第10話 お悩み相談サイト アホー知恵袋

 お風呂に入ると、人間の残り香があった。




 やっぱりあいつも、オレたちと同じように体を洗うのだろうか?




 少なくとも人間は、オレたちに近いぐらい知能も理性もある。




 それが家畜身分ってのは少々不自由なものだと思う。




 とはいえ、オレにどうすることも出来ない、オレはただ、あいつを守るだけ……。




 あいつを……。




 そういえば、名前を聞いてなかったな……。 名前決めたら保健所に登録もしにいかないと……。




 名前ぐらいなんとか聞けるだろうか?




 此方の言葉とあちらの言葉は違うが……。名前ぐらいは多分……。




 少なくとも前世での呼び名を名前にしている、最初テンションで思いついた名前『GRちゃん』(憧れのギター)なん




て名前をつけるのは流石に可哀想だ。




 それから、適当に体を洗い、どうやって前世の名前を聞くか考えてみた。






 んー……、んー……。




 困った時、何かを頼っていた気がする。




「あっ、アホー知恵袋だ」




 因みにこのネーミングは、分からなくてもいいじゃないわかろうと努力しているんだから、という意味でアホー知恵




袋と名前がついたらしい。




 開き直ったネーミングセンスはいがいと受けて今は大手サイトになりつつある。






 それから、パンツを着て体を拭いていると、ノックしたのちに入ってきた。




「ん?……どうした?」




『……拭くの手伝うね』




 オレは疑問に思っていると、何故かバスタオルを取られ、疑問に思う間もなく、優しく体を拭いてくれた。




「ありがとう」




 買ったものに対する恩返しのつもりなのだろうか?、それはとっても心が暖かくなる気遣いだった。




 名前を呼びたい、どうして今の今まで名前を呼びたいと思わなかったのかが不思議でしょうがない。




『うふふ、拭くの大変だよね……また手伝うからね』




「名前が知りたい」




 思ったことが言葉に出た。




『うん? 何?』




「……」




 恐らく伝わっていない、至極当然のことだけど、もどかしくてしょうがなかった。




 でも、その後に出た自分の言葉は予想外のものだった。




「ありがとうな、大好きだからな……」




 気がつけば背を向けていたのをくるりと回って、向き合う形になって。




『ぇ……何……?』




 少しだけ、数秒だけ震えているように感じたが、気持ちが伝わったのか、優しく抱き返してくれた。






 願わくば、お姫様抱っこでベッドに持って行きたい。




 でも、言葉が通じてなく、信頼関係も少ない今は、誤解されるだろう。




 早くそういう関係になりたい、んでもって、君が望むならそういうことも出来る関係になりたい。




 オレは強く思った。




 ゆっくりと解放すると、君も抱きしめていた手を緩めてくれる。




 少し屈んで目の高さをあわせ、3度めの『ありがとう』を満面の笑みで言って、Tシャツを着た。




 本当は、ある程度吹いてから、暖房と扇風機でうまく乾かすのが日課なのだが




 人間といえど異性の前で上半身裸は少し失礼だろう。








 それから、『アホー知恵袋』にアクセスして、『人間 名前知りたい』と検索した。




 思いの外、その質問は多かったようだ。






『人間の前世の名前を聞く方法ってありますか?』




 人間飼い始めました、とても良い子なのもあり、せめて前世(前住んでた世界)での名前で読んであげたいなと思いました。 まだ人間の言葉の解明は不十分なのはわかっているのですが、なんとかして名前を聞き出す方法はないでしょうか?




『人間を飼ったんですが…名前思い浮かばなくて』




 名前考えるのとか苦手で、せっかくだから、前住んでいた世界での名前を聞けたらなって思ったんですが、なんとかして聞く方法ってありますか?






 ……




 など似た質問が溢れていた。 自分の気持に一番近い一番上の質問のページを開いて参考にすることにした。








人間の前世の名前を聞く方法ってありますか? (太文字)




(アイコン) ningennloveloveさん (←質問者ID)




人間の前世の名前を聞く方法ってありますか?




人間飼い始めました、とても良い子なのもあり、せめて前世(前住んでた世界)での名前で読んであげたいなと思いました。 まだ人間の言葉の解明は不十分なのはわかっているのですが、なんとかして名前を聞き出す方法はないでしょうか?








閲覧数:879 回答:3 お礼:(感謝コイン)250枚 






ベストアンサーに選ばれた回答






(アイコン)ningendogさん   2014/7/28 18:07:23




おー、同志よっ!




自分も貴方の考えに賛同です。




自分も過去に同じことで困っていたので、あれこれ調べてうまく行ったやつを教えますね。




実践前に一言、安心して下さい、人間は賢いので、必ずすぐ聞き出すことが出来ると思います。






では、私がうまく行った方法を書きます。




用意するもの、ノートやスケッチブックと 絵を描くのに適したペン。




(1) 画用紙の半分に自画像を書きます。絵が下手な人は、自分の顔の柄や特徴をあわせて描くといいでしょう。


※特徴一例 頬に一筋の線がある、 タバコを咥えている。




(2) 描いた絵の上か下に自分の名前を書きましょう。




(3) 反対側に、人間の似顔絵を書きましょう。特徴がうまく書き表せない場合は、着ている服の柄を描きましょう。




(4) 描き終わったら、その絵を見せて、まず、自分の名前のところをなぞりながら、自分の名前を言いましょう。




 その後、再び自分を指して、自分の名前を言いましょう。




(5) 絵を渡して、前世語で良いので名前を描くようにジェスチャーしましょう。




 察しのいい人間は、すぐ描いてくれると思います。 




(6) 今度は、再び自分の名前の文字を指でなぞりもう一度自分の名前を名乗りましょう。




(7) その後に人間の描いた文字をなぞり、『読んで』と呼びかけましょう。 伝わりが遅くても何度か繰り返せば、前世語で名前を名乗ってくれるはずです。




(8)これにより、名前を名乗り合うことが出来たと思います、最初はお互いに発音が難しいかもしれませんが、意思疎通が格段に出来るようになると思います、 頑張って!






 質問した人からのコメント




 他のやり方も良かったのですが、やりがいがあったのでこの方法を試したらすぐに名前の呼び合いが出来るようになりました。 1~8まで僅か3分足らずで終わったんですが、うちの子賢すぎません?w(親バカ)




 とと、脱線しました、他の皆様も回答有り難うございました。






「……なるほど……」




 試してみよう……因みに他の回答は?……。






 そう思いウェブページをしたにスクロールすると、URLと解説をしてある回答があった。




 *********(URL)




 このページを見せたら一発で名前を名乗ってくれると思うよ、勿論脅し要素とか無いから安心して下さい!




 このページを作ったのは共同作家で有名なあの御方なので!








「ふむふむ……」




 手間を考えなければ今の方法もベストかも知れないが。




 そういえば、絵コミュニケーション出来ればいいなってスケッチブックを買っていたんだ、せっかくだから上のやり方を試そう。




 そうは思いながら、オレは、机に座り、鏡を見ながら自分の顔を描いた。




 絵はそこまで下手ではないので多分伝わるとは思う。




 問題は人間の絵の方だ……。




 描き慣れている絵と描き慣れていない絵は、大分画力に差が出てしまう。




 ゆっくりかけば……大丈夫だろう。




 ……。




 なんとか描けた……かな?




 若干不格好ながら、着ている服の一部も描いたので多分伝わるだろう。




 それから、自分の名前を下の方に記名して、人間の側に近づき、肩をつんつんと叩いた。




「ちょっと良いか? 名前教えてほしいんだけど」




 伝わらないとは思うが一応言ってみる。




『うん? どうしたの? 何か描いてたの?』




 覗こうとはせず、ただ手に持っているスケッチブックを見ていた。




 順調に行くかに思えた、絵コミュニケーションだったのだが……。




 絵を見せた時、人間は突然泣き始めて、オレは慌てる結果になった。




 しかし、結論を言うと、多分、仲良くしようとしてくれて、意思疎通をしようとしてくれようとして




 それが嬉しくて泣いたようだった。




 それから、なんとか思惑通り、名前を聞くことが出来た。




 オレのペットの名前は、前世語で『モモ』と言うらしかった。




 同じ文字2文字だからオレ自信も呼びやすかった。




 そして、オレの方も『モモ』から名前を読んでもらえた。




 初めて呼ばれた名前は、何にも例え難い、素晴らしいもので、気がつけば、唇噛んで号泣していた。




「『モモォー』、『モモォー』大好き、絶対幸せにするから!、『モモォー』『モモォー』」




 まるでそれは、猿がナニを覚えて馬鹿みたいにずっとしているみたいな光景に見えたかもしれないが。




 そんなの関係なく、オレは『モモ』が愛おしくて堪らなかった。




 そして『モモ』は号泣するオレの頬にそっとキスをしてくれた。




「もぉ……幸せすぎて死にたい……はぁ……」




 それから何度互いに名前を呼び合っただろう、呼び合う度に反応して、擬似会話体験をする。




「『モモ』大好きだよ」




『何? ……えへへっ』


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