#16 仮想通貨

箕浦「アニメが人気なだけでは覇権は獲れません。 現状は先行者の優位性があるに過ぎず、市場がこのまま拡大を続ければ、いずれその利益を求め後発の参入が押し寄せるのは時間の問題です。 後発は先行者が膨大な時と金と労力を賭して築き上げた手法を模倣し、より直線的で容易にキャッチアップするでしょう。 これらは普遍的な問題でもあり、どの様な産業にも訪れるフェーズです。 そしてその対処法は答えがあるわけではありません、状況により最適解は異なります。 故にこの提起もこのケースを鑑みた上でのいち提案です」 


箕浦「ここからはサトシさんの素案をまま引用します」


プ、プレッシャー……


箕浦「近年の世界経済の中心はアメリカであると言って過言ではないでしょう。 それをたらしめるものの中心は米ドルという通貨の強さです。 通貨の強さはその流通量に比例します。 人類の生産活動に欠かす事のできない原油の取引を米ドル建てに

一元化した、所謂ペトロダラーにより、産油国は原油を売って米ドルを得、得た米ドルで米国債や米証券を買うスキームが構築されました。 この米ドルという通貨を中心としたエコシステムこそがアメリカ経済の底堅さと言えます。 それを理解するからこそ、現在アメリカと経済戦争の只中にある中国は中東やロシアの産油国を懐柔し、原油の人民元取引に漕ぎ着けました。 そして時を同じくして政府発行のデジタル通貨を世界に先駆けて発行しました。 厳密には少々違いもありますが、法定の仮想通貨です。 

幸か不幸か、この様な仮想通貨が民間でも発行できる時代です。 アニメ制作に留まらず、歴史に学び、アニメ産業にも独自通貨を用いたエコシステムを構築する事こそが、しいては日本アニメの未来に繋がると考えます」


キリヤ「……何か途方もない話だけどさ、何の根拠があってそれが可能であると?」


発案だなんてそんな大それたつもりは毛頭なかった、それが実現できるか否かまで思考が飛躍出来なかった点ではキリヤと同感だ。 だからこそ彼も自分の話にはまともに耳を貸さなかったのだろう


箕浦「見通しはありますが、現状は皆様のご意見を伺いたく提起させて頂いております。 そしてダン飯さん、まずは金融の専門であられる貴殿の率直な意見をお伺いしたいのですが」


ダン飯「言いたい事は分かるよ……たださ、キリヤさんが言う様に途方もない話だよね。 この規模を協会主導でを1から始めるわけでしょ……」


確かにいち企業での事業であれば事もスムーズに進むかもしれない、だがこの件はいち企業に利益がもたらされる物でもなく、ましてや金銭的な利益を追求する話でもない。 故の協会主導の提案なのだろう


ダン飯「これが最適解かという疑問は残る。 ただね、先の広告の件も加味して考えると面白い試みだとも思う。 リスクやリソースの問題と、長期的な話である事、資金的な事、技術的な検証は更に混迷を極めるであろう事、そう言った諸々を含め踏み出す決断をするかどうかだと思う」


キリヤ「思う思うって、随分歯切れ悪いね。 問題も山積みじゃん」


ダン飯「現段階で言い切るには不確定要素が多すぎる。 仮想通貨に関しては未だ法整備が追い付いていません。 現に米証券取引委員会が仮想通貨の一つであるリップルを提訴した事案がありました、仮想通貨は証券であると。 これはリップルに限らず多くの仮想通貨に係る事案だった為、仮想通貨の今後を占う上でとても注目されていました。 結果は概ねリップル側の反論を認める形で結審し、現米政権もこの仮想通貨というテクノロジーを見守る旨の発表をしています。 しかし、今後どう転ぶかは未だ予断を許しません」


岡口「通貨ではなく証券なのですか?」


ダン飯「当訴訟での米証券取引委員会の訴えは認められませんでしたが、実際には仮想通貨には株に似た側面もあります。 今日世界では起業の際に株式ではなく仮想通貨を発行するスタートアップ企業も多いです。 事業や通貨の概要を示したホワイトペーパーを発行し、出資者を募るのです。 出資者が得るのは株式ではなく、その企業が発行した仮装通貨です。 

その点では、此度の目的に鑑みると仮想通貨に目を付けたのは理に適っているとも言えます」


烏山「ではなぜ提訴されたんだ? そもそも仮想通貨というと怪しいイメージがあるけど」


ダン飯「仮想通貨自体は新しいテクノロジーに過ぎません。 不信感あるのは、値動きが激しい投機的な商品である事と、それを利用して悪事を働く者が事件を起こしメディアを賑わすからです。 米証券取引委員会が提訴した真意は分かり兼ねますが、察するには金融の在り方を根本的に変え兼ねないこのテクノロジーに釘を刺したのではないでしょうか。 例えば現在日本からアメリカに送金をすると約3週間、手数料も3000円以上掛かります。 為替やら銀行間での事務処理、テロ資金対策の確認等、従来通りほぼ人力で行われます。 しかしリップルの技術を用いれば一瞬で完結し、費用もほぼ掛かりません。 現に日銀他、世界各国の中央銀行はリップルについて既に調査を進めています。 日本にもpaypay等似たデジタル通貨はありますね、あれを銀行間で、法定通貨で完結できるとされています。 リップルを用いずともヨーロッパでは既に近い技術が運用されています。 イギリスのRevolut銀行等はほぼ手数料も掛からず送金時のレートで瞬時に送金できる上、仮想通貨や金等の金融商品へも同様に換金する事ができます。 これらのテクノロジーが世界中で同時多発的に採用され始めれば、金融市場は混乱し、金融業界の仕組みやそこで働く者達へ多大な影響を与える事は想像に難くありません」


箕浦「仮想通貨そのものに悪いイメージが定着しているのは好ましくないですよね……ただ一方で既に仮想通貨の市場規模は証券市場の1/4を超えて来ており、多くの大手企業が資産として保有しているのもまた事実です」


ダン飯「歴史上、100年以上に渡って同一の貨幣制度が続いた事はありません。遠くない未来に、時代に合わせた変革が求められる日が来ても何ら不思議ではないです」


キリヤ「でも、独自の仮想通貨を発行すれば万事解決ってわけじゃないでしょ? むしろその先で何を行い何を得るかでしょ」

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