溶接ロボットの動作手順

菊武

運転

 朝1番にする事は決まっている。昨日切って帰ったブレーカーを入れる事だ。ブレーカーを入れると次に機械の電源を入れる。微かな音で回転始めるファンの音。

 真っ黒だった液晶に明かりが灯る。メーカーのロゴが表示されそこから徐々に画面が切り替わる。まるで

 「おはよう。今日もよろしくね。」

 と言われているかのようだ。

 ほどなくして画面が変わらなくなる。いわゆる初期画面だ。機械は完全に立ち上がりこちらの指示を待っている。

 俺はセレクトスイッチを回しteachモードに切り替える。今日の作業は昨日の続きだ。本来なら必要無い。しかし念を入れ確認作業を行う。

 ファイルをクリックし、目的のプログラムをクリックする。すると画面にはプログラムの内容が表示された。

 「ああ、間違いない。」

 表示された内容を確認するとファイルを閉じた。

 今度はセレクトスイッチをAutoモードへと切り替えた。画面がまた切り替わる。そしてサーボのボタンを押すと

 カチャン

 甲高い音がして機械が少し揺れた。ブレーキが解除されたのだ。ブレーキが解除されても機械の姿勢は変わらない。これはコントローラーの中にあるサーボアンプと呼ばれる部品から機械の中のモーターに電気が供給されモーターを左右に回転する事で動かないように動いているのだ。

 なのでブレーキを解除した機械はいつでも動き出せる。そう、動く為の命令を待っているのだ。

 「よし、待っていろよ。」

 機械の前にあるテーブルに材料を並べセットする。セットが出来た。後は起動と書かれたボタンを押し込んだ。

 すると機械は凄い勢いで動き出す。まるで

 「待ってました。」

 と言わんばかりに素早く。6個あるモーターで各軸を動かし、先端部の取り付けられたパーツの取り付け位置や角度の動きを演算し、直線で動くように、円で動くようにと、指示され教えられた通りの動きを再現する。

 教えられた動き、それは溶接。待機位置から溶接位置まで空走区間を高速で移動し、溶接位置に来ると溶接シーケンスを実行する。この場合はまずはガスバルブを開き溶接の為のシールドガスを流す。それからトーチスイッチ、溶接機に溶接開始の指示を出す。すると溶接をする為のワイヤを送り出すための送給モーターが回転を始める。まずはゆっくりと。そしてワイヤが電気のプラス側。母材が電気のマイナス側となる。それが接触するとスパークが起きる。

 アークの発生だ。その瞬間に送給モーターが加速する。送り出されるワイヤがスパークの熱により溶け、母材である金属をも溶かし溶融する。そしてそのアークの発生により溶接機より機械のコントローラーに信号が行く。アークが発生したと。

 その信号を受けて機械は動き出す。その信号を受けとるまで機械は待機しているのだ。激しい光とスパッタと呼ばれる溶けた鉄の粒、そしてヒュームと言われる煙を出しながら機械はゆっくりと、溶接の終わりを指示された所まで進んで行く。

 終わりの所まで来るとクレータ処理を行う。これは溶接の終わりは必ず凹むので、その場に止まりながらアークを出し続け凹みの緩和する。

 次は溶接を止める為のシーケンスを実行する。最初にトーチスイッチをオフにする。すると送給モーターの回転が止まり送られ続けたワイヤが停止する。次にガスバルブを閉じシールドガスを停止する。

 さてこれで終わりかと思うだろう?実は違うのだ。何故ならば送られて来たワイヤ。これが母材とくっついている可能性があるからだ。もしもくっついたまま動くとトーチ、機械の先端に取り付けられたワイヤ送給の先端。これが曲がる可能性もある。それを防ぐ為にスティックチェックを行う。原理は簡単。ワイヤにワイヤが溶けない位の電気を流す。電気が流れればワイヤと母材が接触している。電気が流れなければ接触していない、くっついていないという事だ。

 それを行い安全を確認した上で機械は動きだす。次の指示された所まで。

 作成されたプログラムの内容を全て実行し、機械は止まる。次の指示が来るまで。

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