そのとき、インターホンが鳴った
調子良く執筆をしていた彼は、やむなく手を止めて玄関に向かった。無視しても良かったのだが、今日は午前中のうちに実家から食料が届く予定だったので、そう言うわけにもいかなかった。
ドアを開けると、しかしそこにいたのは彼の悪友だった。仮にN氏としよう。
不意をつかれた彼は、相も変わらず強引な彼が上がり込むのを食い止めることができず、振り返った時には、すでにN氏は部屋の真ん中に置いてある万年炬燵の中に潜り込んでいた。
嘆息して部屋に戻り、いつものように通りがかりにからかいに来ただけだろうからさほど長居もしないだろう、と諦めの境地でやかんから茶の一杯を差し出してやる。
N氏は先ほどまで彼が執筆していた小説を面白くなさそうに眺めていたが、読み終わるなり、いや猫にフレンチトースト食わすなよ、と言った。
叙述トリックのつもりだろうけど、シャムってあからさますぎない? この話でそんな凝ったことする意味もわからないし。まぁそれは百歩譲ったとしても、全体的にポエムすぎて直視に耐えん。
あと、パンのへたって関西弁だから、パンの耳にしといたほうがいいんじゃないか。などと、言いたいことを言いたいだけ言い放って、N氏は風のように去っていった。机においたグラスのお茶はしっかり空にしてある。
初めから分かってはいた事だが、だからといって腹が立たないわけではない。それにシャムという名は、猫と思わせて犬という叙述トリックだ。
彼は玄関に向かって塩の一つかみを振りまくと、鬱憤を晴らすべく地団駄を踏みながら机に向かった。
言葉の断片 海珠ミキ @kaizyu_miki
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