第3話
「っていうわけで。アイザック。お前は今日限りでクビだ。ウチのパーティーにはもうお前みたいな弱いヤツは不必要な存在なんだよ」
「……え?」
一瞬、理解が追いつかなかった。
クビ? マジか?
確かに僕は最近、あんまり戦闘ではそこまで役に立たなかった。
このパーティーのメンツが強すぎるので戦闘に参加する確率は確実に減っている。
とはいえ、ミナトだけでなく、【疾風の竜巻】全員の命を幾度も救ってきたことがある。
僕はちゃんと役割を果たしていた。
なのにクビにされるなんて、そんなの、ありえる?
「もしかして僕、邪魔だったか?」
「邪魔ってゆうか、居ないも同然、みたいな感じかな? さっきの戦いにでもさ、参加せずに敵が全員消滅されるまでは全然姿を現さなかったしな。クビにしてもパーティーのダイナミックは大して変わらないのでむしろクビにしたほうが結果的にいいだろうなって思ってお前をクビにしたわけだ。ただそれだけ。みんなも賛成だよな? アイザックのクビに?」
ミナトがそう聞くと、ほかのパーティーのメンバーは頷いて肯定する。
なんの躊躇もなく。
「え? みんなどうしてそんな酷いことを?」
……信じられない。
なにか僕は、彼らに嫌われることでもしただろうか?
「僕はちゃんとミナトに充てられた役割を果たしていたじゃないか? ほら………」
「またそれか?」
僕の言葉を遮って、ミナトがそう言う。
態度も声も変わって、今はとてつもなく冷たい。
「役割役割ばっかでもううんざりだ」
すると次の瞬間……彼の拳が、僕のみぞおちに突き刺さった。
暗殺者クラス特有の身体強化スキルが施されているにも関わらず、レベル70の剣士の拳など、ほとんど武器と変わらない。
幸いなことに、その猛烈な一撃を【暗殺者の導き】でなんとか耐えることはできたが、息は出来ない。
地面で痛みに身悶える僕を見下ろしながら、ミナトか吐き捨てる。
「次、役割なんて言葉を口にしていたらマジで殺すからな」
脅しだ。
その脅しを聞いて、僕は地面に倒れ伏したまま本能的に着ているシャツの裾の内側に隠れられている投げナイフを密かに装備する。
殺される前に殺す。
暗殺者のセオリーのひとつだ。
するとミナトは、
「ん? 何も言い返すことはないか? ちぇ。それだから無能で弱い、おまえが。 二度と俺らの前で現れるな。とはいえ、ここでどうせ死ぬだけどな。」
そう言い捨てると、魔石を集め終わった残りの3人のパーティーメンバーへ向かって歩き出す。
「アナ、帰還の結晶の準備は?」
「終わった」
「じゃあ、さっさと出ようか」
一度迷宮に足を踏み入れたら、《帰還の結晶》を持っていなければボスを討伐しないと出られない。
何故、そんな仕方になっているのかは僕には全く見当がつかないが、つまり【帰還の結晶】がない限り地上に戻れるには迷宮のボスの討伐は必須だ。
《帰還の結晶》は、主に強敵や中ボスが討伐される際に落とされる貴重なものである。
けれどそのドロップ率がとても低い為に、必ずしも手に入れるとは限らない。
とはいえ、《帰還の結晶》に限らず、魔物から他のものを定率で入手するのも可能。
ドロップ率を上げるには、運というスキルをあげなければならない。
もちろん、魔物の種類によってドロップされるアイテムは異なるが。
【疾風の竜巻】
僕が4年以上に所属していたパーティーは【帰還の結晶】を使ってその姿を消す。
迷宮の入口に移動させたに違いないだろう。
そして僕はひとりで、S級迷宮の【死神の深淵】に取り残されたのだ。
これから、なにをすればいいのだろうか?
仲間と思われたヤツらに裏切られたうえで強敵がいっぱいいる迷宮に取り残された。
僕は【帰還の結晶】を持っていないので、出られるにはこの迷宮のボスを討伐しなきゃいけない。
そんなの、レベル33で可能なのか?
もちろんレベルは全然足りてないので無理に違いない。
レベルを上げずにこのままボスに挑戦すれば、即死以外はありえない。
つまり少しでも生存率を上げたければ、レベルを上げなければならないのだ。
でも、果たして出来るか?
S級の迷宮なので雑魚でもレベルが僕より高い。
難しいが、する。
するに決まっている。
いつかアイツらを見返す為に。
そう決めると、僕は上半身を起こし、立ち上がる。
身体がまだ痛いが、歯を食いしばって無視する。
いつまでも弱いままでいられない。
絶対強くなる。
ただそれだけのことなのだ。
高難度の迷宮に見捨てられた【暗殺者】の僕は、敵を倒しまくって強くなる。そして気づいたらレベルは150になった。今さらパーティーに戻りなさいなんて言われても戻るわけないじゃん。 @kagami_tsukasa
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