アゲハとわたくし

みかんの木とわたくし

 うちにはギリシャに旅行した方から御土産にもらったみかんの木の鉢植えがあります。

 ある日、様子を見てみたら、アゲハチョウの卵が三つありました。

 日本産じゃないのに、アゲハチョウは卵を産んでいくのです。

 節操がないぞ、アゲハ君。

 そういえば去年もアゲハはやって来て、卵を産んでいきました。

 その時の成長記録でも書いてみましょうか。


 アゲハチョウは飛びながら卵を産むのです。パタパタ羽を動かしながら、尻を葉っぱにつけて産卵。

 私はてっきり葉っぱに止まって卵を産むのかと思っていたのでびっくりです。

 しばらくすると幼虫が孵ります。一見すると毛虫みたい。

 またしばらくすると脱皮。まだ毛虫っぽい。

 また脱皮。これでようやく見た目がいもむしになります。

 緑のいもむし、個人的にはきれいだと思うのですが。

 ちなみにカラスアゲハだとファンキーな模様つきのいもむし。


 そしてこのいもむし連中がみかんの葉っぱを食べる食べる食べる。

 三匹でみかんの木がもう少しで丸裸というところまでいきました。

 そして大人の人差し指程度に大きくなったら、いよいよ次はさなぎになります。

 ここでなぜかいもむし連中はあちこち移動するように。

 おとなしくみかんの木でさなぎになればいいのに、何が気に入らないのかあっち行ったりこっち行ったり。

 部屋の中にもお構いなしで入って来ます。危うく踏んづける所でした。


 挙句の果てに何が気に入ったのか、家の中の柱に登ってさなぎの準備。

 やはり高い所というのがポイントなのでしょうか。

 三匹いたいもむしのうち、二匹はそれぞれ別の柱に陣取って、残りの一匹は行方不明。

 どこか適当な所で頑張っている事でしょう。頼むから踏むような所にはいないでください。


 そして一匹は無事さなぎに。しばらくして様子を見ると、一匹の腹に大きな穴が。

 寄生バチにやられたようです。いもむしの時に卵を産んで、さなぎの時に食い尽くす。

 まあ、これも自然の成り行き。仕方ないといえば仕方のないことです。


 残った一匹はというと、腹に穴が空く事無く時間が過ぎていき、中が透けて見えてきました。

 こうなると羽化も近い。

 ある朝ついに羽化。羽はしおれていますが、ちゃんとアゲハチョウです。

 しばらくすると羽も乾いて、間違いなくアゲハチョウ。


 そしてここからが最大のポイント。

 羽は乾いたけど、まだ飛べないこの時だけ出来る事。


 “手乗りアゲハ”


 手のひらの上で、羽を動かすアゲハ。

 普通だったらありえない光景です。ちょっと感動。

 それから五分も経つと、アゲハは羽をはためかせながら手のひらから飛んでいきます。


 「元気でな」


 と、葉っぱが壊滅状態になったみかんの木を背に見送るのでした。


 あれから一年。ひょっとしてもう駄目かなと思ったみかんの木も、ようやく回復してきました。

 そして今年もまたやってきました。卵三つ。


 間引いちゃっていいですか。

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アゲハとわたくし @marucyst

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