第2話
僕の名前はアイザック。
今は所属しているA級の一流冒険者パーティーの【疾風の竜巻】と一緒にS級迷宮の【死神の深淵】に来ているのだ。
このパーティーを知らないものは、このレンディル迷宮都市にほとんどいないといっていいだろう。
S級にふさわしい実力を持っている者の集まりだからな。
このパーティーでは、僕は唯一のレベル33だけど。
では、なぜこんな僕がこのパーティーのメンバーでいられるのかというと……それは僕達の深い絆あってのもの……じゃなく、設立当初からいたからだ。
別に特別扱いされているわけじゃないし。
ただ、運が良くなかったと言ったら絶対嘘になる。
「リサ、エンチャントを頼む」
「了解……です」
エンチャントを頼んだのはパーティーのリーダーで人呼んで【真紅の刃】。
名前はミナトだ。
彼はとても重そうな鎧と鋭利補正の長剣を装備している。
剣士クラスの冒険者である。
そしてリサという少女はこのパーティーにいる唯一の付与術士。
彼女の役割はエンチャントという付与術士の特有のスキルでパーティーメンバーを強化することだが、いざとなるときは普通に戦える。
【疾風の竜巻】は5名の冒険者で結成されているパーティーだ。
暗殺者の僕をはじめとすると、剣士のミナト、付与術士のリサ、魔法使いのアナ、そして弓使いのアク。
見れば気づくだろうけど、このパーティーで回復役は特に指定されていない。
但し、アナは魔法使いとして回復魔法を含めていろんな魔法を使うことができるし、リサも人間に対して、持続回復を付与することもできる。
【疾風の竜巻】は割と積極的な戦い方をしがちなので、今までは回復が追いつかずに迷惑をかけることもあったが、それも過去の話だ。
正直に言って僕達はあまりチームワークを重視しないから怪我されがちだと思うけど。
まあ、僕以外のメンバーは個々の力が非常に高いので、それぞれが力でゴリ押しすればなんとかなってしまったのだ。
ちなみに、パーティーでミナトに与えられた僕の役割は戦闘外であれば偵察にトラッキング、戦闘内であれば敵の【観察】と仲間の【援護】である。
暗殺者クラスは戦闘にあまり向いていないが、【致命の一撃】とか【絶対回避】とか、強いスキルをたくさん入手することができる。
なのにまだ【ゴミクラス】とか言われているのは何故だろうか。
自分が思うに恐らく、このクラスの本当の強みを知らないからそう言われている。
確かに暗殺者のステータスは例えば剣士に比べたら非常に低い。
そしてこの世界では力こそすべてだ。
つまり低いステータス=弱い、高いステータス=強い、という。
【不遇職】とされている理由はまあまあ理解はできるが、それでもなんか見落としているなぁ、と思わざるを得ない。
暗殺者クラスは何故あまり人気がないかと聞かれたら答えはこのクラスの強みは【ステータスの高さ】じゃなく、入手可能の強力な【スキルの数々】をどうやって工夫して戦うことだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
しかしその事実に気づいた者は少ない。
まあ、僕が授かったクラスに対して何を思うとも僕には関係ないけれどな。
【隠密】という完全にぶっ壊れたスキルを使いながら、僕は影から繰り広げられている戦いを見ていた。
【隠密】とは簡単に説明すると、姿を消させるとても便利なスキルだ。
維持すればするほど、魔力はとんどん持っていかれるが、その代わりに【真実の目】という魔法は発動されていない限り魔物だけじゃなく、どんな種族の視線からでも容易く隠れられる。
僕はまだたったレベル33という理由はまさにそれなのだ。
【疾風の竜巻】のパーティーメンバーは全員強すぎる。
そのせいで僕が戦いに参加することは滅多にない。
その割には、仲間の命を何回も救うことができたので満足はしているが。
「【エンチャント:炎】」
リーダーの指示に従ってリサが魔法を唱えると、ミナトの剣がうっすらと赤く光った。
するとミナトは目の前にいる人型の結晶モンスターに斬りつける。
普段物理攻撃に強い【結晶の意思】と呼ばれる魔物だが、リサの炎の付与によってダメージを与えることが出来るようになった。
予想通り、魔物はあっさりと真っ二つに切断され……それから、断面が燃え上がった。
「さあ、次行くぜ」
そのままミナト達は残りの【結晶の意思】の有象無象を呆気なく片付けた。
アクは付与された矢を超速度で次から次に番えて、絶え間なく放っている一方でアナは【ヘル・ファイア】や【雷の槍】など高級の魔法を連発し、ミナトはA級迷宮で出土した長剣で敵を斬り倒している。リサは付与術士としてみんなを強化すること以外は特にほかの役割がないし、僕は相変わらず敵を観察しながら、援護する機会を探しているのだ。
しかしどうやら今回も、僕の出番は必要なかったみたいだ。
全部の魔物が討伐されたのを再確認すると、僕は【隠密】を解除した。
その直後ミナトは剣を収めると、
「これでよし、と。みんなご苦労さん。このまま成長し続ければ、S級の冒険者パーティーになるオレ達の夢はただの夢じゃなくなるぞ。……………まあ、その前にやっとかないことがあるけどね」
いつもの爽やかな笑顔で彼ばそう言った。
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