貴女とともにある世界~ノンケ少女が百合に堕ちていくお話~

羽消しゴム

遭遇と出会い

「───で、あるからして」


退屈な数学の授業。

全く頭に入らない黒板の筆跡を真似しながら、欠伸を噛み殺して窓から覗くグラウンドを眺めていた。


太陽の日差しを受けてキラキラ輝く窓は眩しいけど、そこから見える景色に気を取られている私は気に留める余裕はない。


「……すっご。めっちゃかっこいい」


瞳に映るのは、緑色のサッカーコートの中心を走る、爽やかなイケメンの姿。その光景に思わず、ほうっとため息を吐く。


陸原リクハラ 優斗ユウト】先輩は私の憧れの人だ。初恋……ではないけど、“宗純高校”に入ってから初めて好きになったと言える男の人だと思う。


サッカー部でキャプテンでイケメンで頭も良くて、おまけにとっても優しい。初めて会ったのは高校の学校説明会で、大人っぽい雰囲気と顔がいいのも相まって一際目立っていた。


「はぁ〜、反則だよぉ」


風邪で靡くカッコイイ顔を眺めて、思わず顔を覆ってしまう。


「おい白崎。そんなに私の授業が面白くないか?」


「へっ!?お、面白いよ!」


「嘘つけぇ!思いっきり窓の外眺めてただろうが!」


私が授業を真面目に聞いていないのが分かったのか、数学担当の【青木アオキ ユウ】───ゆーちゃん先生が怒髪天を衝いていた。


不味いなぁ。ゆーちゃん先生は怒ると面倒臭いんだよね。


顔は可愛いのに、ちょっと目を離しただけですぐぷりぷり怒ってくる。そんな所も可愛い!ってクラスの男子達から好評だ。男子の考えていることは時々分からない。


私はゆーちゃん先生に平謝りしながら、可愛ければ優斗先輩も振り向いてくれるかな?なんて考えてしまう。同じ男子だし。


まぁ、可愛くて胸も大きくて仕事が出来そうな雰囲気があるゆーちゃん先生と、なにもかも普通な私を比べるなんて大それたこと出来っこないけどね。


あの後も結局数学の授業は頭に入らなくて、高校のチャイムが鳴り出した。未だにゆーちゃん先生はぷりぷり怒ってたけど、「もし体調が悪いなら保健室に行けよ」なんて言って教室を出て行ったから、思っていたよりは怒ってないのかも。


ああいう面倒みのいい所が、私とゆーちゃん先生の違いなんだろうなぁ。

これがモテる女の凄さか……と若干凹む。


そして、私の頭を優しくポンポン撫でられる感触にふと顔を上げた。


「お労しや百合香ユリカ……で、なんでゆーちゃん先生に叱られてたの。もしかしてまた優斗先輩の顔でも眺めてた?」


「うっ、流石我が親友。私の行動は丸わかりか」


「ふふん、伊達に幼なじみしてないからねぇ〜。まっ、振り返って貰えるように頑張れ!としか言いようがないよ私も」


そう言って更に撫でる速度を早めた我が親友───【綿雪ワタユキ 瑠々ルル】に苦しゅうないと告げながら、次の授業準備を始める。


てきぱき手を動かして教科書やらを取り出す私を見て、瑠々は可笑しそうにくすっと笑った。


「ふふっ、ほんと百合香って真面目ね」


「むぅ、そりゃ私は『第六感リベレーション』がないからね〜?瑠々とか優斗先輩みたいな凄い『第六感リベレーション』があったら良いなとは思うけど、無いなりに頑張らないといけないから」


「……何言ってんの。百合香はすごく頑張ってるよ?私が保証する!」


「あ、ありがと……」


「おぉ?もしかして照れた?照れたよね!?」


「照れてないし!」


瑠々はいつもこうだ。

私のことを素直に褒めてくる癖に、お礼を言った途端ニヤニヤしながら弄ってくる。


見た目は昔から変わらず綺麗なままで、昨日も告白してした男子を振ったらしい。私は優斗先輩以外は眼中にないけど、今まで食べてきたパンの数より振った数の方が多そうな瑠々は……もしかして気になる人でもいるのかな?


だとしたら親友として品定めはしておきたい。私の瑠々に変な虫が着いたら困るしね。


我が親友と恋仲になりたくば私を倒してからにしろ!


