雪に話す。

名々詩

雪に話す。

 縁側でのんびりと日向ぼっこというのは、案外誰でもうっすらと一度は憧れるんじゃないかと、個人的には思う。

 今日みたいに、よく晴れた日だと、まさに理想のシチュエーション。

 庭にある鉢植えに、白いちいさな花が揺れている。陽射しを受けてきらきらと淡くきらめいて、まるで雪が舞っているかのよう。

 厳密に言えば白い部分は苞──葉っぱにあたり、実際の花は極々控えめに花開いている。

 ユーフォルビア・ダイアモンドフロストは雪っぽい見た目に反して寒さへの耐性が低く、逆に暑さに強い。春から秋くらいにかけて花咲く多年草として知られている。らしい。全部受け売りだ。

 花の特徴と大まかな育て方は聞いたが、なぜこの花を甚く気に入っているのか、先輩はついぞ教えてはくれなかった。

 一緒に暮らし始めるまで知らなかったけれど、先輩は花が好きだった。春は桜を見に行ったし、夏には朝顔を育てていた(先輩だけだと枯らしそうだったので私も面倒を見ていた)。

 秋には紅葉狩りに出かけた。冬は寒いから外に出たがらなかったけれど、椿が咲くのを見て「もうすぐ春だね」と春陽のように微笑んでいた。

 じんわり、と、冷水が布地にゆっくり染み込むような、そんな感傷。センチメンタルを気取るほど情が深い人間ではないと、そう思っていた時期もある。けれど今の私は、思い出と感傷に浸ることを繰り返し、月日を重ねている。

 深山和がこの世を去ってから一年が経つ。最初に聞いた余命を二年弱くらいオーバーしたけれど、そのあたりがアバウトなのも先輩らしい。

『ゆずには言われたくないなあ』

 ──木漏れ日のように穏やかな、温かい声。

 ずきん。今度は明確に、痛い。胸のずっと奥、心と呼ぶべき場所。深く刺さった棘が抜けないまま、膿んだ傷がじくじくと。

 見上げた空は青く、爽やかな風に雲は揺蕩う。

 世界で一番大事な人がいなくなったとしても、日々は続くし、恙無く世界は回る。その事実が、より一層私を苛む。

 だけど、喪失の惨痛も、共に過ごした思い出と同様に先輩が私に残してくれたもの。私にとってかけがえのない、大切な傷痕だから。

 たった数年だったけれど、一緒に暮らしたこの家にはたくさんの記憶が染み付いている。私はこの先の人生幾度となく寂寥感と感傷を味わうのだろう。それはとても辛いことなのかもしれないけれど、同時にこれ以上ないほどの幸せでもある。

 いつかきっと、私も先輩と同じ場所へ行く。生きているのだから、その時はやがて訪れる。だけどそれは、少し先の未来。その日を夢見て、私は次の季節を待つ。

 またあなたに会える、その日を。

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