無人、販売いたします!
砂漠の使徒
ある男の日記
家の近くに無人販売所ができていた。
あそこは長らく空き地だったんだが、昨日通りかかると簡素な小屋が建っていた。
ピカピカの看板には、『無人販売所』とだけ書かれていた。
明日、行ってみるか。
――――――――――
小屋の中に入ると、テーブルが置かれていた。
そこには、利用案内と申込書なるものが並べられている。
その隣には、赤と青の箱が二つ置かれていた。
商品らしいものは見当たらない。
まだ準備中なのか?
少しがっかりしたが、とりあえず紙に目を通す。
「当社の画期的サービス、無人販売所へようこそ!」
いや、画期的って……。
無人販売所なんてありふれたものだろ。
と思いながら読み進める。
「昨今、無人販売所は珍しいものではありません。しかし、当社はこの無人販売所で無人を販売しているのです!」
なんのこっちゃ。
無人ってなんだよ。
「赤色の箱に料金を、青色の箱には備え付けの専用紙に無人を希望する場所や日時などを記入の上、投函ください。なお、料金の規定については裏面を参照ください」
まだ話がつかめない。
しかし、なんだか面白そうなので買ってみることにした。
申込書を一枚取り、ペンを持つ。
えーと、場所は……。
――――――――――
ヤバい。
なんてすごいものを見つけてしまったんだ。
無人販売所は、本当だった。
俺はなんとなく近所の図書館を無人にしてみることにした。
町の小さな図書館だが、それでもそこそこ広いので人もよく来る。
無人になってるところなんて見たことない。
けど、本当に無人になってた。
俺以外、誰もいないんだ。
ただ、ちょっと困ったのはさ。
司書もいなくなってるから、借りられない。
今度は、どこを無人にしよう。
――――――――――
今日は海へ行ったぜ!
GWだから大混雑……のはずなんだが、人っ子一人いない!
これも無人販売所のおかげさ!
のびのびと静かな休暇が過ごせてスッキリしたぜ〜!
ただ、無人って高いんだよな……。
そろそろお金が尽きそうだ。
そうだ、あそこを無人にすれば。
――――――――――
やった!
成功だ!
銀行を無人にして、強盗してきたぜ!
お金を集めるのは手間がかかったが、誰もいないんでゆっくり盗めたぜ。
へへ、これだけあれば一生遊んで暮らせ……
――――――――――
「ったく、誰だよ」
せっかく気持ちよく日記を書いてたってのに。
こんな夜中に訪ねるなんて非常識だぞ。
「だれすかー?」
インターホンなんてもんはこのボロアパートにはないので、ドア越しに尋ねる。
「お世話になっております。私、オーバーテクノロジー社の田中と申します」
どこの会社だ……?
なんか聞き覚えはあるな……。
「日頃から当社のサービスをご利用いただきありがとうございます」
「サービス?」
「無人、使い心地はどうでしょう?」
「あ、あぁー! あんた、あの無人販売所の人か! うん、すごいなあれ!」
「ご満足いただけているようでなによりです。しかし……」
突然声色が変わった。
にこやかなセールスマンという感じが消え失せ、急に冷たくなった。
寒気がする。
「規約違反がありました」
「え?」
「犯罪行為への利用は、処罰の対象になると記していたはずですが」
「あー……そんなこと書いてたっけ?」
「……」
淡々と、とめどなく流れていた言葉が止まった。
沈黙が恐ろしく、冷や汗が流れる。
「すまん! 今度から気を付けるからさ!」
「いえ、もう次はありません」
「へ……?」
――――――――――
翌日。
男の住んでいた部屋は無人になっており、この日記だけが残されていた。
なお、件の無人販売所はどこにも存在しなかった。
(了)
無人、販売いたします! 砂漠の使徒 @461kuma
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
空っぽの人生/砂漠の使徒
★3 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます