第16話 義妹と俺とソロキャンプ

 くそぅ。今週もひたすらに疲れたぞ。ブラック企業め……。


 1日のタスクが1日で終わらない。

 終わらないタスクが雪だるまのように膨れ上がり真っ青な顔をして帰る。

 もうダメだ。癒やされたい。


 「そうだ。週末はキャンプに行こう。」


 小さい頃からキャンプはやっていた。

 ここ数年、キャンプを題材としたアニメやら、コロナやらで、アホみたいにキャンプが流行った。そのせいで、キャンプ場は、にわかキャンパーで溢れかえったが、やっと落ち着いてきた。


 キャンプブーム前と同じくらいに寂れたもんだ。


 俺のスタイルは、ソロキャンプ。


 こじんまりとしたキャンプギアは、無駄もなく、機能的で、オシャレだ。手入れしているだけでテンションが上ってくる。

 レンタカーを借り、都内から、埼玉県の奥地に向かうこと2時間。


 車窓から見える緑が多くなってくる。

 キャンプ場に着くと、少し小雨が降っている。天気の悪さも相まってか、俺のサイトに他の客はいない。


 テントの上を覆うようにタープを張る。片方のポールを高くすることで雨がうまく溜まらないように調節する。


 クーラーボックスを棚代わりにクッカーやらシェラカップを並べていく。


 さて、もう一息だ。

 焚き火台を組み立て、薪に火を付ける。

 ガリガリガリと、コーヒー豆を引く。


 浅煎りのホンジュラス をキャンプ用ドリッパーで淹れる。


 ゆっくりとコーヒーが蒸らされ、俺はグランドチェアに腰をかける。

 小雨を見ながらのコーヒータイム。


 至福である。癒やしである。

 



「あのー。すみません」


 顔を上げると、キャンパー女子が困り顔で立っている。

俺より後に来たキャンプ客か。


「ん? どうしました?」

「薪が湿って火がつかなくて……。着火剤も切れちゃったんです。」


 ――あぁ。初心者あるある……か。


 正直面倒くさいから、熾った炭を分けてあげれば解決なんだけどな。

 時間もあるし、教えてあげるか。俺は女子キャンパーのサイトに向かった。


「焚き火のコツはね、まず、火床として、焚き火台に薪を並べるんだ」


「その上に『人』という字の形のように薪を置く」


 着火剤を使うと楽なんだけどね。フェザースティックでつける方法を教える。

 まずはバトニング。薪を立て、ナイフを縦に当てて固定する。そして、もう1本の薪でナイフを叩く。


 すると、斧で薪割りをしたように細い薪ができるのだ。


「細い薪、中くらいの薪、太い薪をこうやって作るのよ」

「うんうん。すごい! Youtubeで観たことありますー」

 

 細い薪を更にバトニングしたあと、ナイフでその先を鉛筆を削るように毛羽立たせていく。


「これがフェザースティックっていう着火剤替わりになる」

「すごいすご〜い」


 綿テープや、ポテトチップスも着火剤になるのだが、それは雰囲気が壊れるからな。困ったときの裏技だ。


 「あとは『人』という字にした薪のの上に、細い順に組んでいけば……」


 ほら。火吹棒なんて不要だし、雨が降ってても火が着くんだ。


「わぁ。すごい」

 

 キャンパー女子は感激とお礼を言う。俺は自分のサイトへと戻っていく。


 さて、俺も酒を飲みながら、料理でも作り始めようかな。


 キンキンに冷えた缶ビールを開ける。

 今回は、キャンプ場の近くのスーパーで魚とマッシュルームとアサリを買ったんだ。


『アルミホイルで作るアクアパッツァ』


 俺の得意のキャンプ飯だ。分量さえ間違わなければ誰が作っても美味い!

 さて、晩酌の始まりだ!


 イタリアの白ワインを開ける。ワインバーで義妹にハメられたときのことが頭をよぎる。が、流石にここまでは来ないだろう。


 ブンブンと頭を振り、義妹を頭から追い出す。


 ああ。美味いな。

 さすが失敗しないアクアパッツァだ。


 

「わ。いい香りですね! おいしそう」


 先程のキャンパー女子が話しかけてきた。



 焚き火のお礼として、作ったクラムチャウダーをおすそ分けしてくれた。

 ソロキャンプ同士の2人。

 2人でソロキャンプ……なんか変な響きだが、キャンパー女子と楽しい一時を過ごせそうだ。


「ちょっと一緒に飲みましょう」と自分の椅子を持ってくるキャンパー女子。


 おっと、俺の行きずりセンサーが反応している。



 「乾杯〜」


 「じゃ、遠慮なくいただきます」

 

 貝料理がかぶるなんて……。この子と相性がよさそうだ。

 なーんてことを考えながら、クラムチャウダーを食べる。



「わわ! めちゃくちゃ美味しい。料理うまいですね。えーっと……」

「アスカです」

「俺は奏斗です」


 美味しい料理に酒が進む。


「今日は本当にたすかりましたよ」

「私、最近ソロキャンプデビューしたんです。もしあの時火が着かなかったら帰るとこでした。」


 テヘっとわらうアスカの笑顔。

 ――か、かわよっ! 私のフェザースティックにも着火しそうですよぉぉ。


「奏斗さんはなんか、プロキャンパーって感じでかっこいいです」

「もうキャンプ歴は長いんですか?」


「へへへ。こちとら、生まれてこの方ずっとソロキャンプでございますぜ」

 ――私の股間は自立型テントのようにしっかりと立っておりますぞおぉぉ。


「キャンプ、すごい楽しいです」


「私もキャンプをやってて良かったです! アスカさんに出会えて、キャンプモチベーションが急上昇しております!」


「ふふふ。奏斗さん、おもしろい」


 見つめ合う2人。静まり始める焚き火と反比例して燃え上がり始めましたよぉぉ。


「寝袋とかって、どんなものを使ってるんですか?」


 きたきたきたーーー!


「ちょっと入ってみます?」

 

 キャンプだホイ

 キャンプだホイ

 キャンプだホイホイホイ


 初めて見る乳

 初めて揉む乳

 初めて舐める乳ぃぃぃ


 子供の頃にキャンプで歌った曲が脳内でリフレインする。

 

 こちらのクラムもチャウダーしちゃいまぁぁぁす。(やまびこ)



 いたした。



 「モチベーションという概念は、希望につながっていなければならない」


 村上龍の言葉が心に響く。


 我は、今までにない賢者の時間を過ごし、まどろみの中に落ち、眠りについた。


 

 ――朝露がテントを濡らす。大自然の中でいたした壮大感、爽快感を感じながら寝袋から這い出る。

 

「コーヒー……淹れよっか」

 狭いテントで密着した梨紗が話しかけてくる。

 

 


 ――梨紗?



 なぜ、生まれたままの姿の梨紗がいるんだ?


 「お義兄ちゃんのフェザースティック! 昨日はよく燃えたね」


 クソ! こんな山奥まで追ってきやがったのか!

 

「んがぁぁっぁぁぁ! またもや義妹を抱いてしまったぁぁぁぁぁ」



「んがぁぁっぁぁぁ! またもや義妹を抱いてしまったぁぁぁぁぁ」


 

 大自然の中、俺の叫び声がやまびことなって返ってきた。

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行きずり女と寝たはずなのに、どんなムーブをしても義妹を抱いてしまう。 いぬがみとうま @tomainugami

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