第2話

話し始めて少しした頃



「フィリックス皇帝陛下のご入場です」

その言葉と同時に控えていた音楽隊が一斉に楽器をかまえ演奏を始めた。


「やっぱり皇帝陛下はかっこいいわね!完璧って感じがするわ。」

「そうそう、赤色の目もかっこよさを引き立てているわよね!」

先代の皇帝が亡くなってから直ぐに今の皇帝に代替わりしたらしい。引き継ぎもままならないまま代わってしまったから、最初の頃は批判ばかりしていた人たちの方が圧倒的に多かった。


それから何度か皇帝暗殺未遂の話が噂で回ってきたが、それも少ししたら落ち着いた。フィリックス皇帝陛下はこの国の権力の象徴である剣を使いこなし、一流の騎士でも倒すことが出来なかった暗殺者達を一瞬であの世へ葬ったのだ。恐ろしいと恐怖で脅える貴族もいたが、その事をきっかけに陛下に忠誠を違うものも増えた。


「今日はデビュタントを楽しんでいってくれ。」それだけ言うと扉から庭に出ていってしまった。


音楽が流れ始め、令嬢達が自分のパートナーと手を繋ぎ踊り始めた。


「相手がいないのは自業自得だろう。」

ぼんやりと眺めていると、お父様が声をかけてきた。


私の家は表上ではとても仲がいいが、裏では兄も両親も妹ばかりを可愛がり、私を屋根裏部屋に閉じ込めている。今日出られたのは奇跡に近かった。小さい頃から家事をやらされ少しでも失敗すれば1週間ご飯はカビたパンだけだった。

唯一声をかけてくれる兄でさえ、妹が生まれてから私には見向きもしなくなっていった。


「分かっております、体調が優れないので外の空気を吸ってきますね。」そう伝え足早に会場を後にした。


ヒールの高い靴で懸命に走った。早く逃げてしまいたかった。


ゴンッ


「申し訳ございません!大丈夫ですか?」

顔を上げるとそこには皇帝が立っていた。


「機能性の悪い靴を履くのだな。寒いから早く戻りたまえ。」冷たくあしらわれてしまった。


戻ろうと思ったが、戻ってしまえば外には出られないだろう。


意を決して「陛下、私と結婚してくれませんか!」 言ってしまった。今まで推しだと割り切り、オタクを隠してきたのに…努力が水の泡になってしまった。


「無礼だとは思わないのか?下手すれば皇族への不敬罪にあたるぞ。まぁいい、ついてこい。契約書を書こう。」


怒られると思っていたので、反応に困ってしまった。置いていかれないように早歩きでついて行くので精一杯だった。

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転生した私は推しと結婚したい!! 萃玥 @Suigetu05240

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