母との別れ

母の死を思い出す時、毎度と言っていい程、母のすぐ下の妹との病室での時間を思い出す。

母の妹とが、泣くのを堪える。

(なんだったっけか?)

(そうか。。。)

目を開けることを忘れ、ベッドの上で眠り続ける母の浴衣の裾を捲り、膝下の足を擦って、

「綺麗だね。」

「まるでモデルさんみたいだね。」

「白くて長い足。」

私は、母の足を擦っては、愛おしさを感じ、

幸福の中に浸っていた。

母の妹は、私の反対側で、母の足を擦って幸せの中にいる私を見て、声を漏らさぬように、泣いていた。

あの時の叔母の心境はどんなだったのだろう。

突然倒れた母は、気が付いた時にはもう目を開けることはなかった。

誰かが目の前に来ているかの様に、手を伸ばしていた。

(ああ、もうだめだ。。。死んでしまう。)

あの時、すでに、気が付いていた。

(行ってしまう。。。)

そう思ってから7日の時間を母はくれた。

目を開けず。声も出さず。ただ眠るように。

心臓が止まって、亡くなってさえも、ただ寝ているかのように、温かく、柔らかかった。

「おい。起きろ。なにやってるんだぁー。」

「まだ早いじゃねぇーかよぉー。」

「なんとか言えよ。」

突然の死は、家族より、近所の人が受け付けれないでいた。

不思議と、悲しみが湧かなかった。

いないと困るのは変わらない。

けれども、寂しさに押し潰されるような苦しみが無かった。

いつも一緒にいるような感覚が漂っていた。

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この葉の海 一粒 @hitotubu

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