1000年先も

ひよこもち

1000年先も


 

 未来からきた商人が、不思議な品物を売って

います。

 ガラスの小瓶に詰まった、紫色の液体です。

 

「みなさん、これは未来の技術で作られたインクです! ただのインクじゃ、ありませんよ! このインクで書いたものは、千年だろうと、二千年だろうと、消えることなく残るのです! 雨風にさらされたって、色せひとつ、おこりません!」

 

 商人の口上を、通りかかった宗教家が聞きまし

た。

 

「素晴らしい! さっそくこのインクで教典を記し、全能なる神の教えと、教祖さまのありがたいお言葉を、すべての人類に知らしめねば!」

 

 次に通りかかったのは、政治家です。

 

「それはいい! このインクで我が銅像の横に我が名と華々しい功績を記録させ、後世まで語りつがせねば!」

 

 最後に通りかかったのは、小説家です。

 ちょうどインクを切らして買いに行く途中でした。けれど、商人の口上を聞いて、彼は慌てて小瓶を商人に押し返しました。

 

「とんでもない! 千年どころか、十年先まで残せるような作品すら書けたことなどありません。一生かかっても、僕には書ける気がしません。でも、いいんです。僕の書いたものを読んで、いま生きている誰かの心が、ちょこっとでも軽くなったら。それで、明日も生きてみようと思えたら。それだけで、もう、充分すぎるくらいです」




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1000年先も ひよこもち @oh_mochi

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