新人の貫禄
3.新人の貫禄
事件現場から警察署に戻り、日比谷は今回の事件の捜査をするべく、暴力団関係のことがまとめてあるファイルを開いていた。
銃が使用されていて、2人ともヤクザと関係があったことから、暴力団が絡んでいることは明白であったので、山崎氏と杉山氏の所属していた組織について調べるためである。
「あった、この組織だ」
日比谷はファイルの内容を読んだ。
真挟組、山崎の所属していた組織である。
戦後に結成されたときは勢いがあったものの、バブル崩壊時に悪質な取引を行い続けて警察に目をつけられ、近年の規制強化でかなり弱体化している組織らしい。
杉山が所属していた組織も載っており、組織名は玉林組で、こちらもバブル崩壊時に悪質なことをかなり行い、マークされたらしい。
こんな組織にも歴史があるのだなと感心していると、ふと麻薬関連の項目がないことに気がついた。
妙だな、と日比谷は思った、山崎氏の遺体には麻薬の入った袋があった、だからてっきり麻薬の取引を行ってトラブルが起きたのではないかと予想していたからだ。
「日比谷、ちょっといいか?」
谷津が声をかけてきた。
「どうしたんだ?」
日比谷は持っていた資料を机の上に置くと、声をかけてきた方を向いた。
「今回俺は別の事件の捜査に配属された」
谷津は続けた。
「なんでも後進の育成のために新人とベテランをなるべく組ませたいんだと」
「そうか、またお前と捜査できると思ったんだけど、そう言うなら仕方ないか」
谷津と日比谷は長い間、ペアを組んで捜査にあたっていた、そのため日比谷は、今回の事件は厄介そうなので、慣れた谷津と捜査を行いたかった。
「多分お前の方も新人が来るんじゃないかな、俺たちも次の世代を育てなきゃダメってことなんだろう」
それを聞き、日比谷はめんどくさそうに答えた。
「まあ、言われたからにはやるよ」
「お前は他人に少し厳しいところがあるから気を付けろよ」
谷津は日比谷と捜査にあたった際、少しでも見落としがあると指摘してくることがあったり、意見を否定から入ることがあったのを思い出していた。
「分かってるよ、あの時よりはマシになったさ」
そう言いながら日比谷は調べた資料を元の場所に戻して、その場から立ち去った。
日比谷は資料が置いてあるを出て、その新人が待っている部屋へと向かいながら、自身が伝えるべき情報を頭の中で整理していた。
そうして部屋の前へ到着し、身なりを確認すると部屋のドアをノックした。
「失礼します、赤継ヶ丘での銃撃事件の担当となった日比谷です」
「入って、どうぞ」
そう言われて部屋に入ると、部屋に居たのは上司である町田と新人らしい刑事であった。
「時間通りだな」
町田は腕時計を見てそうつぶやき、日比谷の方を見て口を開いた。
「日比谷君、君にはこれからこの千代田君と協力して捜査にあたってもらう、千代田君は機動隊から異動してきた新人だ、面倒を見てやってくれ」
「日比谷刑事、よろしくお願いします」
そう言って千代田は日比谷に向かってしっかりした礼をした。
千代田は機動隊員だったと言うだけあり、とても姿勢が良く、声もかなり元気があった。
「よろしく」
日比谷はそう言うと説明を始めた。
「今回の事件については……」
日比谷が話を始めると、千代田は懐から使い古された黒いメモ帳を取り出し、胸元のポケットにあるボールペンでメモをとり始めた。
かなり手慣れているので、きっと今までメモを取る習慣があったのだろうと日比谷は考えた。
「説明は以上になる、何か質問は?」
日比谷は千代田がメモを取り終わるのを見て、質問があるか聞いた。
「はい、先ほど暴力団関係の事件だとおっしゃいましたが、最初は暴力団への聞き込みに向かうと言うことでよろしいでしょうか?」
「ああ、初めに真挟組の関係者に聞き込みを行い、その次に杉山氏の所属していた玉林組に聞き込みをする、そこで聞くことは……」
「被害者の事件が起こる直前の行動、そして麻薬の入手についてですね」
「察しがいいな」
千代田は聞き込みの内容について伝えられる前にこれまで聞いた内容から予測して当ててみせたので、日比谷は少し驚いた。
谷津は自分のことを厳しいと言っていたが、厳しくなる場面がないかもな、と日比谷は思った。
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