空回し

ぼくる

第1話

 おかしな振り、くるった振りをしようと思った。

普通でも凡庸でも、それがいちばん私に足りる。空を回そう。


 駅前。ガードレールの上にお尻を据えて、人を待ってる振りをした。イヤホンは耳ぃぶっ刺し、スマホで目をキラキラでー、片手はポッケ。指をスラスラ動かして、リアルはホーム画面を反復横跳び。

 メイドさんがチラシ配ってる。屋上ではタバコとか吸ってるんだろうかとかそんな小躍り妄想。そのイントロだけでなんか妬ましいもんが芽生えて、まだ足りないって思った。

 タバコーーあれ、売ってないコンビニとかあんのかな。どこのコンビニでも等しく絶対売られてんのかな、とか思いつつ、チラシ貰ってやろうとメイドさんの傍をわざと通り過ぎた。貰えなくて、腹が立って、腹立つ自分にまた腹立った。因果応報じゃん、何サマ。

 なんの音楽流してあるこか迷ってると、普通に歩けない。でも普通に歩くにゃ音楽いるじゃん。だからYouTubeで違法アップロードされてるサントラとか聴く。この背徳感っぽいなんかも、コロナなんかより一瞬で慣れた。

 ああいうのがいい。流行りのシティポップ…って言うの? 知らんけどなんかアンニュイってやつで気怠そうな雰囲気で、んでもってピアノピャこピャこ弾きながら歌ってるやつ。ドラムテケツク、ドンつくコンつく叩くやつ。夜なんとか、とにかく夜がアーティスト名につくやつっ。アニメMVのさ。

 あとなんかあれも見たい。曲は聞いたことないけど、三月のなんとかってやつのイラスト。調べようにも、三月しか出てこない。ああいうイラストで描かれてんような女になりたい。

『短パン パーカー 女の子 イラスト 三月』

 バカみたいな検索かけた。でも見つからなかったああ、それは後でいいから先音楽かけよと思ったところで通行人とフェイントかけ合う。すれ違いざま、どっち行くんだよって言えばもっとおかしくなれた。おかしな人のフリでけた。できたじゃん。

 ってか、おかしくなること強制されてる気がしてきた。はよ音楽かけよ。好きなことやる=おかしくなれよって気がしてきた。どれかけよ。いまさらレズです、っつっても遅い気する。そう言う人が不意に強くなって、なんか自分にも色つけよかなと思う顛末でござい。あー障がいなんかも欲しくなってくんじゃん。それ私のせい? ADHD診断とかみんなやった? YouTubeダメだ広告ジャマで15秒、マットがウーバーのcm。最初バカにしてたけど、マットなんか、ぉもしれいよな。曲、曲。光まぶし。

 なんなん、都会の眩しさ。絶対体に悪いもん入ってる。信号、赤で渡ってみよかな。どしよ。願掛けみたいな感じに。んなー青に変わった。あの信号ん中に住んでる人って別人かな。青と赤の二階建て。どっちも白いけど、いっそその二人でもいいって思う。いんやその二人がいいのかも。3人でさ、えっちらほっちらってか曲なに聴くんのほんと。


 大事な時には色なくしたがって、なんか好きになりそうな人の前でふざけようとしない。そんな自分と自分とで絡んで縺れて、べちゃくちゃで、例えばジョニー・デップのキャラみたいな曲。

 不意に、前を歩いてるカップルがなんか落とした。なんかフリスクとかそんなやつ。わたし、拾って、小走りになって、声かけた。

「落としまし、た?」

 二人が振り向いた。すごい綺麗なカップルだけど、どっちかが消費者で、どっちかが売り物にも思えてくる。でもそうじゃないんだろうなぁ。

「あぁ、ありがとうございます、すいませんどうも」

 男の方が微笑混じりに礼を言った。わたしも微笑んで見せた。きっしょいやつ。ほんと、気味悪うく唇の片側上げるきもいやつ。

 いいことをしたって思った途端、悔しくなった。一瞬嬉しくなった自分が『普通』ってゴミ箱にぶち込まれる気ぃして、痙攣みたいに顔歪んだ。ピク、グピュク。これじゃダメだった。ダメ、ダメ。

 結局さ、なんの曲かけんの。とりあえず流す曲探そうと立ち止まろうかいや、ぶつかるし。

じゃあちょっとぶつからないとこ行って、そこいらでまた人待つ振りして曲さがそう。曲かけてから歩きだせばよかった。

 

 ぶつからないとこ。なんとなくでの空仰ぎ。

そこがいっちゃん静かで、ぶつかんない。

おかしくなろうとしてる自分よ。色ぶつかってるどこかの誰かさんよ。

宣言しやす。わたしは空を回します。わたしがほんとに好きな空になるまで回しまくりやす。

ブラジルも、ブラジルの蝶も、バタフライエフェクトなんかも時差ボケさせます、させやす。

空が地面になるときまで、そこに吸い込まれるまで回しやす。

最期の最後で気分はスーパーマン。

ニュートンなんかもデタラメにして、空に落っこちて頭ぶつける。

そんでアカ。もうぶつからない、そんなアカ。

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空回し ぼくる @9stories

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