組への訪問

 グレーの無愛想な車が一台、人の気配がない狭い国道を走って、田んぼが一面に並んでいる方へ向かっていた。


 報道もされていない事件の真相を暴くべく、日比谷と千代田は普段暴力団を担当している黒羽刑事の運転している車に載っていた。


「しかし日比谷さん、あんたが捜査も兼ねて新人の教育をする日が来るとは、人間何やるか分からないもんですな」


 黒羽が静まり返っていた車内で口を開いた。


「ええ、分からないものですね」


 あまり人付き合いの得意ではない日比谷には、そっけない返事しか出来なかった。


「しかし、今回の聞き込みは新人さんには向いてないと思いますよ、何せあの組は……」


 黒羽がそう言いかけると、車は見通しの悪い道を抜けて、開けた場所に出て、目的地が見えてきた。


「さあ、そろそろ着きます」


 日比谷と千代田は荷物を確認して、黒羽が停めた車から降り、白い石で敷き詰められた駐車場へ降り、大きめの建物がある方へ歩いた。


 この辺りには建物が少しはあるものの、住宅街と言うにしてはあまりに寂しさを漂わせる場所だった。


「こんなところに事務所があるとは、人目がつきにくいからでしょうか」


 千代田がそう言うと、黒羽がそれに答えた。


「ここは少し田舎でね、暴走族なんぞが蔓延ってるんですわ、そしてその暴走族を組に誘うという悪循環がこの環境では完成してるんです」


 なんだか嫌な話だな、と日比谷は思った。


 「おった、警察の方ですか」


 日比谷達の車が停まっているところに、ガラの悪そうな男がポケットに手を突っ込んだまま歩いてきた。


 「こんにちは、昨日お電話させていただいた警察の千代田と申します」


 千代田は自分の懐から警察手帳を取り出して見せた。


 「こんにちは、電話で話を聞きました、なんでもうちの会社の社員である山崎君が事件に関わってるそうじゃないですか」


 昨日千代田に日比谷が簡単に事件の概要を共有した際に、組が関わっているとされている有限会社真庄建設に電話で事情徴収を行いたいと電話で連絡したところ、翌日に会社の方へ来てくれとのことだった。


 「千代田君、昨日言った通りに伝えておいてくれたかい?」


 日比谷はなるべく小さな声でそう伝えた。


 「ばっちりです」

 

 千代田はいつもの習慣で大きな声での返事をした。


 「なんや、事情徴収の確認でもしとんのかい?」


 「まあ、そんなところです」


 日比谷がそう言いながら千代田の方を見ると、申し訳なさそうにしていた。


 本当にこいつ大丈夫なのか、日比谷は心の中で悪態をついた。


 

 

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