まぬがれたもの

「私は家政婦なんかじゃない! 私こそが、チェーンソー家の、いえ、コンベア家の主人なの!」

「あなたが、主人? コンベア家?」

「オースティンのチェーンソーをチューンナップしたあなたなら、お気づきでしょう? ザクロ様。オースティンのチェーンソー。チェーンソーにしては、太く大きく、ありませんでしたか?」

「あの、チェーンソーが、まさか、コンベアの筋電具?」

「鉱山の地下深くから、鉱石を運び出すためのコンベア。それが、コンベア家に『普通の人々』から与えられた、道具としての役割。私達サイボーグと、『普通の人々』を区別するため、道具と分かるため、分つための筋電具。コンベアは運ぶため、集めるための道具です。資材の収集状況を把握することができる私の父は、皆を監督する立場を与えられた。元々、オースティンは、我がコンベア家の使用人の一人にしか過ぎませんでした。道具に使われる道具。そんな自分の立場が許せなかったのでしょう。オースティンは事故に見せかけ、私の父を殺し。コンベアをチェーンソーに変え、体換式でコンベア家を乗っ取った。コンベアを敷くために伐採し、燃料のため、コンベアに載せるために伐採し。コンベアに奉仕をする、道具の道具風情が」

「道具の道具、ですか。その言葉は、私にとって、かなり傷つく言葉ですな」

 私は、柘榴のように、弾け開いた、頭の中。

 鉄の脳をぽりぽりと掻いた。

「これは、失礼しました。ザクロ様。けれど、あなた方、エンジニアがいなければ、私達サイボーグは長くは生きていられない。あなたのことは、尊敬をしておりますことよ」

「尊敬など、どうでも良いことです。私にとって、大切なのは、『普通の人々』がより良い暮らしをすることです。サイボーグを束ねるもの、道具の貴族が、どなたでも構いはしません。カタヒラさん、いえ、カタヒラ様。物語上、私が探偵という道具を引き受けたのと同じように、あなたも、犯人という道具を終えたのです。物語が終わった今、『普通の人々』にとって大切なのは、日々の生活です。道具の貴族、コンベア家の当主として、体換式をお受けして下さりますかな?」

「二人も、殺したのに、私が当主と、なって良いの?」

「誰も、気にもされないでしょう。『普通の人々』にとって、現実を豊かに生きる、そのための、我々は、手に取るに足らない、道具なのですから」

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チェーンソー邸バラバラ事件 あめはしつつじ @amehashi_224

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