第4話【デートは恋の初山場】

「夜咲。このショートケーキを頼んだんだがちょっと甘すぎて全部食べ切れる気がしないから食べてくれないか?」



俺は皿の上に乗っている、純白と真紅に彩られたショートケーキを眺めてから隣の夜咲の方に目線を移した。



「…ん、じゃあ私のコーヒーケーキを代わりにあげる。苦いのに挑戦しようとしたら思ってたより苦かった…。」



「了解、それじゃあ俺のショートケーキと夜咲のコーヒーケーキの等価交換と行こうか。」



夜咲が少ししょんぼりした表情のまま、目の前に置いてある黒いコーヒーケーキを見つめてそう言ったので、俺は自分のショートケーキを夜咲の前に置き、代わりに夜咲が睨んでいるコーヒーケーキの皿を自分の前に寄せた。



目の前に登場したショートケーキを見るなり、お菓子を買ってもらった子供のように目をキラキラさせてフォークで口元に運び、純白のクリームで包まれたケーキを一口食べた瞬間、自然と笑顔がこぼれている。



「…このショートケーキ、甘すぎず甘く無さすぎず絶妙なバランスになっていてとても美味しい。今までで5本の指には入る。」



夜咲はまるでスイーツの評論家の様な分析を、今まで聞いたこと無いくらいの早口でぶつぶつ言っている。



よっぽど甘い物が好きなのだろう、先程のコーヒーケーキの時とは比べ物にならないくらいの喜び方だ。



「急に早口だな。そんなに美味しかったなら俺としても交換して良かったよ。それじゃあ俺ももらいます。」



そして俺も黒いコーヒーケーキを口元へと運んだ。

口の中では一瞬にしてコーヒーの苦味が広がり、その後独特な風味が鼻を抜けていく。



確かにここの店のコーヒーケーキは、他のスイーツ店のコーヒーケーキと比べて比較的苦味が強く、甘いもの好きには少し厳しいものがあるだろう。



ケーキを交換した後、俺と夜咲はそれぞれ時間を潰すため会話をしていなかったため、10分ほどの静寂の時間が流れていた。



そうしているうちに時刻は11時43分。

暁斗と平崎の2人が集合時間に決めていた正午まで、時間が近くなってきた。



俺は手に持っていた本を閉じ、ふと隣の席にいる夜咲の方を見ると、真っ白の髪を絡ませた腕を枕にして気持ちよさそうに眠っている。



甘いケーキとミルクティーを食べて飲み、人の通りで少しだけ賑やかなテラス席で春の暖かい陽気を浴びていると眠たくなるのも仕方がないだろう。



こうして静かに眠っている夜咲は、その真っ白な髪色も相まってか、どことなくこの世のものでは無いと感じてしまう程である。



しかし、今回の目的である「暁斗と平崎を見守る」というものが残っている為、俺はやむ無く平崎を起こす事にした。



「おい、平崎。」


「…んっ…。おはよう月城くん。」



俺が呼び起こすと、平崎は小さな上半身を重たそうに起こして少し伸びをした後、虚ろな目で俺の方向を見てきた。



「はい、おはよう。もうそろそろ2人が集合する頃合だからな、もし寝てたままならここに来た意味が無くなるだろ。」


「…もうそんな時間なんだ。…結構寝ちゃってたな。」



夜咲は目を少し擦ってから、自分のポケットからスマートフォンを取り出し時間を確認すると、自分が思っていたより時間が経っていたようでそう口に出した。



「今から動くことになるから体を起こしておけよ。…っと言っている時に来たな。」



11時45分。

集合時間の15分前に暁斗が先に集合場所に現れ、何やらそわそわしながら辺りを見渡していた。



俺と夜咲は暁斗に見つからないよう、持ってきたキャップを被って目線を少し下に下げた。



俺が暁斗と目が合わないよう気をつけながら見ていると、隣に座っている夜咲が「ねぇ。」と言いながら俺の横腹をつついてきた。



「ん?どうかしたか?」


「いや、生徒会長くんなんで15分前に来たのかなって。生徒会長くんの方向からの電車ならここの最寄りに54分くらいに着く電車もあるのに。」


「あ〜…なるほどな。」



夜咲が不思議そうな表情をしながら俺にそう質問をしてきた為、俺は持っている使い所のないデート技術を説明した。



「えっとだな。男側が15分から30分程前くらいに着いておくのが良しとされていてだな。デートの場合、プランを決めたり行く場所の情報を調べておいたりするからな。」


「なるほどね…。」



俺の説明に納得している夜咲だが、どこか気になる点があるような表情をしていた為、俺が「どうかしたか?」と聞くと少し不機嫌そうに俺の方を向いた。



「そんな情報を月城くんは知っているけど、どこかで使う機会があったりするの?」


「そんなものある訳が無いだろう。そもそもそういう恋愛に関しての何かは、ここ数年俺には無かった。」


「…そっか。それは可哀想。」


夜咲の質問に少し心を痛めながら答えると、夜咲は哀れむ様な表情をしながらそう言った。



「…そんな可哀想な奴を見る目で見ないでくれ。そもそも恋愛に興味が無かったわけだしな。」



と、半分強がりのようなセリフを吐いた後に暁斗の方向を向くと、丁度平崎と合流したところだった。

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恋愛小説の影の恋 ろくねこ @AR1a

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