第7話
追手の素顔を隠していたものがずれていたので、ふと気になりそれを外した。
「この顔!」
横で見ていたベーセルが声を上げた。
「知ってるのか?」
「ああ、私が例の施設にいた頃に私と同じように実験台として使われていた友人だ」
「そうか・・・・」
ベーセルの顔を見る瀬上はそれ以上聞く気にはなれなかった。
「やはり敵の拠点に乗り込むのは彼女が起きてからにしてもいいか?」
「俺もその方がいいと思う、それに俺はただいるだけだから気にするな」
「そうか、そう言ってもらえると少し気持ちが楽だ・・・・」
ベーセルはコンクリートの冷たい床に寝そべった友人の手を優しく握っていた。
「そういえば友人ならなんでベーセルの事を襲ってきたんだ?俺だけならまだしも、いくら研究所の奴らに言われたからって流石にさっきみたいに全力で矢みたいな氷を普通、ぶっ放すか?」
ベーセルの重い口が再び開いた。
「研究所の奴らは私たちを人として見ていないんだよ。もちろん研究所には叩かれ、蹴られても奴らに従わないような奴もいる。そういうとき研究者たちはどんな方法を使うと思う?」
「・・・・」
瀬上は彼女の苦し紛れで出て来た様なその問いに答えられなかった。
「手を加えるんだ、記憶にな」
「え・・・・」
「私も記憶の変えられた他の施設の仲間と会った時もそんな声を出した気がするな。だから私たちは従うしかなかった、あいつらに」
空いている彼女の片方の手は怒りを抑えるためかのように強く握りしめられていた。
「うっ・・・・うう、う」
声は地面に横たわったベーセルの友人からだった。
「大丈夫か⁉︎」
ベーセルは友人が目を覚ましたかも確かめずに彼女の体に手をかけた。
「さく、ら?」
うっすらと開いた彼女の目が横に動いてベーセルを見た。
「よかった、無事で・・・・」
目の端から涙が溢れてゆっくりと頬をつたって地面に落ちた。
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しばらくして、床で横になっていた彼女も体を起こせるほどになった。
ここでずっと疑問に思っていたことを瀬上は尋ねる。
「桜って?」
「?・・・・」
言われたベーセル日何のことかわからないという顔をしている。
「名前だ。さっきこっちの彼女が桜って、名前はベーセルじゃないのか?」
「そういえば言おうと思って言ってなかったな。私の本当の名前は夜咲桜なんだ。偽名を使っていたのは、最初は警戒してそうしたんだが意外にも長く瀬上がついてくるからどこで言うべきか、教えるタイミングを見失ってしまって。でも今考えるとベーセルっていう名前も・・・・これで引っ掛かるとは、お前もなかなかだな」
彼女はすでに笑いを堪えることを諦めていた。
「流石に笑いすぎだろ」
「すまん、でも」
やはり堪えられてはいない。
だが瀬上は笑う彼女を見て少し安心していた。
禁足地に足を踏み入れし者を異能者という、真の能力者は気ままな生活を送っていた~Don’t go in~ 涼梨結英 @zyugatunomochituki
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