第172話 ハーレムスローライフ
――――リーベンラシア王宮ブラッドの執務室。
ここに戻ると実家のような安心感が……。
「ブラッドさま、今夜もお願いいたします♡」
「お姉さまっ! 今夜は私が先ですよ、って愛さん、どこに座ってるんですか!?」
「ん? おにぃの膝の上だけど?」
あるわけなかった……。
左右にフリージア姉妹、膝上に愛。後ろにいるエーデルワイスがバックハグしてくるし、待合室よろしくユーセミリアとネモがお茶を飲んでいた。
「ブラッドさま、ビスマルクさまが……ああっ、ビスマルクさまっ」
「入るぞ、ブラッド」
「遠慮はいらん、勝手に入れ」
ビスマルクの従者がビスマルクの行動に驚いているにも拘らず、俺の部屋に入室してくる。従者が驚くのも不思議じゃない。通常なら子である俺がビスマルクに呼び出されるのが慣例。なのにビスマルクが訪れてきたのだから……。
ビスマルクは目のまえの光景に驚きと呆れからか、ため息混じりに言葉を吐く。
「また増えたな……」
「増えたぞ!」
俺はそんな彼に半ばやけくそ気味に答える。
「ところでわざわざ親父が俺のところに足を運ぶなんてなにごとだ? まさか単に嫌みを言いにきたとか詰まらぬ冗談を言うなよ」
「ふははは! 儂もそんなに暇ではないわ。実はのう……フォーネリアの新女王ヴァイオレットから求婚されておる」
「ほう! 良かったではないか、その歳で若い女ができて」
「馬鹿を申すでない。ブラッド、おまえにだ」
上手くビスマルクに押し付け、回避しようとしたがどだい無理な話だった……。
「あいつはショタ好きだ。俺は奴の趣味嗜好から外れてるはずだ。断れ」
「無理だ」
「なぜ……だ――――」
俺がビスマルクに問い質す間もなく、見慣れた人物が部屋に入ってきていた。
「ブラッド、結婚しましょう! あなたが断るなら戦争です」
「……」
ヴァイオレットがドレスの上に胸当て、手甲、膝当てにプレートだらけのブーツという某女騎士王みたいな恰好で現れた。
ヴァイオレット、それは恫喝という物では?
俺よりグラッドがいいとか言ってたヴァイオレットの心変わりに驚く他ない。
それだけで済めば良かったが、ヴァイオレットは装備を脱ぎ捨てただけでなく、ドレスまで剥ぎ取った。
ビスマルクが思わず手で覆うなか、ヴァイオレットは惜しげもなくその美しく引き締まった肢体を俺に披露してくる。
脱ぐとクリスマスに「プレゼントはわ・た・し♡」みたいなリボンを身体に巻きつけていて、破廉恥極まりない。さらに芸が細かいことに左右の乳房と股間に薔薇型に結んだリボンをあしらっている。
彼女がリボン下着に着替えるとき、フォーネリアの侍女か、メイドはヴァイオレットに突っ込まなかったんだろうか?
「落ち着け。俺と貴様の問題に民草を巻き込むな」
「では私とあなたの勝負です。私があなたに十万回イかされなければ私の勝ち、私があなたを一回イせれば私の勝ちでよろしくて?」
「なんだ、その滅茶苦茶なハンデは……」
負けず嫌いにもほどがある。雑魚まんのくせして……。
「それに魔神王を引き受けたのはフォーネリアですので、そこをご配慮してもらわねば……」
そんなプレゼントリボンを巻いただけのヴァイオレットにご配慮とか言われても、あなたが恰好にご配慮くださいって言い返したくなる。
「魔神王を娼館に入れておけと助言を与えたのは俺だったはず……。それにより復興で疲弊した国庫が潤っていると聞いているが」
ヴァイオレットは内股をもじもじさせていた。
おい! そっちも潤ってんのかい!!!
