三章:叉鬼とおともだち その4

 夜の公園は昼とは真逆の涼しさに包まれていた。

 ざわざわと葉っぱを鳴らすくらいの風が吹いているのと、後ろにある噴水が周りの温度を下げているのかな? なんて思うわたしはきっと賢いのだと思います。

 噴水の淵に腰かけてわたしは、ざーと流れる水の音を聴いてた。

 騒がしいのも好きだけれどこういう静かなのも好き。

 ああ、イライラするなぁ……。

 足をプラプラさせながらそんなことを思った。

 足音がした。

 こっちへ来る。

 イライラとワクワクがわたしのなかで交差する。

 姿が見えた。

 小柄で華奢な体躯。

 薄めの髪色の如何にも小動物的な女の子が見える。

 ああ、イライラしてきた。

 イライラするけど、でもこれからイライラが解消できると思うとワクワクする。

 これから、お兄ちゃんとの時間が邪魔されないと思うとウキウキする。

 わたしはぴょんと噴水の淵から降りて軽い足取りで歩いていく。

「こんばんは、待ったよ。すごく待った。そっちが呼び出したのにねぇ」

 フランクに話しかけたつもりだったのに返答は無し。

 代わりに月明かりに照らされた顔が不機嫌すぎて歪んでいた。

 無言でこっちを睨んで察してくださぁ~いって言ってるみたい」

「あれ? 不機嫌隠せないの? 能無しの動物と一緒だね♪」

 表情からにじみ出てた不機嫌が臨海突破。

 沸騰しすぎちゃったお湯が鍋からこぼれてるみたい。

「叉鬼、あんた。兄妹なのにおかしいんだよ!」

 論点のすり替えか、この手の奴は話し合いしても無駄なんだよなぁ。

 まあ、する気はないんだけど。

「何がおかしいの?」

「一緒の布団で寝るのも、それにキスとかするのも……」

 顔を赤らめて目を反らしながら言うあみちゃん。

「何で? 叉鬼はお兄ちゃんと結婚する約束してるんだよ? これから夫婦になるんだから何にもおかしいことないよね? よね?」

 わたしは「そんなことよりあさぁ」と口にして右手に持っていた壊れた機械を放り捨てた。

 コンセントの蓋に入るくらいのちっちゃい機械がガチャンと音を立てて床に落ちる。

「これ、なに?」

 あみちゃんは一瞬焦った顔をしてから大声を上げる。

「話を逸らさないでよ!」

 それこっちのセリフなんだけど。

「叉鬼、怒ってるんだよねぇ……いつもよりずぅ~っとだってさ」

 わたしはぎろりと視線をあみちゃんに向ける。

「お友達に裏切られるのが一番、ムカつくもんね」

 こいつはわたしのお友達のふりをしてわたしとお兄ちゃんの家に潜り込んで、挙句の果てに盗聴器なんてつけてわたしからお兄ちゃんを取ろうとしてくる。

 腹立たしい、本当に腹立たしい。

 怒ってるのは叉鬼なのにあみちゃんはわたしを怒ったみたいな目で睨んでくる。

 ポケットに手を突っ込んだ。

「いつもいつも、先輩の傍に居てわたしの邪魔してくるくせに!」

 何が出てくるかと思ったら薄っぺらい刃物。

 包丁? 違う、もっと小さい果物ナイフだ。

「あ~あ、拍子抜け」

 その辺のチンピラの方がマシな武器持って挑んでくるよ。

 わたしは腰に隠したナイフを抜いてセオリー通りに動く。

 まず、あみちゃんの手の甲を斬りつけて果物ナイフを落とす。

 武器が無くなった瞬間に近づいて左手と左足で組み付いて、右手のナイフを心臓に突き刺す。

 あとは、てこの原理と一緒。

 叉鬼の体を軸にして噴水の中に叩き込むだけ。

 ばしゃん! って大きな音を立ててあみちゃんが噴水の中に落ちた。

 でも、心臓を一突きにしたくらいじゃすぐに死ななかったみたいで、水からがばっと起き上がった。

 噴水の淵に手をかけたのでわたしは、あみちゃんが噴水から出られないように通せんぼ。

 腰をかがめてちょこんと噴水の淵に座ってあみちゃんと同じ目線に立つ。

 まずは口を左手で閉じて、右手で喉を引き裂く。

 すっと立ち上がって胸のあたりを思いっきり蹴飛ばした。

 あみちゃんは後ろに倒れた。

 狭い噴水だから、真ん中のオブジェに後頭部をぶつけて水の中に逆戻り。

 今度は意識もなくなっちゃったみたいで沈んだまま出てこなかった。

 ただ、あみちゃんの体から赤い液体が滲んでくるだけ。

 さっきので死んじゃったか、あとは溺死するか、まあどっちでもいいや。

 わたしは汚れたナイフを洗うために水道に向かった。

 子供の背の高さくらいの小さな水道の蛇口を捻って水を出す。

 鼻歌を歌いながらナイフを洗った後、ハンカチで刃を拭いて腰の鞘に戻す。

 くるりと後ろを振り向いて噴水の傍までやってきた。

 あみちゃんが水の中から上がってくる様子はなくて、うつ伏せのまま赤い液体を吐き出し続けている。

「よし、死んだ!」

 わたしは指をぱちんと鳴らして噴水に背を向けてポケットからスマホを取り出した。

 連絡先から紅条舞華を選んでコールボタンを押そうとして手を止めた。

「あ、そういえばお兄ちゃん。今日バイトだって言ってたなぁ……」

 気が変わりました。

 お兄ちゃんに合うついでに舞華さんにゴミ処理を頼みましょう。

 わたしはるんるん気分で歩き出した。

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いもさき~いもうとはさつじんき~ わたり楓 @huunotkaede

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