「なんでドヤ顔してるの……?」


「魔王城で勇者から瑠々姫をとられないよう守るラスボスしてた」


「……意味がわかんないだけど」


ハテナのマークを浮かべる我が親友の額にでこぴんし、移動教室のため教室のドアを開けて外へ出る。

瑠々はでこぴんで痛がる素振りを見せつつ、「待ってよー!」と追いかけて来た。この親友私のこと好きすぎるだろ。


ほんと、私みたいな普通のやつ……落ちこぼれと話してくれるのは瑠々だけだ。


「次って確か、第六感リベレーション制御だよね?」


「そうそう。あーあ、瑠々は良いとして……いつ出るのかなぁ、私の第六感リベレーション。もう待ちくたびれたよぉ」


「うーんどうだろ。案外すぐ、ぱっと発現するかもよ?」


「今年で16の私に希望はないよ……」


「大丈夫だって!第六感リベレーションも胸も出てくるって!」


「……どうやら瑠々は喧嘩を売りたいらしいね?」


「じょ、冗談だってぇ〜!」


───『第六感リベレーション

それは人間に備わる先天的な五感の後に、後天的に発現するもう一つの感覚だ。第六感リベレーションが発現すると、発現する前の普通の人間と比べて非現実的なことが出来るようになるんだとか。


例えば体から火を出したり、宙に浮いたり、テストの解答が分かったり。凄いものだと、自分の望む未来が視える能力何かもあるらしい。


私には到底考えも付かない世界だけど、普通は小学生くらいから発現する第六感リベレーションが未だにうんともすんとも言わないのだから、心配になるのもしょうがないと思う。


デリカシーに欠ける瑠々より足早に教室へ向かいながら、いずれ発現してくるだろう能力を考えてみる。

だけど、思ってたよりもしょぼい第六感リベレーションだったら確実に寝込む自信があるので、あんまり期待を膨らませないようにしとこう。


そんな考えに至った瞬間───。


「きゃぁぁぁあああっ!?」


───私が歩くだろう廊下の天井をぶち抜いて、誰かが悲鳴を上げながら落下してきた。

地震でも起きたんじゃないかと錯覚するほどの衝撃が辺りを襲う。


白煙と爆風を撒き散らしながら墜落?してきたソレは、廊下の中心に大きなクレーターを作っていた。


辛うじて怪我はなかったものの、もう少し歩くのが早ければ直撃してきたという事実に顔が真っ青になりそうだ。ていうか通り越して真っ白になってると思う。


「いてて……」


「っ!?だ、誰かいるの?」


クレーター、白煙が晴れない廊下の中心から、痛みを堪えるような女性の声が響いた。


吃驚して声をかけたけど、及び腰で立とうと思ってもなかなか立てない。


「ゆ、百合香!?大丈夫ー!?」


「……一応ね。でも、誰かいるみたい。多分人だと思うけど」


「人?天井を突き破って?……だとしても生きてないでしょ」


慌てて駆け付けた親友に無事を報告するも、現状を把握しきれていない私達。後ろを振り返れば、野次馬のように遠目から見守るクラスメート達がいた。


多分大きな音を聞きつけてやってきたんだろうけど、私以外には間近で衝突しそうになった人はいなさそうだ。取り敢えず一安心。

教科書を持ちながら、ふぅと軽く胸を撫で下ろす。


「けほっ、けほっ!」


私達じゃない。クレーターの周辺から、咳をこぼすような声が聞こえてきた。やはり衝突してきたのは人?らしい。


やがて白煙が開けたその先には───


「ふぅ、酷い目に合いました……あれ?見つけた!!」


───すっぽんぽんになっている美少女がいた。

しかも何故かその子は、私を見るやいなや全力で抱き着いてきたのだ。


いきなりのことで反応出来ず、されるがまま抱き締められている私とは対照的に、瑠々は女の子と私を引き剥がそうと力を込める……が、なかなか拘束が取れない。


「ちょ、ちょっと待ってよ!貴女、一体誰!?」


埒が明かないと踏んだ私は、そこそこ大きい瑠々よりも数段大きな胸に圧迫されながら、何とか女の子に言葉をかける事が出来た。


「ん?えーとね、私は───」


だが、帰ってきた言葉は私の想像の遥か先をいくもの。


「───百合香ちゃんの将来の“お嫁さん”かな?」


「……えぇぇぇぇ!?!?」


私、この子知らないよ!?

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