第32話
顔に暖かなものを感じ目を覚ます。目の前に広がるのは真っ白な毛色。上体をゆっくりと起こしその正体を確認する
「シロ……。」
だらしなくお腹を上にした状態で眠るシロの体は呼吸に合わせて上下している。
「良かった、無事なんだね。」
意識を失う直前に聞いたシロの声。あれは気のせいではなかった。命の灯火が消えそうになっていたシロを無事に救えた。その事に安堵しシロの頭を優しく撫でる。
時計を見るとどうやら今は夕暮れ時だ。シロを起こさないように静かにゆっくりとベッドから抜け出し部屋の扉を開けた。辺りは静かでバビロンや魚人の事は夢だったのではないかと思える。
「クゥン」
声のした方を見るとシロが起き上がっていた。
「ごめん、起こしちゃった?」
「ワン!」
「何処に行くのかって?今の状況が分からないから誰かに聞きたいなって思ってさ。」
「ワウン」
「そう?なら一緒に行こうか。」
シロが軽快にベッドから飛び降りる。その動きはとても重傷を負っていたようには見えない。それに安心すると同時に全てが夢だったという思いが強くなる。
「とりあえず何処に行こうか……。」
人が集まる所……。食堂かトレーニングルームか?それとも操舵室に行けばいいのか。しかしあの戦いが夢だったのならばそんな夢を見たで偉い人に会うのは気が引ける。
「あ、そうだ!この時間ならば甲板に行けば夕日を見に誰かが居る可能性は高いよね。甲板に行ってみよう。」
「ワン。」
シロも同意してくれている。しかし尻尾の動きを見る感じだとどうも遊びに行くつもりのように思える。
「ま、いいか。それじゃあ行こう。」
朱音とシロは甲板へと向かい歩き出した。
甲板に出ると
「うわあ……。」
空と海が黄金のような光が辺りを幻想的な雰囲気が包み込んでいる。
「綺麗……。」
地平線の彼方へ沈み行く太陽を眺めながら朱音とシロは感動していた。するとそこに
「もう大丈夫なのか?」
「馬場さん……」
振り返り声の主を見上げる。夕日に照らされたその顔は優しい眼差しで朱音を見ていた。しかしその顔とは裏腹にその姿は凄く痛々しい。
「あ、直ぐに
「いや、いい。」
「え?」
「暫くはこのままでいるつもりだ。」
「どうして?」
「自戒さ。」
「自戒?」
「お前のお袋さんにもお前を守ると言っておきながら危険な目にあわせた。」
「そんな事無いよ。馬場さんはいつだって私を守ってくれた。」
「いや、本来なら朱音。お前はこんな所に来る事もなく平和に過ごせていたはずなんだ。」
「もしかして馬場さんの過去の事を言ってる?」
「ああ、あの時に俺が、俺たちが魚人を倒しその存在を明らかにしていればもっと早くから対策をして対応していたはずだ。」
「それは無理な話しだよ。だって馬場さんはその時はその時のベストを尽くしたのでしょう?今回だって。」
「……そうだ。だからこそ今回の事も含めて自分の不甲斐なさを痛感している。」
「……馬場さんはそう思ってるかもしれないけど、私にとってはヒーローだよ。だって私がピンチの時には助けてくれたもん。」
そう言って朱音は馬場へそっと抱きついた。
「あ!そうだ!」
「ん?どうした?」
「その手じゃ色々不便でしょ?私がお礼も兼ねて手伝ってあげる。」
「え?」
「そうだね……。まずは夕食から。あーんして食べさせてあける。」
「いや、ちょっと待て!痛いけど動く!動くから!」
そう言って馬場は手を動かしてみせる。
「駄目だよ。無理したら。私がちゃんとお世話してあげるから。」
「分かった。治そう!直ぐに治そう!な?だから
「えー、駄目だよ。私は馬場さんの想いを尊重する事にしたから。」
「尊重するなら治そう?な?」
「またまた、そんな私に気を使わなくて大丈夫だよ。私が馬場さんにお礼がしたくてするんだから。」
「お礼なら尚更、
「だから大丈夫。馬場さんは安心して私に身を任せれば良いだけだから。ね?」
「いや、それが不安なんだが?」
「そう?ま、物は試しって言うし、さっさと食堂に行こう!」
そう言うと朱音は馬場の背中を押し食堂へ向かう。その様子を眺めながらシロは春の訪れを感じていたのだった。
真言使いとなった私が魚人との戦いの中心です 菊武 @t-kikumo
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