溺れる果実
あげあげぱん
第1話
最近友人からとある怪異の話を聞いた。
ある山中の村に伝わるもので、溺れる果実と呼ばれる怪異だ。
果実が溺れる。とは奇妙な話だ。だが、確かにそれは溺れる果実という話なのだ。
有名なおとぎ話がある。川から流れてきた桃を割ると男の子が生まれ、すくすく育った男の子がやがては鬼を退治するという有名な話だ。日本で生まれ育ったものならまず知らないものはいないだろう。
溺れる果実は桃の姿をしているそうだ。そう、あのおとぎ話と同じく桃が川を流れるのだ。なんだか繋がりを感じられるし、ただの偶然のようにも思える。
溺れる果実とは、山の奥から流れてくるものだと言われている。この話が伝わる村では、あの世は山にあるのだと伝わっていたそうだ。火葬が行われるようになるまで、この辺りの地域では遺体を山に遺棄する風習があったという。
溺れる果実は山の奥から、村人たちが信じるところによるとあの世からやってくるという話だが、本当だろうか、にわかには信じがたい。
さて、ひとつこの地域に伝わる昔話をしよう。ある若者が山の湖で汚れを落としていたそうだ。その若者はうっかり足を滑らせて溺れてしまったらしい。若者の仲間が見つけたときにはすでに溺れ死んでいたという。
それから何年もして奇妙なことが起こった。村である娘が子を身ごもっていた。この娘は偶然、村の近くを流れていた桃の果実を拾って口にしたらしい。ほどなくして生まれた子供はすくすくと育つのだが、この子どもはかつて山の湖で溺れ死んだ若者に瓜二つだったのだ。さらに、この子どもは溺れ死んだ若者にしか応えられなかったはずのことにも応えられたらしい。そして、子どもは生まれる前、水のなかでもがき続けていたと話すのだ。
まるで若者の魂が果実に宿って戻ってきたかのようで、不思議だ。この話をすると不気味だと感じる人もいるが、私は興味深い話だと思う。
先程も少し話したが、この怪異は日本の有名なおとぎ話と繋がりがあるようにも思える。もしかしたら、そのおとぎ話の原型になったのかもしれないし、影響を与えたのかもしれない。というのは全て私の想像でしかなく、二つの話は独立した別のものなのかもしれない。
過去は未来に進むほどおぼろげになっていくもので、過去は未来に進むほど脚色して語られる。私はそう思う。
友人が教えてくれた怪異がどこまで現実を語っているのかはわからない。完全な創作話かもしれない。けれど私は思うのだ。
人々が語り継ぐ物語の裏には奇妙な怪異が潜んでいるのかもしれない。
溺れる果実 あげあげぱん @ageage2023
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