみると、柿崎さんはキョロキョロと辺りを見回して、小さな声でこちらに呟く。
「その人は『
言わないでくださいよ、と柿崎さんは人差し指を立てて笑った。
なにかを知っている人を、この人は探している。長浜さんは明らかに俺より〈7CQ〉を知っている存在だ。
……なぜこの大災害が始まったのか。どうすればこの大災害が終わるのか。
その答えを彼女は知っているだろうか。
多分、俺は具体的な目標が欲しかったのだと思う。
だから、柿崎さんに提案をしてしまう。
「長浜さん、探してみますよ」
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