第10話 お前らあたしを殺す気か!?
「花子さんに愛されるにはどうすればいいだろうか……」
自室にて。
王子は一人悩んでいた。
自慢するわけではないが、王子は生まれついてのモテ男である(自慢か?)。
産まれた瞬間から看護師さんに「キャー! この子将来絶対イケメンになるわよ!」と持て囃され、園児になれば女児たちが「おうじくんはあたちとあそぶの~!」と取り合いをはじめ、小1の時には既にファンクラブが出来ていた程である(会員にはママさん達も多数いた)。
バレンタインには抱えきれない程のチョコを貰い、誕生日にはプレゼントの雨嵐、消しゴムを一つ落としたらなん倍にもなって返って来る。
下駄箱、机、鞄にロッカーと、あらゆる場所にラブレターを突っ込まれ、告白された回数は二桁では納まらない。
そんなモテまくりの王子だから、生まれてこの方女の子にモテる努力なんかした事がない。
そもそもモテたいと思った事自体なかったのだが。
モテたい。
すっごくモテたい。
山田花子にモテまくりたい!
しかし、一体、どうすれば!?
その方法が分からない!
「ああまずい。すごくまずいぞ。昨日の一件で他の男子も花子さんの魅力に気づいたに違いない。李亜夢だって今は遊び半分だけど、この調子じゃ花子さんに惚れるのは時間の問題だ……。だって花子さんはあんなに魅力的な女の子なんだから!」
その上花子はあの通り、かーなーりーユニークな人間性の持ち主だ。
モテまくりの王子がこれだけ必死にアピールしてもミリも靡かないのがその証拠。
そんな所ももちろん好きなのだが……。
このままでは他の男子に取られてしまう!
「そうなる前に何か手を打たなければ……」
だがどうすればいい?
一人で考えてもさっぱり名案は浮かんでこない。
けどこんな事、恥ずかしくって相談できる相手もいない。
そもそも完璧超人の王子である。
困り事で他人に相談した経験だって皆無なのである。
「そうだ! こんな時はネットで調べればいいじゃないか!」
思い立つと早速王子は『モテる男』で検索した。
†
「というわけで花子さん! お弁当を作って来ました!」
「いや、どういう訳かさっぱりわかんないんですけど……」
昼休みである。
今日こそ静かで自由なボッチ飯を決めようと弁当を取り出した矢先、無駄に眩しい顔面をしたイケメン王子がやってきた。
「よくぞ聞いてくれました! 実は僕は、花子さんにモテたい一心でモテる男についてネットで調べたんです。それによると! どうやら巷では料理男子というのが流行っているとか!」
「なるほど理解しました。帰って下さい」
「何故ですか!?」
(うるさっ!)
クソデカ声に顔をしかめつつ。
「いやだって自分のお弁当あるし……」
「あぁ、そこは問題ありません。花子さんのお弁当は僕が食べますから」
「問題しかねぇな?」
「花子さんの家庭の味を知る事が出来ればお弁当作りに役立ちます!」
「本音は?」
「花子さんと同じものを味わいたい……ハッ!?」
「シンプルにキモいんだよなぁ……」
「純愛です! それだけ本気という事です! だって僕は、花子さんの夫になる男ですから!」
「帰れ!」
「せめて一口! 一口だけでも!」
「一口食べたら勿体ないから全部食べなきゃいけない流れになるし、仮に残しても絶対あんた食べちゃうでしょ!」
「それは勿論。勿体ないですから(色んな意味で)」
「だーかーらー! 発想がストーカーのそれなんだって!? もう帰れよマジで!」
弁当の押し付け合いをしていると。
「情けねぇな王子! たかが弁当一つでそのざまか?」
やってきた李亜夢がその辺の男子の席(本人不在)を勝手に花子の机と合体させる。
「また面倒なのが……。あぁもう! 勝手に座らないで下さい!」
「そうだぞ李亜夢! そこは僕の席だ!」
「お前のでもねぇよ!」
花子はツッコむが聞いちゃいない。
「残念だったな王子! こういうのは早い物勝ちだ! てか王子、昨日も言っただろ? この手の女は強引に行かねぇとダメなんだよ!」
「勝手な事を言うな! 花子さんの気持ちはどうなる! 迷惑だろ!」
「その通りだけどお前が言うな!」
「僕はあくまでお願いしているだけですから」
「う~ん、この」
ああ言えばこう言う。
まったく口の減らない王子である。
「うるせぇうるせぇ! この俺様が特別に弁当を作って来てやったんだ! ありがたく思えっての!」
そう言うと李亜夢は弁当箱を机にのせた。
「おい李亜夢!? なんでお前まで花子さんに弁当を作って来てるんだ!? この事は誰にも言ってないのに、おかしいだろ!?」
「はっ! 俺様を誰だと思ってやがる。腐れ縁の幼馴染にして永遠のライバル、赤星李亜夢様だぜ? てめぇの考えそうな事なんて全部お見通しだっての!」
