茅野は事件に巻き込まれる

河早はると

第1話 梅干し野郎は突然に 

 やあ、僕は田舎か都会か分からないうるさい町に住む高校生、茅野かやのだ。皆さんは事件に巻き込まれたことはあるかい?最近は僕の周りで沢山事件が起こり、なぜか僕が巻き込まれてしまうんだ。僕は悪いことしてないのに。まあそんな事件の数々を僕がナレーターとなってお送りしたい。

 最初の事件は高校一年生の春の終わりに起こった。朝も不細工な女性に自転車で激突してしまう不幸がおそったが、電車には遅れず乗ることができた。前に重たい通学鞄を提げ、同じ高校の一つ上の先輩が可愛いなあ。と思いながらも隣には座れず、ギャルにしか見えない二人の女子を挟んで座った。一人が、「マジで最近席が最悪なんだよねー。」と学校生活での愚痴ぐちを言い出す。こっちの方が最悪だ、朝っぱらから人の愚痴を聞かされるために電車にのっているんじゃないというのに。だが、興味があるので聞くことにした。もう一人の女子が、「あーね。ソイツって松崎まつざき?」『そーそー』「あたしは嫌いとは思わないけどなあ、がね。臭いが。」『そうなんだよ、だから最近は席が最悪だって言って保健室行ってるわ、今度保健室の先生から担任に言ってもらおうかなー』「まじウケる~。」どうやら会話が弾んでいるようだ。興味が失せてしまった、その時だ。電車の奥の運転席側でドンドンと音が聞こえた。発生源はどうやら中年のおっさんから出ているらしい。作業着姿に眼鏡をかけ、世間への鬱憤うっぷんを晴らすかのようなステップを踏んでいる。静かなら結構なのだが、どんどん音が大きくなり、唸り声も合わせて大きくなる。周りの人の顔も嫌悪感を示している。これは不味い、何か不味いぞ。僕の直感がそう言っている。

 その瞬間、男が大きな声を上げてナイフのような凶器をポケットから取り出した。と、同時になぜか僕も席から迫害されるかのように押し出された。最も、何者かに押されたんだが。勿論、何がなんだがわからなかった僕は、「へ?」と阿呆あほうのような声を出す。いつもは人が通路側にわんさかいるのに、その日は通路側に人が一人も立っていなかった。案の定男が凶器を光らせこちらに向かってくるのが分かった。逃げられない、怖い、死にたくない、だ。そんなことばかり考えていた。『これが人間の死ぬ様だよ、無様だなあ。』と空の上で神が談笑するのが頭に浮かんだ。

 僕の鍛えてもない腹に長い刃物が「ドスッ」という聞きたくもない効果音を鳴らして刺さり、僕は倒れこみ血を流す、。見ていた周りは思わず悲鳴を上げる。だが、僕だけは違った。「はーっははははははは!あはははははははははははは!はっははっはははははははっはー!あー…面白い!だよ。」 思わず口を歪めて笑ってしまった。死ななかったとなれば何も怖くない、そして口を開く。「僕が沢山の教科書を鞄の中に入れてなくて、背中に背負っていたりしたらまだ違ったんだろうなあ。だろ?そう思わないか?」僕が生きている事になのか、何故自分がこんな事をしたのかと後悔したのか知らないが、殺意と怒りで梅干しのようになっていた男の顔が一気に青ざめた。凶器は僕が体のに提げていた通学鞄に刺さりはしたものの、中に入っていた大量の教科書に阻まれ抜くことすらできない状況になっていた。男がすべてを諦め地べたに尻もちをつく。

 男は何で鞄の存在に気付かなかったのかって?知らないね。興奮状態で鞄なんて目に入らかったんじゃないのかな?そんでもって次の駅に着くとともにその男は駅員に連れていかれていた。動機は、「もう生きることに意味を見出せなくなったから、人を殺して死刑になろうとした。」だそうだ。そんな私情で人を巻き込んでほしくないものだが。まあ学校には遅刻した。

 学校で先生に遅刻理由を聞かれことの経緯を話すと、大爆笑。「んなもんあるか!嘘つくならもっとまともな嘘つけよ。」と言った。けれど電車は遅延しているので遅刻扱いにはならないはずだ。不幸中の幸いだな。そして、僕を押したのが結局誰だったのか。先輩は大丈夫だったかな、などと考えながら登校途中にコンビニで買った干し梅を頬張り、この事件は幕を閉じた。

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