第3話【話は序盤に急展開】
「…なぁ悠。唐突だけどちょっと相談に乗ってもらってもいいか?」
俺が鮮やかな黄色で彩られているだし巻き玉子を箸で口に運ぼうとしていた時に前に座っている暁斗が何やら悩んでいそうな表情で質問をしてきた。
今は昼休みの真っ只中、俺は生徒たちが雑談に夢中になって随分と賑やかな様子の教室の中で暁斗と共に昼食を取っている。
俺は箸で掴んだだし巻き玉子をそのまま口に運ばずに手で持ったまま暁斗の質問とやらを聞いてみることにした。
「おうどうした。珍しく課題でもやり忘れたか?それとも平崎さんの事か?」
「…後者だ。というか少なくとも前者の方に関してはよっぽどの事が無い限り起こることは無い。」
これぞ優等生という暁斗の解答に関心をしながらも、内心では『まあ暁斗が俺にしてくる相談なんて平崎の関連の事しか無いだろ』と思っていた。
ちょっと前者だったら面白かったのになと思いつつ、真剣な表情の親友にそこまでの事をする気にはなれず俺も相談をしっかり聞く。
「まぁ前者の事に関しては冗談だ。で、平崎についての俺に相談って何があるんだ?」
「いや…俺と平崎さんの関係を今の状態から進める為にはどうすれば良いのかと思ってね。」
「…だから遊びに行くとかそういう口実でもつけてデートに誘えばいいって前から言ってるじゃないか…。」
「そんなデートだなんて。流石に俺にはハードルが高いというか、2人っきりで遊ぶなんてしたら緊張で何も出来なくなるのは目に見えている。」
イケメンであり人気者、それでもってみんなに優しい生徒会長。そんな奴が羨む以外で誰かから妬みの視線を受ける事なんてほとんどないだろう。
と言っても本人は納得しないであろうから、俺はあえて暁斗に新たな提案をしてみることにした。
「…お前なぁ…んなもんまずはやって見なきゃ分かんねぇじゃねえか。そんなにハードルが高いって感じるなら生徒会の備品を買いに行くって口実で行けばいいじゃねぇか。」
「…なるほどそういう手があったのか…やっぱり頼るべきものは友人だな!」
「否定から入ったやつが何を言う…まあお前の悩みが解決したのだったら別にいいけどよ。」
そうして俺が軽めのアドバイスをすると、暁斗は早速放課後の生徒会の仕事の時に誘ったようで、俺のメッセージアプリに喜びの連絡が入っていた。
* * *
「…んで、なんで夜咲までこんな所に居るんだ?」
暁斗が平崎を誘った週の日曜日。俺は暁斗に指示をした責任がある為2人の後をつけてみる事にした。
俺は集合場所にされていたショッピングモールの目の前にある、木目で辺りの建物と比べると少し浮いているオシャレなカフェで2人が来るのを待っていた。
今か今かと2人を待っていると、この店では人気のあまり無いテラス席に珍しく客が案内されていたので横を見てみると、そこには白い髪をなびかせながら注文表を眺めている夜咲の姿があった。
そして思わず声が出てしまい今に至るという訳だ。
「…月城くんこそ、なんでこんな所に。」
「なんでって…俺がここに居て何か変かよ。俺だってコーヒーの味は好きだしよく飲むからな。そんなに俺がカフェにいるのが想像つかないか?」
「見当違い…月城くんはこういう賑やかなカフェとかには行かなそうだから予想外。」
こっちからすれば、人との関わりをほとんど絶っていると言われても納得出来る夜咲が、こんなに賑やかなカフェにいるという方が予想外である。
誰よりも真っ先にこういう所を拒みそうな人物ではあったが、思ったよりも許容範囲は広いんだなと改めて思った。
「お前なぁ…まあ確かに俺も賑やかな場所はそこまで好きじゃない。今回は暁斗と平崎を見守る特例だ。」
「…ストーカー。」
「…人聞きの悪い言葉で人を呼ぶな。せめて恋のキューピットとでも呼んでくれ。」
「月城くんは天使というよりかはどちらかと言えば悪魔より。暗いし。」
「お前が言うなお前が。暗いイメージなのは良さキモ一緒だろ。」
俺が夜咲の発言にツッコミを入れると、夜咲は少し不機嫌そうな表情をして届いたミルクティーを口元へと運んだ。
夜咲の顔が高校生にしては幼く感じるからか、どことなく親に怒られて拗ねる子供の図が頭の中に思い浮かんでしまい、俺は思わず笑いそうになるのを抑えた。
「…んで、話を戻すが、なんで夜咲はここに居るんだ?いつもこのカフェに来ている常連…にしてはさっき場所の確認をしていたよな。」
「彩香の見守り。あの子が生徒会長くんと休日に出かけるって浮かれているようだったから、心配になって影から見る事にした。」
「ストーカーじゃねぇか。」
「うるさい。」
俺達は先程もした様な気がする会話のキャッチボールを淡々としながら、各自自分が注文をし机に置いてある物を飲みながら2人が来るのを待った。
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