「くっ……。流石は李亜夢、恐ろしい奴だ……」
「いや、そのレベルでお見通しなのは盗聴器とか疑った方がいいのでは……」
いくら何でも見通しすぎだろ。
普通に怖い花子である。
「うるせぇ! 女にはわからねぇ男の絆があるんだよ! つーわけでモブ子審判な。俺様の料理で今日こそ王子を負かせてやるぜ!」
「ふっ。良いだろう。愛こそ最高の調味料だ! 李亜夢! お前に勝ち、花子さんへの愛の大きさを証明してやる!」
空いてるスペースに弁当を叩きつけると、王子もその辺の椅子を調達した。
「だーかーらー! 勝手に座んな! お前らのイチャラブにあたしを巻き込まないで! あたしはモブなの! そういうのは遠くで見てるだけで十分なの!」
言った所で聞きやしない。
しまいには。
「モ~ブちゃん! あ~しもま~ぜて♪」
「ふが!?」
もにゅんと後ろから沙羅が抱きついてくる。
「えへへ~! 昨日のお礼したくて、あ~しもお菓子作って来ちゃった! 一緒に食べていい?」
「そ、それはどうもですけど……」
主役級の美少女に抱きつかれて花子はタジタジだ。
女の子だって可愛い女子には弱いのである。
「ね~いいでしょ~? あ~しらもう友達じゃん? モブちゃんいっつも一人で食べてるし。そーいうのなんか寂しいじゃん?」
「牧野さんの言う通りだ。花子さんは孤高が過ぎる。勿論、そこも魅力ではあるのだが……」
「てか、普通に考えてみんなで食った方が楽しいに決まってんだろ!」
(そんな陽キャの理論を押し付けないでよ!?)
花子としては思うのだが、多勢に無勢だ。
どう頑張っても抗うだけ時間の無駄である。
「あぁもう! 分かりました! 食べればいいんでしょ食べれば!」
「やったぁ~! 見て見てモブちゃん! このクッキー、モブちゃんイメージして作ったの! よく出来てるっしょ! はいあ~ん! 友情の証!」
「ズルいぞ牧野さん! 僕だってこのお弁当は花子さんをイメージして作ったんだ! 花子さん、あーん! 僕の愛の証です!」
「あ、てめぇら! 先に食わせてモブ子を腹いっぱいにさせちまう作戦だろ! グルメ漫画で見た事あるぜ! その手には乗るか! おらモブ子! ほら食えさぁ食え! 俺様の勝利の証だ!」
「ちょ、ま――もが、もがががが!?」
三方向から料理を突っ込まれて口の中は超満員。
(し、死ぬ!? 死ぬって!?)
花子の頬袋は破裂寸前だ。
「や~ん! モブちゃんってばハムスターみたいで超可愛い~んだけど~!」
「可憐だ……」
「ぶははは! なんだよその顔! 面白過ぎだろ!?」
(お前らなぁ!? 殺す! 後で絶対殺す!)
これだから他人に関わると碌な事にならない。
そう思いつつ、花子はドコドコと胸を叩いて口の中の物を飲み込もうとする。
「ぉお? 今度はゴリラの真似かな?」
「可憐だ……」
「ぶははは! 死ぬ、笑い死ぬ! この女、面白過ぎだろ!?」
「ウホホッ?」
(死にそうなのはこっちだし、五里さんの事は呼んでねぇから!)
ともあれ、ギリギリのところで花子は口の中の物を飲み込んだ。
「ぶはぁ!? ハーッ、ハーッ、ハーッ……。お前らなぁ、あたしの事殺す気かぁ!?」
そこからは怒涛のお説教タイムである。
ちなみに二人の弁当は普通に美味かったが、ムカつくので引き分けにしてやった。
「ズルいぞ李亜夢! 冷凍食品を使うなんて!」
「はぁ? 弁当なんざ楽で美味い方が良いに決まってんだろ!」
「そんな弁当のどこに愛がある!」
「慣れねぇ料理で無理して不味い弁当食わすよりよっぽど良いだろ。俺様なりにモブ子の事を気にしてやったんだ。ある意味これも一つの愛だよなぁ? それでお前の愛情たっぷり(笑)手作り弁当と引き分けたんだ。こいつは実質俺様の勝ちだろ! ギャハハハ!」
「そんな弁当、僕は認めないぞ! 花子さん、一週間待ってください! 次こそは李亜夢の冷食弁当に負けない、最高の愛が詰まった弁当を用意して見せますから!」
「なら俺様は、もっと美味い総菜を用意してやるよ! 楽しみにしてろよモブ子ぉ!」
「じゃーあ~しはデザート担当で! 次はケーキ作っちゃおうっかな~?」
「次なんかねぇから! 一人で静かに食わせてください!」
こんなのに付き合っていたら身体が幾つあっても足りはしない。
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モブ顔地味子のあたしが学校一のイケメンの王子様の告白を断ったら急にモテだして困る話。 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA
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