君と私のリーベディッヒ

彼からのマトリカリア

 あれから大体3週間近く経った。彼とは特に何事もなくいつも通り接している。少し変わったことといえば休みが重なった日に一緒に帰るようになったことぐらい。初めては緊張するが1回やるともう一度行うハードルがぐんと下がる事を実感した。彼と話し、たまに一緒に帰るというのが最近、日常になっている気がする。

「ねぇ小野さん。今日一緒に帰れたりしないかな?」

「あっごめん。今日は部活あるんだよね。明日は休みだよ。」

「そっかぁ。分かったよ。今日は自主練しようかな。」

 彼は私にだけ露骨に感情を出す。他の皆にはいつもヘラヘラしてなんとなく乗り切ってる感じなのに。なんか凄くモヤモヤする。何で自分にだけこんな風に接してくるの?怒りでは無い心に絡みつくようなフラストレーションのような何かが私を埋め尽くす。


 その何かは昼休みから部活の時間まで引っ付いてきた。そいつは私の判断力というか集中力を削いで来る。

「先輩...向日葵先輩!今日ずっとぼーっとしてますけど大丈夫ですか?」

「あっうん、大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけ。」

 部活の後輩である如月零きさらぎれいが淡々と合奏で先生の言った事を復唱してくれる。最近彼と話さない時はろくに頭が回っていない。ぼーっとしてるかぼやーっと彼の事を考えるだけ。勉強も部活も見に入らない。

「青木先輩となんかあったんですか?最近元気ないっすよ。」

 一体私と彼の話を誰が広めて誰まで広がっているのだろうか。私と彼の関係はいつか必ず終わる、私か彼がもう一方を嫌ってそれで終了。それなら別に広められたって問題は無いか。

「あと向日葵先輩知らないと思うんですけど、青木先輩っていつも7時ぐらいまで玄関で誰か待ってるんですよ。向日葵先輩のこと待ってるんじゃないですか?」

 確か彼の部活は6時で終わったはず。一時間も誰かを待つのか?しかも私を?如月が嘘をついているとも思ったがそういう事する人間じゃないし、行ってみる価値はあるか。


 合奏が既に終わっていたこともありすぐミーティングをして部活が終わった。

「失礼しました。お疲れ様でした。」

小走りで音楽室を抜け出す。いつもは親との関係も良好ではないため、学校が閉まる時間ギリギリまで音楽室に居座りイヤホンを付けてゆっくり帰っているが今はそれどころじゃない。カバンを揺らしながら玄関へと向かう。音楽室は三階だから結構きつい。玄関に着くと彼は靴を履いて今にも帰ろうとしていた。どこか顔つきが寂しそうだ。

「蓮くん!」

息も絶え絶えになりながら彼を呼び止める。

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春の向日葵 師走 先負 @Shiwasu-sembu

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