「それについては感謝しかありません……だから、私はこんな恰好で……」
目のやり場に困り、俺は窓から外を眺める。俺の目のまえには見たくもない物があって嘆息した。
俺が全裸で聖槍ジークフリートを持ち、構えている石像が王都広場の噴水に鎮座していたからだ。石像の握っている聖槍ジークフリートは本物で、偶に俺に文句を垂れていると聞く。
聖女の力で人間に戻すことも可能だとビスマルクに告げたが三十年くらいあのままでいいと返された。
無期懲役かよ……。
まあ、いいお灸だよな。
「返事はしばらく待て。身を固めることになるんだ、それくらいいいだろ?」
「よ、良いお返事をお待ちしております」
ヴァイオレットは俺の部屋から出てゆく。
「貴様らも一旦外に出ろ。俺は少し親父と話したい」
「ブラッドさま……」
「おにぃ……」
名残惜しそうに俺の部屋を出る女の子たち……。
部屋には俺とビスマルクだけになる。厳重に人払いしてあるので話す内容は二人だけの秘密だ。
ビスマルクはしばらく俺をじっと見たあと、重々しく口を開いた。
「ブラッドも知っての通り、リーベンラシアは一夫一婦制だ。誰かを正式な妃とせねばなるまい……」
「俺は選ばないという手段を取る」
問われるまえから答えは決まっていた。
「まさか全員を娶るなどと世迷い言を申すでないぞ! そんなことをすれば……」
「安心しろ。俺はジークフリートほど馬鹿な選択はしない。腐っても親父の息子だからな。俺は王位継承権を返上する」
「そうか……」
「えらく落ち着いてるな」
「おまえは一国の王に収まる器ではないと思っていたからな。しかし、ちと女を惚れさせ過ぎではないか?」
「知らん。俺はただ俺のしたいように動いていたら、ああなった……」
話を切ろうとするとビスマルクが急に人差し指を立てた。
「ひとつだけ頼みがある」
「なんだ? 言ってみろ」
「おまえとその伴侶の長子をリーベンラシアの王太子としたい」
「孫をか……」
「ダメか?」
「期待しても無駄だぞ。俺は女すらいなさそうな辺境で暮らそうと思ってるからな」
俺はビスマルクに真意を告げ、すでに来るべき日に備え、済ましておいた手荷物を持ち隠し通路へ向かう。
「ヴァイオレット女王と婚姻しておれば同君連合となり、リーベンラシアは世界有数の国家となっておったのに、それを簡単に捨ててしまうとは……この馬鹿王子めが!」
言葉こそ俺を罵倒していたがビスマルクは大笑いしていた。
「あとのことは儂がなんとかする。おまえは好きに生きろ」
「済まん、親父よ」
今世の肉親とハグしたあと、俺はすべての地位を捨て去りリーベンラシアの王宮を去った。
――――人類未踏の地エルフロンデ。
「まさか自ら進んで俺とリリーが追放される場所に来てしまうとはな……」
『フォーチュン・エンゲージ』でやらかしまくったブラッドはフリージアとスパダリの告発によりビスマルクの逆鱗に触れ、リリーと共にエルフロンデ送りにされてしまう。
リリーはエルフロンデに送られたことで発狂、ブラッドと毎日喧嘩する日々を送ったのち、二人でお互いの食事に毒を盛り果てるという結末を迎えていた。
不毛の地だったが、こんなに筋トレ向きの土地はないと俺はゲームをプレイしていて思っていた。
俺にとってはパラダイス。
だが女の子たちにこんな過酷な土地に来てもらうわけにいかなかった。
エルフロンデに来て、一週間くらいした頃だろうか? とりあえず川の水を引くために水路を切り開いているときだった。三日三晩ぶっ通しで動いていたため、さすがに少し疲れて座るのに適した石の上に腰掛ける。
「あ~喉が渇いた。川まで全速力で走っても三日は掛かるな……」
「はい、お水」
「ああ、ありがと……」
頬にひんやりとした感触がある。どうやら水の入った瓶が当たったらしい。
って、なんで水の入った瓶が、いや人の声が……しかも愛の声がするなんて、脱水症状で幻聴、幻覚でも表れたのか!?
そう思って振り返ると……。
「おにぃ、愛から逃れられると本気で思ってるの? 愛とおにぃは運命の赤い糸で結ばれてること忘れちゃった?」
愛がいて、微笑んでいた。
「これは幻覚か?」
「もうっ! これならどうだ! おっぱいダイレクトアタックーーーッ!!!」
「んぷぷぷぷぷぷっ!!!」
俺の顔におしつけられた愛のたわわ……。
「うむ、素晴らしくて、これは夢なんだろうか?」
「おにぃと二人きりの夢なら覚めないで欲しいな」
「愛……これからが大変だぞ」
「大丈夫! おにぃに内緒にしてたけど、『フォーチュン・エンゲージ』を書いたの……愛なんだからね♡」
「まさか愛がシナリオライターやってたのか!?」
「うん……おにぃにお仕事もらったよーって言いたかったけど、ゲームシナリオは誰にも言っちゃダメだったから……」
愛が俺にくれるプレゼントが急に豪華になり、パパ活でも始めたんじゃないかとかなり心配したが、そんなことはまったくなく、愛がどうやって収入を得ていたのか不思議でならなかった。
なるほど、それなら納得。そしていまさら安心。
「水が引けたら、愛とおにぃの愛の巣をつくろ!」
「あ、ああ……愛の巣というのは大げさだが家はいるな」
しかし、家の屋台骨となる木をどうするべきかと悩む。エルフロンデには草は禿げ山程度に生えていても木はないのだ。
「愛さま、抜け駆けはいけませんよ」
「ほら、お姉さま。愛さんを追えば必ずブラッド殿下とお会いできると言ったでしょう?」
「ええ、リリーは本当に賢いですね」
「なぜ、フリージア姉妹が……」
「ブラッドさま以外の男性は愛せないとお伝えしていたことをお忘れですか?」
「ブラッド殿下、酷いですわ。私たちを置いてゆくなんて! 罰として私たち姉妹が妊娠するまで……あの……その……いっぱいかわいがって!」
フリージア姉妹が来てしまったということは……。
来ちゃたよ、女王騎士さまが……。
「あのまだお返事いただいてませんが……? なるほど……そうだったのですね」
急にヴァイオレットが唇に親指と人差し指を当てて考え込む。ヴァイオレットの頭上がピコーンと光ったような気がしたら、彼女は語り始めた。
「こちらにブラッドの国を建てれば、法律は好きにできる。一夫一婦制などおクソお食べになられて、と思われ、辺境に来られたわけですね!」
「おい、貴様はなにを言っている?」
「ええ、ブラッドはこのエルフロンデで一夫多妻を成そうとされたのです」
みんなの注目がヴァイオレットに集まったかと思ったら、すぐに俺に移る。
「俺はそんなこと蟻の毛ほども思ってないっ!」
そうだ、彼女たちに精力を搾りに搾り取られて、筋トレどころじゃなくなっていたのだから。
エーデルワイスにネモ、ユーセミリアまでヴァイオレットの用意した馬車に乗っていた。さらに馬車があり……。
「殿下、やっと再びお会いすることができました……このオモネール、再びお仕えできて感無量でございます」
「殿下、水臭いですぞ~ボフゥ!」
「雑用はーこのーソンタックにーお任せあれー」
「ボクとリッチルを忘れないでください! 殿下のおかげでいまのボクがあるんです!」
オモネールたちまで来てしまっていた。これでは静かなスローライフどころか俺の目論見を外れて騒がしいものになってしまう。
「貴様らって奴は、貴様らって奴は……この痴れ者どもがっ!!! 未開の地の大変さを身にしみて分からせてやるから覚悟しておけ!」
――――はいっ!!!
おわり
―――――――――あとがき――――――――――
読者の皆さまがこちらをご覧になっている頃にはシンデレラとグレイブが実装されてることでしょう。現時点(10/27)では2周年記念配信の情報過多に整理が追いついてない状態です。
それは置いといて……ここまでお読み頂き、誠にありがとうございました。またたくさんのフォロー、ご評価、ご感想を頂き執筆の励みとなりました。
そうそう大事なことを忘れておりました、完結まで書いたら評価しますと公言されている読者さまは面白さに応じて、ご評価を頂けるとありがたいです。
乙女ゲーのざまぁされる馬鹿王子に転生したので、死亡フラグ回避のため脳筋に生きようと思う。婚約破棄令嬢と欲しがり妹がヤンデレるとか聞いてねえ! 東夷 @touikai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます