第2話【恋の話は目次から】
「…という訳で、ここからはこの数式を利用して計算すると…」
黒板の前に立っている教室がコツコツと黒板とチョークとぶつかり合う音を出しながら板書をしている音は何となく眠気を誘われるものである。
時刻は正午を回り14時10分。5限目の終了までの時間は残り15分程度であり、昼食後の講義授業+晴れ渡っている春の陽気が窓から差し込んでいる事もあってか普段授業中に眠気を感じない俺ですら少し頭がぼーっとしている。
教室内は教師の話している声のみが聞こえそれ以外は静寂に包まれており、辺りをグルっと見渡してみるとそこらかしこで机にくっついていたり、腕に顔を乗せて眠っている生徒ばかりだ。
そんな中でも暁斗と平崎のツートップは何事も無いと言わんばかりに黒板を眺めては板書を繰り返している。
こうしてただただ授業を受けているだけで絵になる2人を尊敬していたのだが、それ以上に視界に入ってくるのは髪で顔が全て隠れたまま眠っている夜咲だ。
前の席の奴が身長の高い男子で、夜咲との身長差的に黒板前にいる教師からはもし夜咲が寝ていたとしても前の男子で隠れて見えないのである。
真っ白な髪の毛によって埋もれている様子を見て、『まるでクラゲみたいだな』と思いながら眺めていると前から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「おい、月城。何をぼーっとしてたんだお前、…そんなに他所を見る余裕があるのならこの前の問題を解いてみろ。」
教師は俺の方向をじっと睨むように見つめながら黒板にチョークで書かれた演習問題をコンコンと叩いている。
俺は面倒くささを感じながら軽くため息をして自分の椅子から立ち上がり黒板の前へと向かい、少しニヤニヤしている教師から手渡された白いチョークで解答を書いていった。
先程聞いていたより黒板のコツコツという音が鮮明に聞こえ、指を進ませる後には白い線が引かれていく。
頭の中では黒板に書かれている問題を考えつつ、それと同時並行で考えついた解答を書き写していき、書き終えた所でチョークを黒板したの受け皿の所に置いた。
「…正解だ。も、もう戻っていいぞ月城。」
この教師は俺が授業を聞かずにいた事で『きっとこの問題は解けないだろう』と思ったのか、俺が正答を書くとどこか悔しそうな表情をしていた。
なので俺は教卓の前から自分の机に戻る前に、目の前の悔しそうな表情をしている教師の前で止まって言った。
「もし俺が問題を解くことが出来ず悔しがっているのをバカにして楽しみたいのでしたら、もう少し難しい問題を出したらどうですか?…まぁそんな問題を考える事も無理でしょうけどね。」
「…ぐっ!…」
俺が捨て台詞のように教師の目をしっかりと見ながらそう煽ると図星をつかれたかのように同様するのと共に怒りが出ていると思われる表情をしていた。
そんな表情を見てフンっと少し煽りの笑いをして自分の机に帰っていくと、俺の後ろからは機嫌の悪そうに授業を再開させる教師の声が聞こえたが、俺は気にもせず椅子に座った。
* * *
「今回も随分と派手にやったもんだな悠。あの数学の教師、あまりに機嫌が悪かったから授業の終了と同時に教室から出ていったぞ。」
授業が終わり俺が次の時間の準備をしていると、俺より少し前の席から暁斗が少し笑うような声で話しながら近づいて来た。
「そんなもの俺は知らん。元はと言えばあいつが絶対に解けないだろうと思いながらその解答を前に出させて黒板に書かせようとしたのが悪い。あいつの責任だ。」
「まぁ…それはそうなんだけどさ…でも悠がよそ見をして授業を聞いていなかったのも悪かった部分と言えばそうじゃないのか?」
「…それは結果負けた方が悪いということで。」
「…逃げたな。」
「うるせぇ逃げてねぇよ。…でもまあ確かにあの問題は今の俺たちが習っている所からさらに応用をしていった問題だからな。俺が解けないと思って余裕ぶっているのも納得だ。」
うちの学校は県内随一の進学校であり、もちろん教師達のレベルも高ければ授業の進みも早い。
だが、今回の問題はどう考えても今の俺たちのしている内容より先を進んでいる問題であり、もっと言えばあれは来年の高校2年生で習うような内容のはずである。
「あの先生は他の生徒に対しても高圧的な態度を取ったりどう考えてもキツめの指導をしていたりを繰り返して目をつけられていたからね。今回僕と平崎さんがその様子を目の当たりにしたからこれの対応は生徒会会議の議題に出させてもらうよ。」
「ああ、あいつの処分などについては頼んだ。」
俺は生徒会に入っていない為、あいつに関しての処分などの決定が生徒会会議によって決まるとなると、これ以上の俺の干渉は必要が無いだろう。
なので全てのことに関しては生徒会に丸投げをし、任せることにしたのである。
「やっぱり悠も生徒会に入ればいいのに。君がいればもっと生徒会の仕事も効率良く進むし内容もしっかりすると思うからいいと思うんだけどな。」
「前から言ってるだろ。俺は集団で群れて協力し何かをやる事が苦手なんだよ。今も忙しい時には手伝ってやってるんだから良いだろ。」
俺が暁斗の熱血的な俺の生徒会への入会推薦を受け流していると、よく見た美人が俺の目線の先にいる暁斗の後ろに立っていた。
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